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こんな時だからこそBe Positive~ エグゼクティブシェフの挑戦

2020年6月19日からフェーズ2に入ったとはいえ、まだ規制が続くシンガポールで大きな影響を受けている業界の一つが「飲食業」。先の見えない状況下でネガティブになってしまう人も少なくない中、驚く程ポジティブに現状をとらえ、邁進している人物がいる。

今回はSpa Esprit Groupのレストラン「NOKA」のエグゼクティブシェフ、堰 琢磨さんに話を聞いた。

<インタビュー 秦野理恵>

秦野 :規制中はどのような状況でしたか。

堰さん:まず規制が入り始めた3月中旬頃から客足が明らかに減りました。どの店も似たような状況かとは思いますが、当店はショッピングモールの最上階にあるので、もろに影響を受け、売り上げは通常の半分以下にまで下がりましたね。その後、本格的な外出規制が始まり、店を閉じることになったんですが、当店は考え抜いた末、4月7日から6月2日まではデリバリーも一切しないことにしました。

秦野 :それはなぜですか。

堰さん:開けたところで、利益が見込めないと思ったからです。開ける以上は、食材費、光熱費、人件費が当然発生しますし、デリバリーフィーなど諸々考えたら、絶対赤字になると思ったんです。実際、デンプシー・ヒルにあるグループ会社の「オープン・ファーム・コミュニティ」は、テイクアウトの対応をしていましたが、一日の売り上げは約$1000という状況でした。NOKAならもっと下回っていたと思います。約2か月クローズしましたが、結果的に開けないで良かったと思います

秦野 :6月2日からデリバリーを始めた理由を教えてください

堰さん:自粛期間中は、やはりみんなネガティブになるんですよね。SNSにも悲観的だったりイライラしたりしているような投稿が増えて、「外出規制が7月下旬まで続くんじゃないか」みたいなネガティブ思考に陥った意見も複数出ていました。私は昔から「自分は運が良い」「悪いことばかりでなく必ず良いことが起きる」と信じて生きています。実際、ここまでも自分が願ったように進んできていますし、ネガティブに考える習慣がありません。

なので、今回もポジティブかつ、かなり冷静に状況を見ていました。今後は「With コロナ」にならざるを得ないから、規制の解除は予定通りだろうと思っていましたし、デリバリーを始めるにしても、政府に許可を申請して2~3週間はかかります。つまり、いきなり再開しようと思ってもすぐにできないんです。なので、再開するにあたり、事前の下準備が必要だと思い、まずはデリバリーをスタートすることにしました

6月19日から店内飲食が解禁になったのは飲食業者にとって嬉しい反面、「え、そんな急に?」と準備に慌てた方も多かったように見受けられました。でも当店の場合は、既に「Ready to go」という状況だったので、満を持してのスタートでした。

前例のないきつい状況下でネガティブ思考になりがちな中、ポジティブで冷静な堰さん。そんな彼の究極のポジティブネタとは?

堰さん:飲み会時などの前からの鉄板ネタなんですが(笑)

皆さんは楽しい時、どんな風に笑いますか?「ハハハ」って笑うでしょ。これを数字にすると、8×8=64、逆に辛い時はどんな感じでしょう?「しくしく」泣きますよね。これを数字にしたら4×9=36
笑顔の64と悲しみの36を足したら100になります。100をパーフェクトな状態と考えるなら、“辛い“(36)より、“楽しい“(64)割合の方が結局多い。つまり辛く思える状況があったとしても、全体で考えたら楽しい(ポジティブ)方が上なんです。辛い時って、そこにフォーカスしてしまいがちだけど、こういう風に考えたら、きつい状況でも乗り切れるんじゃないかって思うんです。

秦野 :なるほど、何か説得力ある! 

堰さん:でしょ!捉え方一つなんですよ。なのでCBの状況下、ネガティブな空気もあるけれど、僕は「ノーストレス」で過ごしたいと思います。昔からずっとこのスタンスでやってきました。これまでも本当に良いタイミングで転機が訪れて、結果的に良い方向に進んできていると思います。

そんな堰さんの経歴を振り返ります。

堰さん:海外生活のきっかけは、叔父がアメリカのワシントンDCで開いていた寿司屋でした。それは1999年頃ですが、アメリカで寿司ブームがあり、「その流れでオープンした店を僕にも手伝ってほしい」ということで、25歳の時に渡米しました。ワシントンDCで3年勤務後、カリフォルニアにあるビバリーヒルズホテルからお誘いを頂き、ホテル内の洋食店で新スタートを切りました。

