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シンガポールの家庭に多い外国人メイド。違法労働を強いられても苦情が言えない深刻な事情

シンガポールに23万人

シンガポールでは、自宅でメイド(ヘルパー)を雇っている家庭も珍しくありません。シンガポール労働省(MOM)によれば、その数はおよそ23万6,000人。おそらく全員が女性で、フィリピンやインドネシアなど東南アジア諸国からシンガポールに出稼ぎに来て、シンガポール政府もメイド向けの労働ビザを発行してその数を管理しています。

家事だけでなく子どもの世話まで

買い物や食事作りといった家事全般から子どもの面倒や学校への送り迎えに至るまでの役割を担っており、実際にメイド(ヘルパー)を利用している家庭では「彼女がいなければ生活が成り立たない。居てくれて本当によかった」という声が聞かれます。

メイドを雇用するには、シンガポール政府が定める法律によってその業務範囲や賃金などがきっちりと決められており、多くの雇用主はそれを遵守しメイドといい関係を築いています。ただ、中には違法な労働を強いられている上に、助けを求めることもできない境遇のメイドさんが多くいることも事実のようです。

シンガポール政府は違法労働が蔓延と認識

シンガポール労働省には、メイドの働く環境に関する相談が年間で約550件寄せられています。前述したように、シンガポーで働くメイド(ヘルパー)は約23万6,000人なので、割合にすればわずか0.2%。シンガポール政府はこの数は氷山の一角で、実態はもっと多くの違法な労働が蔓延していると見ているようです。

シンガポールの地元紙「ストレーツタイムズ」のこちらの記事(https://www.straitstimes.com/singapore/courts-crime/1-maid-2-jobs
によれば、12名のメイドに話を聞いたところ、うち7人が雇用主から雇用主の家以外の家庭に行き家事をするように依頼されていたといいます。ただ、7人のうちでシンガポール労働省に通報した人はいません。

違法労働させると高額罰金

メイドは原則として、雇用主の家の家事だけに従事することと、法律で認められており、それが労働パスに明確に記載されています。

ただ、実際には近くに住む雇用主の高齢の両親をケアしたり、雇用主の子どもの面倒を見たりするケースも多いそうです。このような場合は、メイド自身が納得と同意し、訪問先の家事をする必要はありません

メイドを違法な条件で働かせたとして裁判で有罪が確定した場合には、雇用主には最高で1万ドルの罰金が科され、それ以降メイドを雇うことが禁止されます。

画像はイメージです
違法労働が浮き彫りになったある事件

不法に雇用されているメイドの問題は、チャンギ空港グループのリーウ・ムン・ロン元会長とその家族が雇用していたメイドが窃盗疑惑をかけられたものの、無罪となったことで浮き彫りになりました。

リーウ元会長のメイドとして働いていたパルティ・リヤニさんは、リーウ元会長の自宅以外に、息子カール・リーウ氏の自宅と事務所の掃除も命じられていました。これは雇用条件にはない違法な労働で、この不当な扱いをパルティさんがシンガポール労働省(MOM)に通報すると訴えた直後、リーウ元会長はパルティさんを解雇するとともに、自宅のものを盗んだとして窃盗の疑いで警察に告訴したそうです。

裁判にかけられたパルティさんでしたが、身の潔白を主張した結果、無罪を勝ち取り、逆にリーウ元会長は、違法労働を強いたとして、罰金及びメイドを雇用する権利を剥奪されました。さらに騒動の責任を取り、チャンギ空港グループの会長職を辞しました。

16時間労働のケースも

記事に登場するシティさんも、違法な労働に苦しんでいたメイドの1人です。
2010年から15年まで、アンモキオの家庭でメイドをしていたシティさんは、雇用主の自宅以外に、別で暮らす雇用主の母親の家も掃除させれていました。
ベッドルームが5つもある大きな部屋を掃除しなければならないため、シティさんは朝5時半に起床し、掃除の他の家事もこなさなくてはならず、休憩時間はわずかに30分。21時まで働かざるを得ない生活が5年間続いたといいます。
違法だと認識しながらも、シンガポール労働省に通報しなかった理由をシティさんは「当時は若くて、メイドとして新人でした。雇い主とトラブルになり、ブラックリストに載りたくなかったため、渋々したがっていました」と話します。

5年間はその生活に耐えたシティさんですが、仕事量が多すぎることを雇用主に訴えて、インドネシアに帰国。その後、別のメイドエージェントと通じて、違う雇用主が見つかったため、シンガポールに戻ってきたそうです。

雇用ルールの徹底を浸透を

メイドの雇用に関わる団体の代表ジャヤプレマ氏は、メイドが悪条件で働いている件数を減らすには、政府や雇用主などメイド雇用に関わるすべての人に責任があるとの見解を示します。

