【23年8月現在】激変するシンガポール就労ビザの最新状況をプロが徹底解説!
シンガポールの永住権を持っていない外国人がシンガポールで働くために必要になるのが、就労ビザ。シンガポールには、EPやSパス、ワークパーミットなどいくつかの種類の就労パスが存在します。
ただ近年、シンガポール政府は、就労ビザに関する制度を目まぐるしく変更しています。今回は、就労ビザにお詳しいCPAコンシェルジュ代表公認会計士の萱場さんに最新の状況をお伺いしました。
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シンガポールで就労するためにはどんなビザが必要になるか
シンガポールの就労ビザの種類で、日本人を対象としている主なビザは次の9種類です。
ーEmployment Pass(EP) ーS Pass ーWP(Work Permit)について(h3) ーTraining Employment Pass(TEP) ーPersonalized Employment Pass(PEP) ーWork Holiday Pass(under Work Holiday Programme) ーEntre Pass ーTech. Pass (2021年1月より導入) ーOverseas Networks & Experience Pass(通称ONE Pass)(2023年1月より導入) |
もちろん、このほかにも就労ビザの種類はいくつかありますが、日本人が関わってくるものといえば、主にこの9種類になります。
EP(Employment Pass )について
専門職や経営層、管理職を対象に発行される就労ビザです。日本からの駐在員の多くが、このEPを取得してシンガポールに赴任します。有効期間はケースバイケースですが、初回発行は1or2年間、更新後は2or3年間となるケースが多いといえます。
EPには最低月額固定給の基準が設定されており、国籍や年齢、学歴などによってその基準額が異なります。現行(2022年9月以降)ではEPの取得に必要な最低月額固定給を5,000ドル(金融関係は5,500ドル以上)と設定されています。
最低月額固定給は、学歴や年齢に応じて異なり、この最低基準額の5,000ドルは、高学歴で年齢が若い場合のケースです。最低基準額は年齢とともに増加し、例えば40代半ば以降だと10500ドルまで増えるという仕組みになっています。
なお、最低基準額をクリアしていても必ずしも承認されるとは限りません。
S Passについて
中技能熟練労働者に発給される就労ビザです。雇用しているシンガポール人やシンガポール永住権保持者の人数に応じて、政府から企業にSpassの発行枠が付与されるというシステムです。例えば、シンガポール人を10人雇用していれば、Sパス1枠与えます、というイメージです(業界により異なる)。
発行後、最長で3年間(新規の場合は最長2年)有効です。
EPに比べて最低給与が若干低く、現在は3,000ドルに設定され金融サービス業は3,500ドルに設定されています。こちらもEPと同じように、段階的に年齢によって申請可能な最低月額固定給が変わります。例えば45歳以上は最大5,500ドルまで引き上げられます。
今後の変更として2023年9月1日および 2025年9月1日以降、S pass申請資格のある給与がさらに変更されるので詳しくはこちらをご覧ください。
上記EPとS Passの最低月額固定給については、給与基準がそれぞれの条件を満たしているか確認できるSATというツールがあります(2023年8月から大きく変わる見込み)。
シンガポールの人材開発省が開発し就労ビザの自己査定ができるというもので、簡単に就労ビザが取れるかどうか確認できる優れものです。(ただし、このツールでOKが出てもビザが取れることが確定するわけでは無いことをご了承ください)
WP(Work Permit)について
WPの中には4タイプあります。
1)Work Permit For migrant workers 2)Work Permit For migrant domestic workers 3)Work Permit For confinement nanny 4)Work Permit For performing artists |
WPは、基本的には単純労働である肉体労働を担う外国人が対象となっており、業界ごとに国籍要件があります。例えば、ナニーであれば国籍がマレーシアに限定され、23歳から70歳まで申請することができます。エンターテイナーならば、雇用主がシンガポール警察が管轄のShingapore Entertainment license を所有し、バー、ホテル、ラウンジ、ナイトクラブ、パブ等で1日6時間労働することが要件です。
特段、最低月額固定給の基準は定められていませんが、申請は雇用主もしくは雇用エージェント会社が行う必要があります。
Training Employment Pass(TEP)
対象者は実務に関連する研修生で、現地で研修やトレーニングを受ける外国人や研修生が対象です。認定大学の学生や専門学生もしくは月額固定給が最低3,000ドル あること等が条件となります。有効期間は3か月で更新は不可です。
Personalized Employment Pass(PEP)
