【AERA With Kid`s 編集長に聞く 中学受験のトレンドと最新情報】
国外からも注目を集め、日本のメディアからも取材されることが多いシンガポールの教育事情。グローバルな教育を享受出来る一方で、本帰国後の子どもの進路に悩むご両親も少なくない。実際筆者の周囲でも、例えば子どもの中学受験の為に母子で先に帰国するケースなども複数見かける。
一児の母である筆者自身も子どもの教育については試行錯誤の連続だが、以前シンガポールで“当地の教育”について取材して頂いたことがある。
今回は、以前この取材をしてくださった「AERA With Kid’s」(朝日新聞出版)の編集長・江口祐子さんに「日本(主に首都圏)における中学受験のトレンドや最新状況」などについて聞いた。
本帰国後、子どもの進路に迷う方は必見!
お久しぶりです!江口さんは教育書籍の編集に携わられて、もう何年目でしたっけ?
今年でかれこれ12年目ですね。もう10年以上、学校教師、塾講師などの教育関係者や生徒の親などに取材を続け、編集業務も行っていますが、毎回変化や学びも多くて大変興味深い分野だと思います。
私が編集長を務めている「AERA With Kid’s」は週刊誌「AERA」の姉妹雑誌で、今年で創刊15周年を迎えます。主に小学生のお子さんを持つご両親をターゲット層にした教育情報誌で、「President Family」と並ぶ2大教育雑誌とされています。中学受験にご興味のある方にもよく読んで頂いていますね。
教育情報を扱うプロフェッショナルの江口さんから見て、最近の日本の中学受験はどんな状況でしょう?
ここ数年、首都圏の中学受験者数は増加傾向にあります。全国的には日本の子どもの人口は年々減っていますが、首都圏、中でも東京の小学6年生の人口は増加しているので、その影響もあると言われています。
ちなみに、2020年度の首都圏の受験率は14.3パーセント。受験者数は4万人を超えています(2月1日の私立中学入試)。 関西エリアでは、小学6年生の人口は減っていますが、受験率は9.64パーセントで、 6年連続で上昇しています。こういう結果を見ても分かるように、中学受験は今のご時世でも引き続き人気があると言えますね。
それは、なぜですか?
2021年1月の大学入試から、従来のセンター試験から大学入学共通テストへ切り替わります。これを機に大学入試改革を大々的にやる方向だったのですが、実際は難航しています。そもそもこの大学入試改革は、高校卒業までに点数を取るだけでなく、思考力や判断力を身に付けさせることを目的としたものです。
そのひとつとして、例えば「数学に記述式問題を入れよう」という改革案があったのですが、「採点に公平性が保たれるのか」などの議論が起こり、結局は先送りされることになりました。このほかにも英語に民間試験を導入する、などの動きもあったのですが、こちらも見送りになっています。
つまり「今後は大学受験ってどうなってしまうの?」と不安を抱える方が増える親御さんの中に「わが子には中高一貫校でしっかり学ばせて大学受験に備えたい」と中学受験を選択されている方が増えている気がします。
一般的な中高一貫校では、高校2年で6年間のカリキュラムを終え、高3は受験対策をする学校が多いですから。 もちろん「6年間通しで勉強できる」という理由以外にも、「学校独自のカリキュラム、海外留学などのプログラムが充実している」という点で中高一貫校を選ばれる親御さんも多いですね。
他にも中学受験が人気の理由はありますか?
特に首都圏では高校受験の学校の選択肢が減りつつある、という事情もあります。その理由は中高一貫校で、高校からの募集を停止している学校が最近は多いんです。私立の人気校の例だと、女子校の豊島岡女子、男子校の本郷などがそうです。公立中高一貫校でも武蔵や両国といった人気校が高校からの募集を停止します。そうすると、都立日比谷高や西高といったトップ高の次の層、いわゆる「2番手校」と言われる学校の受け皿が少ないんですね。
また、日本的な話をすると、高校受験には内申書(調査書)も関係してきます。内申書とは、成績だけでなく、学校生活をまとめたものを中学の先生が作成し、受験する高校に提出するものです。入試での点数と内申書の比率は都道府県や学校によっても変わってきますが、どうしても先生受けの良い子やまんべんなく勉強が出来る子内申書は有利ですよね。
なので、「後々内申書で苦労するなら、中学受験をしたほうが安心」というリアルな親の声も多数聞いています。
シンガポール在住派にとっては、気になるのが「帰国子女」枠という方も多数いそうですが、そのあたりの事情は?
