【保存版】DPホルダーの所得税について正しく知っていますか?
配偶者に帯同してシンガポールに来たけれども、やはり仕事をしたい!と思っている方は多いのではないでしょうか。シンガポールでは一定額以上の給与を得ているEPホルダーの配偶者等にはDP(Dependant Pass)という滞在ビザが発給されます。
DPホルダーは、一定条件のもと、シンガポールで働くことが認められています。DPホルダーが働く際の注意事項と、所得税に関しての情報をまとめました。今回知っておきたいDPホルダーの所得税の事情について、シンガポールの会計事務所「CPAコンシェルジュ」の代表・萱場玄さんにお話を伺いました。
Q DPホルダーが働く場合に知っておかなければいけない基本的なことは?
LOC (Letter of consent)の取得 又はEP (Employment Pass)へのビザ変更が必要になります。また、EPではなくS Pass という就労ビザもありますが、S Passは、雇用主である会社がシンガポール人等(シンガポール人と永住権ホルダーをいう、以下同じ)を最低4~7人(セクターによる)雇用しておかなければ許可されないため会社側の事情によっても取得可否が分かれることになります。
LOCは、一つの会社に付帯しているので、他の会社では働くことはできません。5年ほど前までは、DPのままで個人事業を登録してLOCを出すという方法が散見されましたが、弊社の知る限り、現在は認められていないので注意が必要です。
帯同でシンガポールに来られて働いている方のほとんどは、LOCによる就労といえるでしょう。
Q LOCの取得条件は?
ビザのステータスでいうと3つのパターンがあります。
① DPホルダー(ただしS passホルダーの帯同DPはNG)
② シンガポール人等の配偶者で長期滞在許可証(LTVP)ホルダー
③ シンガポール人等の子供(21才未満)
労働省(MOM)のLOCに関する情報はこちらから。↓
https://www.mom.gov.sg/passes-and-permits/letter-of-consent
Q 例えば、フラワーアレンジメントの資格を持っていて、単発で講習をして収入を得ることは可能でしょうか?
滞在許可(ビザ)の観点から言うと、たとえ単発であっても収入を得ることはNGです。
許可を持っていない人が自由にお金を稼げてしまうと、国内の事業者を圧迫したり、詐欺やトラブルが横行する恐れがあるため、それらを未然に防ぐために労働許可の制度があります。ですので、例えば、駐在員の奥様がフラワーアレンジメント講習を実施してお金をもらう、といった場合であっても、原則として労働許可を得る必要があるわけですね。
また、単発ではなく反復継続するのであれば、法人の登記や事業の登録に関する監督官庁であるACRAに事業登録を行う必要があります。
Q 最近のLOC取得状況について教えて下さい。過去と現在と比べてどうですか?
過去10年をみても、難易度はあまり変わりないように思います。EPと異なり、今のところは難しくなっている印象はありません。
Q LOCが審査で却下されることはありますか?
あまりありませんが、無くはないです。シンガポール労働省(MOM)のガイドラインには書かれてはいないかと思いますが、特に以下の二つは却下される可能性が高いといえます。
一つは、DPホルダーが株主になっている会社でのLOC申請です。実態としては個人事業主に近い形になるので、さきほどお話しました労働許可制度の趣旨からしても、一株でも株式を所有している会社でのLOC申請は極めて承認が出にくいといえます。
もう一つは、DPホルダーが会社のディレクターになっている場合です。DPホルダーは会社のディレクターに就任してはならないとされていますが、諸事情でディレクターに就任していることがあり、その場合のLOC申請も却下される可能性が高いといえます。
Q 給与が低くてもLOCは発給されますか?
弊社のお客様の実例を見る限り、給与が低いことを理由にLOCが却下されることはほぼ無いといえそうです。
Q ここからが、本題の税金の話になりますが、まず課税所得とは何か教えて下さい。
課税される所得です。基本的には収入から所得控除を引くと課税所得になります。
Q 所得控除とは?
例えば、会社からもらったお給料は収入もしくは所得と呼びますが、これがそのまま課税所得になるわけではなく、基礎控除などの一定の金額を差し引いて課税所得となります。この「所得から差し引ける一定の金額」を所得控除と呼びます。例えば、基礎控除と呼ばれる所得控除は、一律1,000ドルが収入から控除されます。
Q 年間の非課税限度額は?
収入が年間22,000ドルを超える場合の20,000ドルを超える課税所得に課税されます。計算式で説明しましょう。例えば、
所得収入23,000ドル
- 基礎控除1,000ドル
————————————-
課税所得 22,000ドル
この場合、20,000ドルを超える2,000ドル部分に所得税が課せられます。
Q 22,000ドルの収入なら?
