シンガポールにおける離婚制度の新しい動向と日本法との比較 -Vanilla Law 法律事務所 Vol1-

離婚は、最も身近にある法律問題と言っても過言ではないでしょう。 離婚原因の多くは、「性格の不一致」と言われる価値観の違いからの関係悪化と「不貞行為」(不倫)です。性格の不一致がある場合、往々にして不倫も行われているというケースが多く、両原因はリンクしています。

逆に、不倫をしていても、配偶者や子供に愛情がある場合、不倫をされた側は離婚を望んでいても、不倫をした側は「絶対に離婚しない!」、と言い張る場合も往々にしてあり、この場合、当然ながら離婚を成立させるのは非常に難航します。

今回は、夫が不倫し、奥さんが離婚を検討している、というケースを想定しお話を進めていきましょう。



1.シンガポールで協議離婚はできますか?

両者日本人ご夫婦の場合であれば、日本法の適用が可能ですので、協議離婚は当然可能です。諸条件を協議離婚書にし、離婚届を提出すれば正式に離婚が成立するため、当事者の負担が少ないと制度と言えるしょう。

この協議離婚書、後に記載内容を変更したいと思っても、簡単に認められるものではありません。将来のお子様の教育等あらゆる状況に対応できるよう決めていかなければ、後々揉める原因ともなりますので、合意条件は十分に検討し、離婚協議書は細部まで留意し作成することをおすすめいたします。

離婚という大きな負担からいち早く逃れたい、という一心で、早期に離婚条件を決めてしまう方も少なくなく、また他人にはなかなか打ち明けにくい事でもあるため、一人で抱え込んでしまい、誰にも相談せずに協議内容を決めてしまったという方もいますが、後々結局揉めてしまったと言う場合も多く見受けられます。

相談にいくことを恐れずに、早期の段階で専門家に検討してもらい、離婚の条件を整えることをおすすめいたします。


2.夫は外国人なのですが、協議離婚はできますか? 

協議離婚という制度、実は採用している国自体が世界的にみても少なく、裁判所で離婚判決を得る必要がある国が多く、シンガポールもその一つとなります。したがって、夫が外国人の場合、夫の本国で協議離婚による離婚が承認されない場合もあり、協議離婚という制度が使えないという場合もあります

夫が外国人という場合、世界的に承認されうる離婚判決を取得することをおすすめいたします。 


3.協議離婚がまとまらず、裁判所での離婚手続を検討しています。日本人同士でも、シンガポールでの離婚裁判はできますか?

日本人を含めた外国人が当地の裁判所で離婚訴訟を提起するには、当地の裁判所に「管轄」が認められるか、を検討する必要があります。 

シンガポールに本拠地(“Domicile”=長期間の居住がある、シンガポール国籍を有する等の国との密接な関連性により判断)があるか、シンガポールに常住している(”Habitual Resident“=3年以上の継続した居住)場合は、当地の裁判所が管轄を有するとされ、日本人同士でも当地の裁判所に離婚訴訟を提起することができます。

ただし、シンガポール法上、結婚後3年が経過していなければ、そもそも離婚ができません。つまり、3年以上シンガポールに住んではいる(上記裁判管轄は認められる)が、婚姻期間が3年以内という場合、原則シンガポール法上離婚はできませんので、結局日本法での離婚を検討すべきということとなります。

芸能人などよく婚姻後2ヶ月でのスピード離婚、などが報道されたりしますが、当地ではそのようなスピード離婚はできない、ということとなりますね。離婚原因が日本法と比して厳格である点や、この「3年縛り」の趣旨は、結婚というものの神聖さを保持し、気まぐれに結婚に踏み切らないようにという政策的配慮のためと考えられています。

上記要件を満たせば、日本人ご夫婦でも当地で離婚裁判を行うことが可能ですので、日本、シンガポールどちらで裁判で行うのが良いのか、専門家とご検討されると良いでしょう。

(*夫が外国人という場合も、上記管轄等の要件を満たせば当地での裁判離婚は可能です。)

 

4.シンガポールの離婚手続、法律の日本との違いを教えてください。

日本の離婚手続においては、「調停前置主義」が採用されており、裁判の前に、必ず調停手続を行う必要がありますが、当地の場合は、いきなり訴状を提出し裁判を開始します。

当地の離婚手続は大きく分けて、①離婚を成立に関する決定する第一段階、②財産分与、子供との面会等の諸条件(付帯事項)を決定する第二段階、とに分かれています。

(1)第一段階

第一段階では、離婚を成立させるべきかどうか(婚姻関係が著しく破綻しているか)を判断することとなります。

シンガポール法上、不貞行為、数年間の別居(当事者が離婚に合意している場合は3年間、当事者が離婚に合意していない場合は4年間)等の厳格な離婚原因を証明する必要があると言われておりましたが、現在の実務上、フレキブルに離婚を認める傾向にありますので、モラハラ、不貞行為までは言い切れないものの異性関係の乱れ等含め、婚姻関係が著しく破綻していると点を“Unreasonable Behavior”として訴えれば、離婚は成立すると考えて良いかと思います。

どちらが有責配偶者か(どちらに離婚の原因があったか)ということについて争いたいと思われる場合もあるかもしれませんが、離婚に合意しているのであれば、ここに時間とお金をかけるのは全く無駄と考えます。仮に相手があることないこと訴状に書き連ね、離婚原因は自分にあると訴状で言ってきた場合も、ここは「言わせておけばいいわ」と大きな気持ちで、受け流す方が得策ではないでしょうか。

