読めばわかる!シンガポールの兵役事情 SingaLifeスタッフが経験者にインタビュー 兵役中の生活とは?

シンガポールの徴兵制度。現代の日本人には馴染みのないこの制度ですが、ここシンガポールではすべての男性国民と多くのPR(永住権)保持者の男性の義務とされ、街中で軍服に身を包んだ青年を目にすることも、そう珍しくはありません。

自国にはない制度だからこそ、関心をおもちの方も多いのではないでしょうか。今回は、シンガポールをより理解するためのひとつのテーマ、徴兵制度について一緒に学んでみましょう!




シンガポールの徴兵制度とは

シンガポールの徴兵制度はNational Service(通称NS)と呼ばれ、18歳になった時点でのシンガポール国民およびPR(永住権)保持者の男性の義務とされています。

※専門職、技能職など、与えられているPRステータスによっては、例外があります


1965年のシンガポール独立後、イギリス軍はシンガポールより撤退し、シンガポール政府は自国の防衛手段を自分たちで強化する必要に迫られました。国が小さいため、十分な規模の常備軍を組織することが難しく、また志願兵の十分な確保も望めなかったことから、政府は義務としての徴兵制度を導入することを決定。1967年、国家服務に関する改正法施行と共に、青年たちの召集が行われることとなりました。

以来、徴兵制度はシンガポールの国家安全保障上の基盤と位置づけられ、現在も国防省(The Ministry of Defence/通称MINDEF)の管轄のもとに施行されています。


NSの対象年齢

該当者が16歳半に達すると兵役の登録通知書が届くので、そこにある指示に従って登録を済ませ、その後18歳になり次第、フルタイムのNSに入隊となります。ただし一部の教育コース受講過程にいる場合や、受講開始予定の場合などはNS猶予の対象となり、NSの開始時期は延期が可能だそうです。

大学は基本的に猶予対象とならないので、大学進学を希望する該当者は、ほとんどの場合先にNSをまっとうすることが必須です。そのほか、国を代表するアスリートのような人も、一定期間猶予の対象となるケースがあるようです。


NSの服務期間

一般的にフルタイムでのNSの期間は2年ですが、場合により期間が約2か月短縮される、例外のケースもあります。入隊前に各自が受ける健康診断の結果が良好で、なおかつIPPT(Individual Physical Proficiency Test)と呼ばれる個人身体能力検査の結果が、特に優秀だった場合です。

その場合、8週間の体力トレーニング期間(PTP:Physical Training Phase)が免除となり、NS服務期間が通常より8週間短くなります。NS期間例外の決め手となるIPPTは、入隊の2週間前まで何度も挑戦することができ、その結果は1年間有効とのことです。

IPPTは実際にどんな検査で、NSが2か月短縮されるにはどの程度のパフォーマンスが必要なのか、興味が湧きますよね?具体的にIPPTでチェックされる能力は、以下の3つです。

●腹筋(1分間で何回できる?)
●腕立て伏せ(1分間で何回できる?)
●2.4kmランニング(何分何秒で走りきれる?)

これらのチェックで合計61ポイント以上獲得し、またどの項目も最低1ポイント獲得できていることが、NSが2か月短縮される条件です。

年齢によってポイントの換算は違いますが、例えば22歳未満の場合、どんな結果を出せばこの条件をクリアできるのか見てみましょう。

【例】
腹筋:40回/1分=20ポイント
腕立て伏せ:40回/1分=20ポイント
2.4kmランニング:14分=21ポイント

この例では合計がぴったり61ポイントで、条件をクリアです。

下記のWEBサイトでは、年齢33歳までの設定でIPPTのポイントが計算できるようになっています。ご自分のポイントに興味のある方、ぜひ挑戦してポイントを計算してみてはいかがですか?

また、NSの期間には関わりませんが、肥満の度合いが高い場合、入隊後の訓練プログラムにフィットネスの要素が加わります。肥満度は体重を身長で割るBMI(Body Mass Index)で計られ、この数値が27を越えると肥満者向けプログラムの対象に。こちらのBMIについても、同サイトでチェックすることができますよ!
入隊前のIPPTおよびBMI (cmpb.gov.sg)


NSを免除されることはあるの?

