シンガポールで公開された邦画「Fukushima50」。 シンガポール人も見入ったプレミア試写会をレポート

7月25日金曜日。映画Fukushima50のプレミア試写会が行われるVivoシティには多くの人々がいました。サーキットブレーカーが明けてから、筆者が見た中で1番賑わっていたように思います。

規制で人が少ないプレミア試写会

ですがプレミア試写会の会場となっているゴールデンビレッジ・ビボシティは人が少なく静かでした。通常のプレミア試写会は映画の規模にもよりますが、602席もあるシンガポール国内最大級のIMAXホールでは、観客達がドリンクカウンターに長蛇の列を作り、ローカルセレブが華やかな装いで歩き賑やかです。

ただ、今回の試写会は、シンガポール政府が定めた「映画館は1ホール最大50人」との条件の元で開催されたため、観客は50人のみ。IMAXホールの多くの席は、座れないようにブロックされていました。ほぼ貸し切り状態のIMAXホールは、気持ちの良いものですが、映画業界のことを思うと複雑です。

9年前の東日本大震災を想起

さて、映画の紹介に移ります。冒頭は美しい福島の海と福島第一原発施設。しかし、運命の時刻が訪れます。2011年3月11日午後2時46分、突然襲い掛かるマグニチュード9.0の巨大地震。東日本大震災です。

激しく揺れて立つこともままならない状況下、福島第一原発(通称イチエフ)の中央制御室にいた伊沢当直長(佐藤浩市)が叫ぶ。「スクラム(原子炉が緊急停止)するぞ!」と。余震が続き、暗闇の中、原発職員らがまず行ったのが制御盤を見て現状を確認する事。

大声で「1号ハーフスクラム!」「2号スクラム」と響き渡る声。非常用電源が作動し、そこから全てが非常時のマニュアル通り進んでいた中、大津波警報が発令されます。

「ここは大丈夫」という思い込みの誤算

しかし、職員たちは「海面から10メートルの場所にある施設には影響はないから大丈夫」「ここまで届く津波は来ない」と思ってしまいます。

そこに巨大津波がイチエフに容赦なく襲い掛かる。非常用ディーゼル発電機が津波の影響で落ち、全電源喪失(ブラックアウト)となり、原子炉を冷やすためのポンプも稼働しなくなります。冷やせなければ…炉心溶融(メルトダウン)が起きる、そして爆発。原子炉が爆発するのを避けるために、残された道は人類初、ベントしかない。職員たちは、放射能で汚染された原子炉建屋に入り、ベントベンを開けにいきます。。

ここからは全て想定外。長く、苦しい闘いが始まります。

観賞後の感想「尊敬します」「早い復興を願います」

映画鑑賞後、試写会に来ていた観客にインタビューしました。

チャンウエイさん(24歳)は、事故当時は、15歳。「この事故のことは聞いた事はありましたが、幼かったので詳しくは知らず、今日見て驚きました。そしてそこで踏みとどまって頑張った人達。尊敬します

ジャネットさん(43歳)は「日本映画はあまり見る機会はありませんが、俳優達の演技が素晴らしかった。演技とは思えないくらいでした。特に伊沢役の佐藤浩一が良かった。福島原発の問題は未だ解決はしていないと聞きます。早く回復する事を願います。友人にもこの映画を推薦したいです」

日本人も今一度見ておくべき

驚くほど圧倒的な映像。どうやって撮ったのかと思われるような、恐怖の映像でした。見ていて胸苦しくなるような。あの日、2011年3月11日、テレビのニュースをシンガポールから見て、現実のものとは思えなかったことを思い出しました。呆気に取られて、でも涙がぼとぼとと溢れたのを。

そして今までアウトラインしか知らなかった、福島第一原発での凄まじい闘いを、この日見ました。所長の吉田昌郎(渡辺謙)が、決死隊という言葉を使っていたように、決死隊は愛する人々を、土地を、そして国を守るために自らの命の危険を顧みず原発と闘った。映画はそれを記録し、私たちに伝えてくれます。

映画で語られなかった原作の部分

映画を見た後、原作となった本「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」(門田隆将)を読みました。

そして映画では伝えきれなかった部分もあることを知りました。Fukushima50だけでなく、多くの人達がいた事、1度退避した後、また現場に戻り闘った人達。そして電力会社、政府の対応ついても。地元に資源と仕事を与えてくれた原発が、そこに暮らす人々から故郷を奪ってしまった事も。
この日、筆者も映画のシンガポールでの配給会社からインタビューされました。その中、でもしあなたなら残って闘いますか、それとも逃げますかと聞かれました。残念ながら私は逃げてしまうでしょう、1番に、と答えました。

日本での評価が二分

日本での映画の感想は真っ二つに分かれたそうです。不愉快だというものと感動するというもの。ですが、事故を風化させないためにも、当時を知らない若い世代のためにも価値はあると思います。ぜひ見ていただきたい、そして機会があればできれば原作も読まれるといいかもしれません。

作者である門田隆将氏が本の冒頭で『彼らは死の淵に立っていた。それは自らの「死の淵」であったと同時に、国家と郷里福島の「死の淵」でもあった。そんな事態に直面した時、人は何を思い、どう行動するのか。』と書いています。
この日、映画と本から、ヒーローという言葉が安っぽく感じられるくらい、真実のみが語る凄さを感じました。


Golden Village
Encore Films
Fukushima 50 7月30日よりGolden Village他で公開

この記事を書いた人

SingaLife編集部

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