22,000ドルを超えていないので、課税されませんし申告する義務もないとされています。基礎控除を引くと21,000ドルになるので、本来1,000ドル部分は課税されるはずですが、追加の優遇税制なのか、制度としては課税されないこととされています。
所得: 22,000
ー 基礎控除: 1,000
———————————-
課税対象額:21,000
簡単に言うと、22,000ドル超の収入があれば申告納税義務があると覚えておけばいいでしょう。
Q 所得税の申告の方法は?
日本で働く日本の会社員の場合は、毎月の給与の支払い時に所得税が天引きされているので、自分で所得税の申告手続きをしなくてもよい(一定の場合を除く)とされていますが、シンガポールでは基本的には自ら申告手続きを行う必要があります。
ただし、シンガポール税務署(IRAS)から、申告しなくていいですよというノーファイリングサービス(NFS)通知が届いた場合は申告しなくても良いとされています。NFS通知が届いた場合であってもIRASから課税通知が届き、納税しなければならないという点は変わりませんが。
Q 通知がこない(申告手続きが必須となる)理由は?
様々なケースがありますが、例えばシンガポールで働き始めた1年目で納税実績等の把握が難しい方や、いわゆるIR8AをAIS: Auto Inclusion Scheme (詳細は割愛)ではなく会社がマニュアルで行っている場合の社員の方などは通知がこない傾向にあると言えます。
ここまでをまとめると、「収入が22,000ドルを超えたら申告納税が必要、NFS通知がきたら申告はしなくても良いが納税は必要」と覚えておくと良いでしょう。
Q 課税所得が発生している場合の申告は簡単ですか?
全てオンラインで完了しますし、埋める項目も多く無いのでとても簡単です。申告期限はここ数年は4月18日(電子申告の場合)となっています。
シンガポール税務署 (IRAS) の以下サイトから申告できます。
https://mytax.iras.gov.sg/ESVWeb/default.aspx
Q 所得税の税率は?
シンガポールは、日本と同様の累進課税システムを採用しており、最低2%から課税所得の金額に応じて段階的に上がり、最高税率は22%となっています。ですので、収入が22,000ドルを超えてもまずは(20,000ドルを超える部分の課税所得について)2%の税金なので、心配するような額にはならないといえます。
Q DPホルダーがLOCで所得を得ている場合に、EPホルダーに影響があるのでしょうか?
日本の「103万円の壁」と同様に、DPホルダーの収入が年間4,000ドルを超えると、通常は2,000ドルとされている配偶者控除(所得控除の一つです)が認められなくなります。
EPホルダーの配偶者控除が認められなくなるとEPホルダーの所得税が増えることになりますが、2,000ドルの配偶者控除から計算すると、その実質負担額は140ドル~440ドル程度(税率はEPホルダーの所得水準による)となります。
「DPホルダーの収入が年間4,000ドルを超えるとEPホルダーの所得税が140ドル~440ドル程度増える」と考えておけば良いでしょう。
Q ほかにもいろいろな控除がありますが、その辺はどうでしょうか?
他にもメイド控除、子ども控除、ワーママ控除、生命保険控除などがありますが、それぞれに適用条件が定められています。
Q もし、所得税の申告が遅れたり、知らずに申告漏れになっていた場合は、EPホルダーの労働許可がはく奪されて、国外退去ということになりかねるのでしょうか?
申告遅延の場合は150ドル~1,000ドルの罰金、状況に応じて法廷への出頭命令がくることもあります。ただし、シンガポールに移住してきて初めての年で勝手が分からなかった、といった事情の場合は罰金を免除されることもあり、意外と柔軟ではあります。EPなどのビザに関しても悪質性によっては剝奪等の措置はあり得ますが、よほどのことが無い限りはビザ問題まで発展するケースは少ないでしょう。
納税は課税通知が発行されてから30日が期限ですが、納税遅延の場合は5%のペナルティーと、一定期間後は1か月経過するごとに1%のペナルティーが加算されていきます。また、納税遅延の状態で入出国しようとするとイミグレで止められることもありますので注意が必要です。
Q そのほかに気をつけないといけないことは?
LOCの更新でしょうか。LOCの期限は最長でDPの期限まで、つまりEPホルダーの労働許可の期限までとされていますので、EP&DPの更新の際には、DPホルダーの雇用主側の会社にもLOCの更新をしてもらう必要があります。
Q 最後に読者の方にメッセージをお願いします。
CPAコンシェルジュが運営するオンラインサロン「シンガポール入門 最新実務編オンライン」では、今回お話したようなシンガポールの各種手続きに関する実務ノウハウを週に2回(年に100本)ほどのペースで配信しています。月額の購読料$20で最新の実務情報や税金・経営関連の情報をフェイスブック経由でお届けしています。こちらからアクセスできます。
同時に、CPAコンシェルジュではスタッフを募集中ですので、会計事務所で働いていた経験のある方はこちらから是非ご一報ください。
シンガポール会計事務所CPAコンシェルジュ
設立: 2014年
代表: 萱場 玄
https://cpacsg.com/
この記事を書いた人
SingaLife編集部
シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!