NSは義務であるため、免除になる場合の詳細な基準などは明らかにされていませんが、PES(Physical Employment Standard)と呼ばれる医学的・身体的な基準が最下位のFランクに認定されると、兵役におけるいかなる業務にも不適合とみなされるようです。

近年では、身体的な理由のみならず、精神衛生上の理由で兵役免除となるケースも数多くあることが、国防相の口から語られており、専門委員会によってNSの遂行が可能と判断された者のみ服務する、というのが実情だとのことです。


登録からNS開始までの流れ

NSに登録する際にはいくつか入隊のための書類を準備する必要がありますが、その過程で、訓練の種類や配属先の選択にも関わる医学的特性を見るための、健康診断を受けることになります。

合わせて推理力、技術力、空間把握能力などを計るpsychometrics Test(サイコメトリック テスト)も行われ、複合的に各自の適性がチェックされます。サイコメトリックテストはサンプル問題も公開されているので、ご興味のある方はトライしてみてください。
サイコメトリックテスト サンプル問題 (cmpb.gov.sg)

健康診断の結果が特別よかった人たちは、先述の「NSの期間」の項目でふれたとおり、個人身体能力検査も済ませておく必要があり、これらの結果をふまえ、NS開始後の基礎軍事訓練の内容や期間が決まります


いざNS生活スタート!入隊初日の持ち物は?

入隊日には、襟つきのシャツに長ズボンを着用することが求められ、所持品についても細かく規定がされています。具体的に何を持参し、何が持参不可となるのか、見てみましょう。

●持参する必要があるもの

IDカード
予防接種や医療、健康状態に関わる書類
下着を含む衣類とハンガー
ロッカーのための南京錠
目覚まし時計
水泳用ゴーグル
洗顔用品
腕時計(ストラップは、プラスチックの暗い色に限る)
眼鏡(眼鏡使用者の場合。フレームはプラスチックの暗い色に限る。コンタクトレンズは、訓練中は使用不可)

こうして見ると、所持品は必要最低限で、物によっては仕様も細かく規定されているのがわかりますね。

一方で、持参が禁止されている物もあるようです。

●持参ができないもの

カメラやビデオ機器
携帯電話の充電ケーブル
貴重品
規定外の軍服など

「カメラつきの携帯電話はどうなるの?」と感じますが、完全に持ち込み禁止という訳ではなさそうです。ただし携帯電話の扱いについては、NS登録後に届くレターにて詳細を確認し、準拠する必要があるとのこと。

以上のような所持品規定から、NS期間は余分な物を持たない生活になることが想像できますね。


訓練の開始から配属まで

NSでの生活は、基礎軍事訓練から始まります。訓練期間や内容は、事前に確認された適正ごとに異なりますが、各自にとってこれから始まる新生活と文化に慣れるための期間でもあり、規律をもって組織の中で活動していくための、学びと適応のための期間とも捉えられています。

健康状態や身体能力が非常に高いと認められた人の場合、この期間に身体的なトレーニングのほか、武器の取り扱いなども学ぶことになるようです。

その後の配属については、事前に申請できる各自の関心分野や、基礎軍事訓練中に認められた各自の技能なども考慮して決められます。配属先は大きく分けて以下の3つです。

シンガポール軍(Singapore Armed Forces/通称SAF)
民間防衛軍(Singapore Civil Defence Force/通称SCDF)
警察部隊(Singapore Police Force/通称SPF)

これらはそれぞれ細かなユニットに分かれており、各ユニット内の身体を酷使する戦闘的な職務、救助や医療に関わる職務、輸送に関わる職務、管理的ポジションを担う職務など、さまざまある職務のうちいずれかに配属が決まるそうです。


SingaLifeスタッフが経験者に聞く!NS体験談

日本人にはなかなか想像がつかないNSでの生活。実際にはどんな場所で暮らしで、どんな訓練をするのでしょうか。貴重なその体験談を、若きシンガポール人兵役経験者が語ってくれました!

1日のスケジュールは?

入隊後、はじめの数か月はBMTと呼ばれる基礎軍事訓練に費やしますが、その間は朝5時ごろには起床します。毎日就寝は10時ごろで、その間、朝昼晩の食事と1日1時間ほどの自由時間を除くと、あとは訓練だけの毎日でした。

自由時間も、洗濯やシャワーなど、やるべきことをやっているだけであっという間に過ぎてしまうんですよ!食事も10〜15分ほどで済ませなければいけない時もあり、とにかく1日中訓練だったなと記憶しています。


テコン島ではどんな訓練を?

※テコン島は、現在シンガポール軍の軍事訓練のみに使われている島です。

BMTの期間をテコン島で過ごしましたが、腕立て、腹筋、ランニングなどのトレーニングを日々長時間こなし、体力的にとてもキツかったです。同じ訓練にチーム全体がついていけるよう、入隊前の個人身体能力検査をもとにチーム分けがされ、訓練メニューが与えられているようですが、自分のいたチームでは、簡単な武器操作のチュートリアルも受けました。

そのほか、2週間ジャングルの中でキャンプ生活をしたこともあります。ジャングルでは、もちろんトイレも自然の中で済ませます。食事も自分たちが担いで運べるものだけでなんとかしなければならず、訓練とはいえ自分にとっては本格的なサバイバル体験でしたよ!荷物の重さや屋外生活の暑さ、それから蚊とも格闘しました!


