富と幸運を招き入れる光の祭り「Deepavali」レポート

年末が近づくと、ヒンドゥー教徒の人々は光の祭り「Deepavali=ディパバリ」の準備を行われます。(Diwali「ディーワーリ―」と表記されることもあります)例年、10月末から11月初めのヒンドゥー歴第7番目の月の新月前後がディパバリになります。今年、2020年は11月14日に行われました。ヒンドゥー暦の新年に当たるため、日本のお正月にあたるお祝いです。
ヒンドゥー教の人々は、1年のスケジュールを記入する手帳をこの時期を境に新しいものにするのだそうです。気持ちが華やぎ、神聖な気持ちになるこの時期、シンガポールのメインストリートであるセラングーンロードは祭りの後も約1ヶ月間美しいライトアップが楽しめます。
なぜ光の祭りなのか?
歴史は古代インドまで遡ります。ヒンドゥー教の聖典のひとつでもある古代インドの長編叙事詩「ラーマーヤナ」。
この物語の主人公であるラーマ王子は、国を追放されてしまいます。その後、王子は魔王ラーヴァナとの戦いに勝利し14年間を経て祖国に戻ってきた際に、人々は街中の家々に灯りをともして王子の帰還を祝ったと言い伝えられており、その神話が現代でも引き継がれています。
ラーマ王子は、実はヒンドゥー教の最高神の1人、ヴィシュヌの権化と言われている人物でもあります。そのような理由で「光の祭り」の時期には街角のあちこちにキャンドルの絵が描かれ、人々はライトアップのためのデコレーションやキャンドルを買いに訪れます。

筆者がインド料理を習っている先生から送られた、ディパバリのしつらえの写真。世界各国のヒンドゥー教の家庭ではこの日、不要なものを処分してすっきりとさせ、家の中を綺麗に掃除してからキャンドルや電飾を美しく飾り、ご馳走を準備。マリーゴールドなどの花を飾り、家族同士であらかじめ用意しておいたギフトを交換し、神様に祈りを捧げます。
金運の女神を自宅に迎える準備をする
ディパバリは、聖典の中のラーマ王子の帰還を讃える日ですが、もうひとつ、
豊穣と幸運の女神ラクシュミに祈りを捧げる日でもあります。ラクシュミは、ラーマ王子の妻です。
ヒンドゥー教のお寺に行くと沢山の神様が祀られているので神話を読んでおかないと見分けがつきにくいのですが、「金運の神様」ラクシュミは、紅い大きな蓮華の上に乗り4本の腕を持っているのが特徴。桃色の蓮華の花を持ち、手のひらから勢い良く金貨が溢れてさせている女神がラクシュミです。なんとも縁起の良い神様ですね!

このお金の神様を自宅に迎える直前にあたるディパバリの前日には、多くの人々が金の製品を買い求め、身につけます。そうすることによって、幸運と金運を引き寄せることができると信じられているからです。リトル・インディアにはゴールドの専門店が多くあり、アクセサリーを購入している人々の姿が見られます。

ディパバリの前になると、アクセサリーブランドの広告が街に溢れます。様々な宝飾品ブランドがインドの有名女優を広告に使ってPRしています。この時期に縁起を担いでゴールドを購入するのも良いかもしれません。毎年この時期にはゴールドの需要が大幅に伸びるので、宝飾店はまさにかきいれどきとなります。
シンガポールの街中で、美しいサリーを身につけゴールドのブレスレットや指輪、ネックレスを沢山身につけている女性をみかけることがあります。筆者がインド人の友人から話をきいたところによると、インドの人々にとって、ゴールドは特別な意味を持っているそうです。
日本人の多くは資産を銀行に預ける人が大半かと思いますが、インドの場合は金を購入する人が多いとのこと。
誕生日やディパバリの日などにコツコツと買い集めていき、いずれ子供や孫に引き継いでいくのだといいます。その文化の背景には、インドにおける何千年もの歴史が関係しているとのこと。歴史や政治が不安定な時期が続いていたことから、ゴールドを資産にしておけば価格が下がることはなく、むしろ上がり続けるので裏切られることはない、と考えられているのだそうです。
日本人はプラチナやダイヤなどを身に着ける人が多いですが、インド人の場合は親和性が高いのは圧倒的にゴールドなのだそう。そう考えると、インド人街に軒を連ねる貴金属のお店のショーケースにギッシリとゴールドが並んでいる理由がわかります。
二階建てバスに乗って、光のアーチをくぐろう
さて、リトル・インディアのメインストリート、セラングーンロードは、毎年豪華な光のアーチがライトアップされます。きらめくイルミネーションを眺めながら歩くのも楽しいものですが、オススメはダブルデッカーのバスの2階席に座ること。光のアーチをくぐっていくのはなんとも気持ちがいいものです。

66、67番バスは光のアーチをくぐります。バスのアプリに「Double」と表示されたら二階建てのバスになります。
リトル・インディアではディパバリの準備が着々と進んでいた