個人的には「アメリカと言えば、イーグルスでおなじみのホテルカリフォルニアのイメージ」だったので、やっぱりカリフォルニアで働きたいなという思いが強かったんです。当時は朝5時集合~15時まで仕事をした後、様々なレストランに足を運んで勉強し、文字通り「朝から晩まで」料理のことだけを考えて生きていましたね。この当時のエグゼクティブシェフがビバリーヒルトンホテルに移ることにしたので、彼と一緒に移り、そこで3年勤務しました。

その後、パリのシャンゼリゼ通りにあったRestaurant BOUNDでフレンチの経験も積みました。料理人として食の都パリには憧れがあり、一度は生活してみたかったその夢が叶いました。言葉に苦戦し空き巣にも入られ、事故で首を骨折したり、あまり良い思い出はありませんが、パリでの4年間の生活で自分に自信が持てるようになりました。

2010年にシンガポールでMarina Bay Sandsがオープンするタイミングでシンガポールに移住、オープニングシェフとして勤務。その後、シャングリラホテル、自分が手掛けたレストランでの勤務も経て、約3年前「NOKA」がオープンするので、手伝ってくれないかというお誘いを頂きました。準備期間中、アゼルバイジャンでも経験を積み、現在に至ります。

振り返ってみると、いくつもの転機がありましたが、都度必要なタイミングでチャンスが訪れてステップアップしてきたなと思います。

秦野 :特に印象的だった出来事はありますか

堰さん:私はこの仕事をしてきて「食って本当に大事だな」と実感しています。アゼルバイジャンの店での勤務時に印象的だったのが、大統領がご家族で食事をされた時のことです。その店は大統領など富裕層が来るいわゆる高級店だったので、食材もこだわりぬいた良いものだけを使っていました。例えば、新鮮な刺身や肉などもお出ししていましたが、大統領が来られた際、彼は生ものが一切食べられなかったんです。生で食べた方が美味しさが引き立つようなものであっても、絶対火を通してくれと(宗教的な話ではなく好みで)・・・。因みに奥様は食通で、生で食す方が美味しいものは生を選ぶなど、食材に応じて最適な食べ方をご存知でした。

もちろん食には好みがあるけれど、美味しいものを一番美味しく頂く(美食を楽しむ)というのは、人生の中でも大きな喜びの一つだと思うんです。そういう楽しみ方を知っているかどうかで全然楽しさが違うんじゃないかなと。

秦野 :日本はそれが優れていますか

堰さん:そうだと思いますね、全体で見たら。日本の食材は非常にレベルが高いし、料理人もハイレベル。この良さを今後もっと広めていきたいというのが僕の夢の一つです。

秦野 :NOKAの特にお勧めメニューを教えて下さい。

堰さん:旬の食材を味わえるお任せコース(7品$120)も人気ですが、毎週火曜日と金曜日に日本から新鮮な魚を輸入しているので、「premium sashimi moriawase $48」も一押しです。

この他、「Snow aging Wagyu sirloin($89)」「 Wagyu Beef Sushi($18)」も 最高に美味しいので、是非試してみて下さい。

秦野 :今後の目標を教えてください

堰さん:食を通してみんなを幸せにするのは料理人としてのミッションです。
今こそ、シンガポールにいる日本人飲食業者は「一枚岩」になって、日本人としての底力を発揮したいと思うんです。どんな状況であれ、次世代の子ども達に明るい未来を作ってあげたい。その為に自分が今できることは何だろうと常に考えています。

今後は状況を見ながら、食イベントも開催したいと思っています。“ラブ アンド ピース“、“ノーストレス“、“食を通してハッピー“をテーマにどんどん世の中を明るくしていけるような行動をしていきたいと思っています。時の流れに身を任せ、謙虚に精進いたします。

Positive thinkingを実現していく堰さんの今後の活動が楽しみだ。

堰琢磨(せき・たくま)さん

1974年6月25日 現在46歳。ワシントンDC、ビバリーヒルズ、パリでシェフとして勤務後、2010年に「Marina Bay Sands」のオープンに伴い来星。その後「IKYU」を立ち上げ、Spa Esprit Group NOKA,のエグゼクティブシェフとして活躍中。2000年には日本寿司組合全米寿司コンテストで優勝。

07-38 FUNAN (LIFT LOBBY A) 109 NORTH BRIDGE RD SINGAPORE 179097
月曜 — 日曜日 | ランチ 11:30AM – 2:30PM
ディナー 6PM – 10PM

TEL: +65 6877 4878 | EVENTS: EVENTS☆NOKA.SG (メール配信の際は☆を@に変更してください。もしくはクリックでメーラーが立ち上がります。)
Web:http://noka.sg/

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この記事を書いた人
シンガポール在住8年目。ワインと美食をこよなく愛し、日々ワインを楽しむ一方、筋トレも欠かさず行う。“ワインと美活“のスペシャリスト