携帯電話は使用禁止?

訓練場所には軍事機密があるので、写真撮影などしないよう、規律が身につくまで携帯電話の使用はできませんでした。でも、それは最初の一時期です。コンセントなど大勢で共有するため、充電の仕方や使用場所についての規則はありましたが、NS中も定期的に家族に電話することなどできました


NSで辛かったのはどんな時?どうやって乗り越えた?

入隊してから最初の1〜2週間は、環境の変化にとまどいがあり、辛かったです。初めて会う人たちと、16人ひと部屋で暮らし、自由な空間も時間もほとんどありませんでしたから。

それを乗り越えられたのは、ルームメイトたちと苦労を共にして助け合っていくうち、深い関係を築けたからですね。毎日顔を合わせて、慣れないことを一緒に頑張っていく中で、自然と互いが心の支えになったような気がします。大変な日々だからこそ、距離がグンと縮まるんですよ!


NSで楽しかった思い出は?

テコン島での訓練のあと、司令官的な役職に配属となり、それから数週間台湾の施設で訓練を受けました。テコン島にいた時と比べてと体力的には楽になり、訓練とはいえ台湾という外国に滞在できたのがうれしかったですね。シンガポールにはない山に囲まれた風景や、多少過ごしやすい気候の違いが、NS中の気分転換になりました。


NSで得られたことは?

NS以前の自分と比べて、今の自分には規律や秩序が身についていると感じます。仕事場で物をきれいに並べてそろえ、環境を整えるということひとつを取っても、昔の自分にはなかった習慣です。また、これからも長くつきあっていける、心強い友人関係も得ました!NSは楽ではありませんが、得たものはすべて、今後の人生での財産だと思います。

ジャングルでのキャンプや大部屋での生活など、思った以上に大変そうなNSの体験談。苦労を分け合うからこそ友情が深まるというのも、なんだかわかる気がしますね。


2年では終わらなかった!?その後も続く予備役

NSの期間は通常2年間、とお伝えしましたが、それはフルタイムでのNSに限った話です。実はこのフルタイムの期間終了後も、引き続き予備役(Operationally Ready National Service/通称ORNS)として、通常10年の間、年間40日以内のORNSに召集される可能性があるのだそう。具体的に、先ほどのNS体験者にお話をうかがいました。

実は来月、初めて予備役を務めに行きます。予備役は、必ずしもNS終了からピッタリ10年間という訳ではなく、NS終了以降10回の呼び出しの可能性がある、ということのようです。

年間に2回召集を受けることもあるようですが、仕事や生活の状況などで、時期や、年間に参加する回数など、ある程度個々に調整することができます

自分の場合は昨年は召集がなく、今年は来月、1週間ほど務めて来ます。NSで経験した職務と関連したことをやるので、当時一緒に訓練した仲間と再会できそうです。

予備役に行っている間は職場から有給がもらえ、その分の資金は政府が負担するので、休みを取りにくいこともないですよ。

国が制度として設けている予備役だけあって、仕事を休むための環境も整えられているんですね。


女性も参加できるシンガポール軍のボランティア

シンガポール軍には、NS服務義務のある人以外も参加ができる、ボランティアチームもあるそうです。このチームはSingapore Armed Forces Volunteer Corps (通称SAFVC) と呼ばれ、以下の条件を全て満たす人が参加できるものです。

●シンガポール人女性、PR(永住権)保持者の一世、新たなシンガポール国籍取得者のいずれかであること
●年齢が18歳〜45歳であること
●身体的・医学的に服務が可能な状態にあること
●シンガポールの国防に貢献する意志があること

女性や外国人にも参加資格が与えられているSAFCは、より多くのシンガポール人やPRに国防に貢献する機会を与え、またシンガポールへの帰属意識を高めてもらうため、シンガポール国防省(MINDEF)が設立したものだそうです。

参加者は10年間訓練に参加することが期待され、期間終了後はSAFVCの予備役に登録となり、必要に応じて呼び出しがかかる可能性があるとのこと。10年間とは長く感じますが、召集がかかるのは年間2週間ほどが標準です。

それでも基礎訓練などは、基本的には2週間を滞在形式で過ごすことが必要とされ、日常から離れ集中した訓練を受けることがうかがえます。


制度を知ることでシンガポールを学ぼう!

今回は、多くの日本人にとって馴染みのない、兵役や徴兵制度について学んでみました。義務や制度の元となる、その国の歴史的背景や政治に関心をもつのも、各国や個人間の相互理解への第一歩ですよね。現代の日本にはない徴兵という制度に驚きを感じた方も、これを機会に、シンガポールに関する学びを深めてみてはいかがでしょうか。

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

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この記事を書いた人

SingaLife編集部

シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!

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