対象者:高所得や外国人専門家を対象としたビザです。雇用主に紐づけのEPとは異なり、個人に紐づく就労ビザになります。PEP申請のためには、既存のEP保有者の場合、固定月収が12,000ドル以上あること、国外からの新規申請者の場合は直近6か月以内の直近の月額固定給が18,000ドル以上であることが必要です(2023年9月から共に22,500ドルに引き上げ)。
なお、最長で3年の有効期限で更新が不可であること、離職期間が6か月まで認められる(6か月以内に就職する必要がある)こと、シンガポール法人のダイレクターに就任することができない、といった点がEPと異なる点といえます。
Work Holiday Pass(under Work Holiday Programme)
いわゆるワーホリビザになります。18歳から25歳まで(ワーホリ申請時点で25歳であればOK)の学生を対象としています。プログラム規定に基づき、6か月就労したり余暇を過ごすことができます。
Entre Pass
シンガポールでビジネスを始めようとしている起業家や、革新的テクノロジーを所有する事業を始める実業家や投資家向け。現時点で収入基準はないものの、資金調達や投資の実績のある起業家・投資家・実業家など、申請に一定の条件を満たしている必要があり、更新を重ねるごとにローカル雇用人数やビザ維持のための最低必要事業コストなどが増加するため、実際に事業規模を拡大していく必要があります。
Tech. Pass (2021年1月より導入)
大手や急成長したテクノロジー企業の創業者、リーダー、技術専門家向けの就労ビザです。初回発行から2年間有効ですが、収入基準や一定規模の企業・製品開発での経験の実績など条件があります。シンガポール経済開発庁が管轄し個人単位で申請することができます。
Overseas Networks & Expertise Passー通称ONE Pass(2023年1月より導入)
ONE Passの申請対象者は基本的に2タイプです。
一つが高額所得者で、前年の月額固定給が30,000ドル以上、もしくはONE Pass発行後のシンガポールでの月額固定給が30,000ドル以上あることが要件です。
もう一つが芸術・文化・スポーツ・科学技術・研究・学問の分野で優れた実績を上げている人向けで、最低月額固定給の基準はなく、実績を個別に審査され発行可否が決まります。
配偶者の就労基準の変更について
DP(Dependant Pass)とLOC(Letter of Consent)とWP (Work Permit)について
EP等の外国人就労者に帯同する家族に付与されるのがDPです。DPはあくまで帯同家族のためのビザですので、DPのみでは働くことはできません。しかしながら、DP保持者は以下の2種類の許可をもって働くことが可能です。
事業主のLOC
特定の雇用主に勤務する場合、かつてはLOCという就労許可証を取得すれば、DPを持ちながらDPを持ちながら勤務することができました。
しかしこの制度も2021年5月に改正され、原則としてLOCは、シンガポール人もしくは永住権保持者の雇用を生む事業主(個人事業主やシンガポール法人の持ち株比率30%以上の株主兼ダイレクターなど)のみに限り許されることとなりました。
ここでシンガポールにおける「事業主」について見ていきましょう。
事業主の定義は3パターン
LOC発給の条件とされる「事業主」の定義は3つあります。それぞれについてみていきましょう。
1)個人事業主になる ACRAという日本でいう法務局のような監督官庁に個人事業を登録すれば、個人事業主になることができます。個人事業登録を行いLOCを取得すれば、DPを持ちながら仕事をすることが可能になります。 2)パートナーシップとして事業を行う 3)会社を作って事業を行う DP保持者が会社の30%以上の株主であり、かつダイレクター(取締役)であればLOCの申請が可能です。 |
ここで説明したように、事業主用のLOCにも3つの方法がありますが、これらについて共通しているのは、シンガポール人を雇用しなければならない点です。
起業してから初めの1年間(DP有効期間がそれよりも短い場合はDP有効期間)は助走期間という位置付けで、シンガポール人を雇用せずに1人で事業をしてもよいとされていますが、LOCの更新(最初の取得から遅くとも1年後には更新の必要あり)についてはシンガポール人の雇用が条件とされています。
WP (Work Permit)
かつてのLOCは、「DPを持ちながら特定の雇用主に勤務する」ための就労許可証という取り扱いでしたが、上述の通り、2021年の改正後はLOCは事業主のための許可証に事実上変更となりました。現行ルール上、DP保持者が特定の雇用主に勤務する場合、LOCではなくWP (Work Permit) によることになります(日本人の場合)。
WPを取得するためには雇用主から申請が必要です。雇用主側ではSパスと同様、一定数のシンガポール人や永住権保持者の雇用によるWPの枠が必要(業界によって異なる。Sパスに比べて枠は多い)となり、外国人雇用税の負担(Sパスも同様)も必要になります。