また、人道の観点から支援するグループは「外国人労働者と雇用主とは、パワーバランスが不平等であるために、たとえ違法な仕事の依頼であっても、メイド側は拒否すると叱られたり、解雇されたりすることを恐れて、従ってしまわざるを得ません。また、法服を恐れて労働省へ通告はしにくいのです」と話します。

雇用主と良好な関係のメイドはもちろん存在

もちろんすべてのメイドが違法に雇われて、つらい体験をしているわけではありません。違法ではあるものの、両者が納得しているケースもあります。インドネシア出身の41歳のメイドは、雇用主の子どもが世話が要らないほど成長したため、代わりに雇用主の母親の家を週に2回掃除をしています。その掃除をすることで、追加で$50をもらえています。

彼女は「雇用主にはよく理解してもらえており、急かされないので疲れません。また、その日は夕飯を作らなくて良いので助かっています。」と話しているということです。

インドネシア家庭サポートグループの会長ウマイ・ウマイロ氏は、雇用主とメイド両者がハッピーなケースはとても珍しいことだしながらも、雇用ルールが浸透していけばこのようなケースは増えるだろうとしています、かつてよりは雇用主とメイドとの状況は改善しているそうですが、まだまだサポートを必要としている外国人労働者はたくさんいます

実際にメイドさんに話を聞きました

このニュースを受けて、シンガライフ編集部は、日本人家庭に雇用されているメイドさんにインタビューをしました。

フィリピン出身のキャサリンさん(38歳)シンガポール8年目

編集部)
この記事にある「不満があっても、強制送還が強くて意見は言えない。」というのはよくある話ですか?

キャサリンさん)
本当です。8年前はインド人の家庭に雇われていましたが、その家庭ではメイドは雇用主の家具に掃除をする時以外は触れてはいけないとされていました。そのため、食事はキッチンで立ちながらしなくてはなりませんでした。

雇用条件にで定められていた、昼休みの時間は掃除に追われて、十分に休ませてもらえませんでした。休憩があまりにも少ないので、疲れて休んでいたら、頬を叩かれてしまいました

最初は揉め事にしたくなかったので黙っていましたが、何日もそれが続いたため、メイドの派遣会社に通報した後に、シンガポール労働省にも連絡しました。結果的に、そのインド人の雇用主は二度とメイドを雇えなくなりました。勇気を出して、通報してよかったと思います。

編集部)
メイドの派遣会社は、キャサリンさんを派遣する時に雇用主を面接したかと思いますが、雇用条件などの詳細はきっちりしていなかったのでしょうか。

キャサリンさん)
メイドの派遣会社はメイドの味方というわけではありません。雇用主から多く手数料を得るために、難しそうな雇用主であることを把握した上で、文句をあまり言わない若い経験の浅いメイドを派遣することが多いのが実情です。私のケースでも、インド人の雇用主は私を雇う前にも別のメイドを叩いたことがありました。でも、その事実を派遣会社は私に隠して、契約を結びました。

編集部)
「ルール違反であっても、不満がないから言わない」というケースはありますか?

キャサリンさん)
はい、あります。今の雇用主との契約は日曜日、祝日が休みなのですが、追加のボーナスを頂いて働く事があります。断る権利もありますが、ボーナスの金額が高いので働いています。私も経済的に助かりますし、雇用主も助かっている様子なので、特に問題はありません。友達でも契約には無い雇用主以外の部屋の掃除をしているメイドがいますが、その友達も追加でボーナスを頂いているため、特に文句は言いません。雇用主とメイドとの力関係のバランスが取れていて、お互いが納得をしているのならば、ルール通りでなくても良いとは思います。

シンガライフ)
メイドさんとしての願いは何ですか?

キャサリンさん)
メイド自身も、メイドの派遣会社も、雇用主も、雇用ルールをしっかり把握した上で、メイドをきちんと人間として扱うことが、この問題の解決方法だと思います。いつも苦しむのは現場にいるメイドなので、メイドの派遣会社がしっかりとメイドの味方であって欲しいと願います。給料をどんなに積まれても、体が資本の仕事なので疲労が溜まると効率の良い仕事はできないと思います。また、メイドの派遣会社は面接で感じた悪い印象や、過去のメイド雇用歴を見て、これから起こり得るアクシデントを予測して、その雇用主と契約を結ぶか否かを考えて欲しいと思います。

取材を終えて

シンガポールでは一般的となっているメイド文化。使用人としてではなく、仕事を依頼する側と依頼される側という対等な関係で付き合いができるようになることを願っています。

フィントリリス彩花
この記事を書いた人
東京生まれ・東京育ち。ツアコン、山ガイド、米国ディズニー、ニューヨーク勤務を経て、結婚、出産し、シンガポールへ移住。 現在は2児の母。 人と話すこと、書くことを生きがいとしており、私の文章を通して皆様の世界が広がりましたら本望です。