10月頃からリトル・インディアは「Happy Deepavali」のメッセージで溢れていました。MRTリトル・インディア駅の階段には(Rangoli=ランゴーリ)の模様が。ランゴーリとは、ディパバリなどのお祭りや結婚式などのお祝い事の際に用いられる幾何学模様や花などをモチーフにしたインドの伝統的なアート。「福を呼び、神様を招く」とされています。
これらの作品は、今後1年間の家族への神のご加護を祈り、神を家に招き入れようという思いがこめられており、主に色のついた砂や小麦粉などを用いて床に描かれます。今年は密を避けて行われませんでしたが、昨年はリトル・インディアのヘリテージ・センターでランゴーリのコンテストが行われ、華やかな色彩の様々なランゴーリを一度に見ることができました。また、参加無料の子供用各種ワークショップも数日間に渡り行われ、オイルランプ用のテラコッタ製の小さな鉢に油性絵の具で着色をしてビーズを貼り付けたり、ミニランゴーリを制作することが出来ました。
また、来年以降のディパバリではイベントが再開されるかもしれません。インディアン・ヘリテージ・センターは毎年クリエイティブな企画をしているので、チェックしてみてください。
【INDIAN HERITAGE CENTRE】
https://www.indianheritage.gov.sg/en
リトル・インディアの駅を出て、しばらく歩くと見えてくるのが、インド関係の生活用品が揃うテッカセンターです。服飾エリアには、目が覚めるようなカラフルなドレスがずらり。ディパバリは新しい服で迎える人も多いため、サリーやパンジャビドレス(チュニックにパンツを合わせたセット)がセールになります。約30ドルぐらいから鮮やかなワンピースやドレスを買うことができます。

今年は、ドレスの裏地と同じ色のマスクがセットでついているドレスがありました。インド系の人々が、パンジャビドレスと同じ布が使われたマスクをしているのをよく見かけます。オーダーメイドのドレスならではのお洒落ですね。
また、ディパバリに備えてスイーツを買い求める人の列ができ、お菓子を売るお店は大忙しです。「ムルク」(揚げたスナック)や「アドヒラサム」(甘いドーナツ)などが飛ぶように売れていきます。


いよいよディパバリ当日!お寺にお参りへ
11月14日。ディパバリ当日の朝を迎えました。周辺駅では、美しいサリーを身につけ、リトル・インディアにあるスリ・ヴィーラマカリアマン寺院に向かう人々に出会いました。


リトル・インディアにあるスリ・ヴィーラマカリアマン寺院。女神カーリーを祀るこのヒンズー教寺院は1855年に建設されました。人々は入口付近で履物を脱ぎ、水道で足を清め、QRコードでエントリーをしてから中に入ります。



リトル・インディアで行われる数々のお祭りの際には、インドカリーやビリヤニ、甘くて濃い本格チャイなど軽食が無料で振舞われることが多かったのですが、今年はお寺の出口付近でパッキングされた砂糖菓子とバナナが配られていました。

スリ・ヴィーラマカリアマン寺院の目と鼻の先にあるインド料理レストラン「Komala Vilas」は、参拝が終わった人々が店内で食事をしたり、テイクアウトをするために集まっていました。
このお店は、リー・シェンロン首相がインドから来星したモディ首相と共に食事をしたことで知られています。

こちらがリー・シェンロン首相とモディ首相が楽しんだという軽食(写真中央)甘くないインドのドーナツとチャツネのセット「Vadai Set」(3ドル)
本格的なベジタリアンのインド料理メニューが、驚くほどにリーズナブルな価格で頂けます。
【メニュー】
https://komalavilas.com.sg/public/uploads/pdf/Komala_Vilas_Menu_New.pdf
1947年に開店して以来、シンガポール最古のベジタリアンレストランであるKomalaVilasは、シンガポール在住のインド人の間ではとても有名なお店です。
ナードゥ州タンジョール地区の昔ながらの伝統に従い、70年経った今もこの家族経営のお店は続いています。シグネチャーは、自慢のドーサ、そして香り豊かな南インドのコーヒー。南インドと北インド、両方の地方のベジタリアン料理を提供しています。フレンドリーな価格で美味しい料理が楽しめる人気店です。
【Komala Vilas】
https://komalavilas.com.sg/public/home
ディパバリが終わって…
筆者にインド料理を教えてくれているソラボ先生が「今年もディパバリを無事に祝うことができました」と、ご家族の写真、インドに住む親戚が自宅でお祝いをしている写真を見せてくれました。

美しいサリーを纏ったソラボ先生。日本人の生徒に教えるベジタリアンのインド料理が好評。

筆者もスリ・ヴィーラマカリアマン寺院で配られた砂糖菓子を頂きました。ほろほろと口の中で溶け、コンデンスミルクの甘さが広がるやさしい味です。
今年も1年、ヒンドゥー教徒の人々はもちろん、世界中の人々が穏やかに過ごせますように…

この記事を書いた人
YUKI KAMIO
singaporeが好きすぎ、散歩ばかりしているライター。趣味は建築見学。一番好きなローカルフードはローミー。ボタニックガーデンで深呼吸。