私立の中高一貫校では、大きく分けて、中学受験時に
1:帰国子女枠を設ける学校
2:特に分けずに普通に受け入れる学校
3:帰国子女をメインで受け入れている学校
の3つのタイプに分類されます。
日本に戻ってからどういう環境で学ばせたいか、や、ご家庭それぞれの教育方針によって学校選びは変わってくるでしょうね。
「帰国子女はいじめられやすい」という説もありますが、私が取材し続けて受けた肌感覚では「それは気にしなくて良いのでは?」と思っています。「帰国子女=いじめられる」はちょっと古い感覚だと思います。なので、その学校に「帰国子女」が何人いるか、という数的なことより、子どものタイプと学校のタイプがマッチングするかどうかを見たほうが良いと思いますね。
なるほど。他にも「これは違うんじゃない?」と思うことはありますか?
エリート層の方に割と多いのですが、かなり前の情報だけで学校を判断しない方が良いと思います。取材していて意外と多いのが「夫があの学校って昔は底辺校だったよねと言っていた」とか、「祖父がその学校は聞いたことがないと言っていて」など、いわゆる伝統(名門)校でないと渋る方も多いのですが、この感覚でいると、学校選びが間違いやすくなってしまうと思います。
例えば、新しい学校や偏差値的には中堅校や下位校でも、ユニークな取り組みをしているところは沢山あります。先生の姿勢が柔軟だったり、改革志向の学校などは伸びしろがあると思います。
やはりそういった中で感じた、校長先生や進路指導の先生の話に共感できるかどうか、学校の対応に好感がもてたかどうか、の感覚が大事だと思います。学校説明会も今はオンラインでやっているところも多くありますし、疑問や不安あるようでしたら、直接学校に問い合わせてみてもいいと思います。もちろん既存の有名校には良さはありますが、そこだけにこだわり過ぎる必要はないのではないかと思います。
取材を通して印象的だった学校はありますか?
学校のプログラムにその学校独自の個性が表れている学校は面白いと思いますね。例えば男子校の「聖学院」。中学生では国内で農村体験をやったり、高校ではタイやカンボジアで研修をやったりと、単なる語学研修ではない、男子校ならではの体験学習が豊富です。
あとは共学校の「宝仙学園理数インター」。今の校長先生が多様性を打ち出していて、入学試験の種類は毎年10種類ぐらいあるんです。「プレゼン型入試」などもあるので、なにか一つでも得意なことがある子は有利です。
読者にメッセージを☆
私も中学生の娘がいるので、シンガポールで教育を受けさせることができているのは、素直に羨ましいです(笑)。お子さんにとても素敵な経験をさせてあげられていると思います。帰国後の地域によって、公立、私立などさまざまな学校の選択肢があるかと思いますが、お子さん自身がシンガポールにいた経験を本当に良かったと認められるような思春期を過ごしてほしいと思います。
また、帰国されたら色々想像と違ったことや面倒なことにも直面されるかもしれませんが、あまりマイナス思考にならずに、仮にトラブルがあっても解決策はきっとある、とポジティブにとらえていただきたいですね。
日本の教育は海外から比べるとまだまだ閉鎖的で、一律的なところが多いのは事実です。ただ、そんな日本の教育を「変えていきたい」と思っている先生や教育者の方もどんどん増えています。
私もそんな日本の新しい教育をどんどん発信していきたいと思っていますし、皆さんが感じたシンガポールの教育の良さもぜひ教えていただきたいと思っています。一緒に前進していきましょう!
この記事を書いた人
SingaLife編集部
シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!