Q、起業してLOCで働くのであれば、個人事業主が一番やりやすいでしょうか。 そうですね。 法人を作ると、カンパニーセレクタリーやローカルダイレクターの就任、株主総会や年次報告といった法人を維持するために求められる要件がさまざまありますし、そのコストも発生します。 個人事業主であれば、そういった手続きやコストは必要ありません。また、法人の場合は、法人税の申告と自身の個人所得税の申告が必要になりますが、個人事業であればあくまで自分の所得税を申告すればよいということになります。 個人事業主は、始めやすく維持もしやすいといって良いと思います。 Q、個人事業主の登録をして、企業と契約関係で事業をすることはできますか? できます。 ただ、個人事業として企業へサービスを提供することになるので、雇用関係では無い点は注意が必要でしょう。雇用契約ではないので、業務委託契約等に基づき、提供するサービスの条件とその対価を決めて進めることになるといえます。 2021年4月よりも前にLOCを取得して現在も引き続き勤務している人は、一般的な企業との雇用関係になると思いますので、不当解雇などの雇用法の対象になると思われますが、個人事業主はあくまで雇用されているわけではなく会社と業務委託契約なので、雇用法の対象とはならないということになるでしょう(法律事務所にご確認ください)。 |
S PassとWPの違いについて
最低月額固定給の差、雇用枠の制限、外国人雇用税の支払い額の3つで違いがあります。
1)最低月額固定給の有無 Sパスには最低月額固定給(3,000ドル)がありますが、WPにはその基準給与額は設定されていません。極端な例を挙げると、月額給与1ドルとしても申請することができます。 2)雇用枠 企業が当該パスの労働者を雇用できる枠が違います。WPの方がSパスよりも多くの枠が付与されます。業種によって異なりますが、サービス業の場合は、おおむねシンガポール人2人の雇用に対して、WPが1枠付与されます。 3)外国人雇用税(FWL: Foreign Worker Levy)の支払い SパスもWPも、雇用する人数に応じて税金のようなものをシンガポール政府に支払わなければなりません。このLevyの支払いは、EP雇用の場合にはありません。 業種や職種によって異なるものの、SパスとWPでは、月額百数から数百ドル程度を納付しなければなりません。企業にとっては、その分がコストになります。 労働者側が支払うことはありませんが、会社側からみれば、給与以外にFWLというコストが発生するので、人件費としては負担増になるといえます。 |
ビザの取得傾向について
シンガポールでは、毎年のようにEPを申請するための基準が引き上げられてはいるものの、ここ1、2年はその基準さえクリアしていれば審査自体は通りやすい傾向にあるといえます。
そもそもEPを申請した場合、MOMの返答には三つのパターンがあります。
1)すぐに承認 2)すぐに却下 3)追加資料の提出を求められる |
1と2は、分かりやすいと思いますが、問題は3のパターンです。
3の場合は、承認もしくは却下という結果が出る前に、監督官庁のMOMから追加資料の提出を求められます。その資料は、例えば、銀行明細や既存顧客のリスト、さらには事業内容をもう少し詳しく教えるようになど、項目はさまざまです。
却下の場合では、却下された理由が添えられていることが多いです。数年前多かったのは「その人には、この給与が見合わない」というものでした。この「見合わない」という意味が不明確で、高すぎるのかそれとも安すぎるのか、どちらにも取ることができます。
※ただしここ数年弊社では、上記のような理由で却下された事例はなく、一概に給与金額が理由で却下されることは減ってきているとも受け取れます。
例えば、申請者の学歴や年齢、職歴などを勘案した上で、EPの最低月額固定給ギリギリで申請しても、MOMから「高すぎる」と言われ却下されたこともあります。最低月額固定給ギリギリなので、これ以上下げると最低月額固定給に届きませんし、上げればさらに高すぎるとなりますので、そういったケースは、「そもそもその人にはEPは承認しない」という意味なのではないかと思っています。
EPは、人材用語で「PMET※」、つまり高所得を期待できる外国人が対象です。そうした高度な人材が、シンガポール人にそれらのスキルを教えた上で、いずれ母国に帰ってもらう。EPはこういった趣旨のビザなのだと思います。
※PMET Professional Managerial Executive Technical |
シンガポールで就職希望の方へメッセージ
シンガポールは物価が高く、日本と比べても1.3倍〜1.5倍ほどではないでしょうか。従って、稼ぐ場所としてはいいと思います。物価の高い国で稼げるスキルを身につければ、他の国どこに行っても働けると言っても過言ではありません。もちろん、シンガポールで働いたキャリアは、光るものになると思います。
<取材協力>
CPAコンシェルジュ 住所:2 Kallang Avenue, #07-25 S339407 電話:6904 9131 WEBサイト |
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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この記事を書いた人
SingaLife編集部
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