シンガポール視点から読み解く2020年アメリカ大統領選挙
アメリカで、2020年11月3日に大統領選挙が行われます。シンガポール国立大学付属シンクタンク所属の米国政治専門家エイドリアン・アン氏は、今回の選挙は2つの理由から、シンガポールと東南アジア地域に影響を与えるとMothership誌に語っています。
1、米国はシンガポールにとって重要な貿易相手国
米国はシンガポールの第5位の輸出入相手国であり、二国間貿易額は年間約320億米ドル(430億シンガポールドル)に相当します。また、米国はシンガポールにとって最大の外国直接投資の源泉であり、シンガポールとの貿易黒字を享受しています。
貿易に大きく依存する都市国家シンガポールにとって、強固な貿易を支援する政権は有益なものとなるでしょう。トランプ政権は保護主義を押し進め、就任してわずか3日で、前任のバラク・オバマ氏が交渉した環太平洋パートナーシップ(TPP)から米国を離脱させました。
冷戦時代には、シンガポールは米国共和党政権を好む傾向があったと言えるとアン氏は説明しました。これは、故リー・クアンユー首相が、ヘンリー・キッシンジャー氏、ジョージ・シュルツ氏、ブレント・スコウクロフト氏など、共和党の外交政策の中心人物と親交を深めていたためです。
しかし、冷戦が終わると、民主党も共和党も開かれた世界貿易と金融システム、アメリカのアジアでの積極的なプレゼンスに注力していたため、シンガポールにとってどちらの党を好むといったことはなくなりました。
現在、自由貿易とグローバリゼーションへの支持は、民主党と共和党の両方で、冷戦終結以来、最も弱いレベルになっているとのこと。米国の対アジア貿易政策は、バイデン新政権下でも変わらず、TPP や環太平洋パートナーシップへの参加もなさそうです。
したがって、どちらの政党が主導権を握るかにかかわらず、米国がこの地域の貿易政策を大きく変えることはなさそうです。
2、大国の外交政策は他国にも影響を
アン氏はまた、世界で唯一の超大国としての地位を持つ米国がどのように外交政策を行うかは、相手国に影響を与えると指摘しました。米国といえば、突出して多額な国防費と、世界の富の4分の1を生み出す経済力を持ち合わせています。
東南アジア諸国にとって、安定した米中関係が地域の平和と繁栄に不可欠なため、親中路線の米国大統領を望んでおり、中米間の競争に巻き込まれないと公の場で発言しています。
東南アジア諸国各国は、中国本土との経済的な関与による継続的な利益を求めている一方で、安全保障上の理由から、米国のプレゼンスという安心感をも求めているため、対中政策に傾斜していない米国の政権が好ましいと言えます。
この点で、バイデン氏はトランプ政権よりも強硬な対中路線を目指していることを忘れてはいけません。新疆、チベット、香港の国内人権問題において、トランプ政権よりも積極的に中国に圧力をかける可能性があります。
シンガポールに、中国かアメリカかのどちらかを選ばなければいけない日が訪れるかもしれません。
この記事を書いた人
SingaLife編集部
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