<20年9月まとめ>改定続くシンガポールのビザ要件。なぜ引き上げが続くの?リクルートグループのRGF社に聞きました
EPの発給基準額が一気に600ドル引き上げ
シンガポール政府は、2020年9月1日から管理・専門職系の高度技能労働者向けの雇用ビザ(Employment Pass=EP)の発給基準となる月額給与額を引き上げました。これは、2020年の5月に引き続く引き上げとなります。
これまでEPの発給に必要な最低月給は3,900ドルでしたが、それが一気に4,500ドルとなりました。その引き上げ額は、月額600ドル。日本円で約4万6,000円になります。
EPの発給基準の月給が高くなれば、企業側は人件費の上昇に直結しますし、労働者側にとっては、企業がEPの発行にためらうことで、シンガポールで働くチャンスが少なくなってしまいます。
では、なぜシンガポール政府は2020年になって、EPを含む労働ビザ発給のための基準給与額を相次いで引き上げているのか。シンガポールで人材紹介を手掛けるRGF Talent Solutions Singaporeに聞きました。
ビザ要件の厳格化は10年ほど前から
RGF:「そもそもシンガポールが外国人労働力を必要とする理由は、外国人が働く外資系企業を誘致することで、シンガポール人にとっても多くの雇用を生み出すからです。シンガポールが1965年に建国してから、これまでの高度経済成長を支えた外国人労働者の役割は広く認知されてきました。
しかし、経済的な成熟期に入った2000年代後半から、これまでのような高い成長率の維持は難しくなってきたことに加えて、シンガポール国民の雇用の機会が外国人労働者によって奪われているのはないか、という考えが広まります。それまで広く受け入れてきた外国人労働者のシンガポールへの流入を抑制する方向へと政府は舵を切りました」
2015年に現在の雇用パスの区分に
現在の主な就労ビザは、前述したEPの他に、中級技能向けのSpass、建設現場や清掃業などに従事する非熟練労働者向けの労働許可(Work Permit=WP)があります。起業家向けのなどのビザも別途ありますが、ここでは省略します。
このEP、Spass、WPの3区分は2015年から適用されました。
EPの給与基準は3年で1.25倍に
EPを発給するのに必要な最低月額給与水準は、学歴や年齢によって決められています。シンガポール政府は詳細な基準を発表しているわけではありませんが、一般的には、高学歴で年齢が低いほど基準給与額が低く、学歴が低く年齢が高くなるに連れて基準給与額が高くなる、と言われています。
下の図は、2017年以降のEPとSpassの取得に必要な月額給与の最低基準の変化です。
EP | Spass | |
2017年 | $3,600 | $2,200 |
2020年5月 | $3,900 | $2,400 |
2020年9月 | $4,500 ※金融業界は$5,000 | |
2020年10月 | $2,500 | |
2021年5月 | 更新分より上記金額に |
※MOMのプレスリリースより作成
EPでは、2017年に3,600ドルだった基準給与額が、2020年5月に3,900ドルに引き上げられ、2020年9月には4,500ドルになりました。さらに、金融業界に限っては、2020年12月1日からEPの取得に必要な最低給与額が5,000ドルとなります。
Spassも2017年に2,200ドルでしたが、2020年5月に2,400ドル、2020年10月からは2,500ドル、となります。
これからのシンガポールは「量よりも質」
今回の引き上げの目的は、シンガポール人の雇用をより優先するようにと、シンガポールにある企業へのメッセージということは明らかです。
シンガポール人材開発省(MOM)のジョセフィン・テオ大臣は「シンガポール人の労働をしっかり確保しながら、企業が必要とする人材を雇えるように調整を常に行っている」と述べています。
新型コロナウイルスの影響でシンガポールも経済に深刻なダメージを受けており、政府は、シンガポール人の雇用が外国人に取って代わられることがないよう、より厳しい制限を設けているものと思われます。
今回の改定の影響をRGF社に聞きました
RGF社は今回の改訂による労働市場への影響を以下のように、見解を示しています。
・EPやSpassですでにシンガポールで働いている場合
これらの労働ビザを更新する場合は、2021年5月以降の更新分より、前述の基準給与額が適用されるため、すぐに影響が出ることはありません。
ただ、Spassホルダーの方は、勤務先の会社が引き続きSpassを発行し続けることができるのかを、早めに把握し、次善策を考えておいた方がいいと思います。
・DPやPRホルダー
EPやSpassの給与額が上昇することから、配偶者ビザ(Dependant’s Pass=DP)やシンガポール永住権保持者(Permanent Residence=PR)ホルダーの方の労働市場での需要は必然的に上がります。
・今後シンガポールでの就職を考えている方
現在のシンガポールにおける外国人労働者への風当たりは、過去10年間で一番厳しい状況と言えます。それは、わずか4カ月ほどの間に、2度も最低基準が改訂されたのは初めてに近いからです。
また、これまで大きく変更はされて来なかったEPの基準給与額を算出するための大きな要素である、出身大学のカテゴリ区分が見直されました。最低基準額でEPが発行される大学は数がより少なくなり、ほとんどの大学でより高い給与基準値に引き上げらました。
シンガポール政府は引き続き、EPの給与基準額の引き上げを主張していることから、より限られた人材にのみ、シンガポールで働くためのポストが開かれることになっていくものと思われます。
RGF社が見解を示しているように、今後もビザ発給のための基準給与額の引き上げが続くようですと、シンガポールにある日系企業をはじめとして、人事戦略や海外拠点の設置場所などに影響を与えるでしょう。
記事監修:RGF Talent Solutions Singapore(https://www.rgf-hragent.asia/singapore)
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この記事を書いた人
SingaLife編集部
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