「いやいや、不倫をしたわけではないのに不倫したといわれ、慰謝料を請求されたら困るんですけど…」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、当地では、不倫に対する慰謝料の請求が認められておりません。 

不倫された側からすれば非常にショックを受けられるかと思いますが、日本法と大きく異なる点となります。

(2)第二段階

第一段階にて離婚成立の中間判決がでた後は、養育費、子供との面会等の事項の決定を進め、こちらは一定の時間をかけて争う必要がある部分といえます。

日本では、婚姻後に成立した財産は夫婦の共有財産とされ、仮に専業主婦であっても原則半分を分与してもらう権利がありますが、シンガポールの場合は、具体的に家計にお金を入れていたかどうかが判断の基礎となります。

つまり専業主婦で一円も家計にお金を入れていなかったという場合、直接的な経済的貢献はしていないとみなされます。家事や子育てによる間接的な貢献度、婚姻期間の年数等を考慮要素として分与の割合を上げていくことは可能ですが、それでも日本の財産分与の割合よりは低くなりがちです。

対して養育費の基準は、当事者の収入等の諸条件によってかわるものの、比較的日本より高額になる傾向が高いかと思います。親権は、日本と異なり共同親権が基本となりますので、どちらが親権をとるかでもめることはありません。

このように、財産分与と養育費等で、両者でプラス・マイナス、どちらもありますので、単純にどちらの法律によって離婚するのが有利か不利かを判断することはできません。専門家と一緒にご夫婦それぞれの事情を細かく検討し、決定されると良いでしょう。


 

5.裁判手続が長くかかるのではないかが心配です。

裁判手続で一から十まで争うとなると、当然時間もお金も、精神的負担も甚大です。場合によっては、2〜3年とかかる場合もあります。しかし、長期間かけての手続は、負担が増大させ、両者の関係をよりこじらせるのみ、費用対効果もありません。

夫婦として一定の期間生活していれば、険悪になることもあるでしょうし、怒鳴り合いをすることもあるでしょう。「あの時のあなたのあの言動にひどく傷ついた」、「お前の行ったことは人格否定だ」等々、書面に書き連ね、相手が悪いと罵り合いをするのは泥仕合、余計な悪感情を沸かせるのみで、お子様へも悪影響も心配されます。

以下、時間をかけずに離婚手続を行う方法について、見ていきましょう。

・Simplified Uncontested Divorce

裁判を提起する前に、当事者間で離婚原因やすべての附帯事項について合意できているという場合は、その合意内容に基づいて簡易に判決を取ることができます。

裁判所に対して訴状等の通常の書面を提出し判決を得るという手続は踏みますが、当事者間に争いはないことを前提に進めますので手続終了までの時間もかなり短く、限りなく協議離婚に近い形で離婚判決を得ることができると理解しても良いかと考えます。

この場合、当事者の合意によって養育費から財産分与、その他条件を決定しても構いませんので、養育費や財産分与の実務基準に従う必要もありません。財産分与に、不倫の慰謝料分も加味して決定するなど当事者の意思もより自由に反映できます。

・Divorce by Mutual Agreement

特筆すべき新動向としては、昨年1月10日、シンガポール国会にて、「合意による離婚」(Divorce by Mutual Agreement)を離婚原因の一つとして導入する決定が可決されました。

この新法が施行されれば、より日本の協議離婚に近い形での離婚が可能となります。裁判所での手続きは必要ですが、事実を証明するために相手を糾弾したり、過去の事実を細かく掘り起こす必要がなくなります。 

また、夫婦の価値観が根底から違う、子育ての文化的違いがある等のより緩やかな理由も離婚原因として反映させることができます。離婚届を提出するのみで良い日本の協議離婚制度とは異なりますが、より緩やかかつ穏便に離婚ができる制度が誕生するのは画期的で、より時代に即した変化といえるのではないでしょうか。

結婚は神聖なもので離婚を簡単に認めるべきではないという価値観が時代錯誤な感もあり、また相手を責めることに拘泥するのは、余計な悪感情を生むのみ、子供にもいい影響はない、という上記問題点を勘案した新しい動きといえます。


6.シンガポールで取得した判決は日本でも有効ですか?

判決は、基本的に成立した国においてのみ有効、執行可能であるのが原則ですので、日本で当然に効力を有すると言うわけではありませんが、外国判決の承認手続を行えば効力を有し、執行可能です。

承認手続には、日本の民事訴訟法118条各号の要件を満たす必要があり、同法の詳細に関しては本稿では割愛しますが、同条の要件を満たしていることを立証することで、日本で同判決を承認することができます。もっとも、承認手続が必要なのは、夫が養育費等未払いのため、強制執行をしなければならない場合のみ。判決に基づいて支払いがなされている限りはこの手続を行う必要はないでしょう。 

逆に、当地の判決に対して、同118条の要件を満たしていないとして、無効訴訟を提起することも可能です。もっとも、この無効訴訟は、訴状の送達が行われたか、判決内容を知る機会があったか等、手続的争点にほぼ終始することとなり、判決の内容についてはほとんど争えません。つまり訴えられたことを全く知らなかった、正当な理由があって判決が出たのを知り得なかったという場合に争える制度です。

離婚訴訟の手続き開始の訴状が届いた場合は、きちんと対応しましょう。


*監修:Vanilla Law LLC 

本稿は、個別に法的アドバイスを行うものではございません。具体的な案件のご相談は、別途専門家に正式な法律相談を行ってください。

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この記事を書いた人

SingaLife編集部

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