リー・クアンユーのヒストリーvol.21 公園国家 緑化・ごみ一掃進める植物探し各国に人材派遣
私は、英国留学中にロンドンのハイドパークなどの美しい公園に強い印象を受けた。周辺環境とマッチし、市民に憩いの場を提供している。ケンブリッジ周辺の住環境も素晴らしかった。一方で、アジアのコンクリートジャングルの都市も視察して、私は深く考えさせられた。首相に就任して私は個人的に一つの目標を立てた。シンガポールを美しいガーデンシティー(公園国家)に変えることである。
熱帯で人口密度が高い生活条件の厳しさを和らげ、住みよい街にすることは国民生活の向上になるし、国の財産にもなると思ったからだ。といっても、当時の諸情勢からしても緊急課題は経済建設だし、国民に住宅を供給することだった。限られた予算から見ても、とても都市緑化を優先的に実施できる状況ではなかった。それにもかかわらず、都市緑化を実現しようと私は意気込んでいた。
私は自分で勉強したり、専門家の話を聞いたりして、植物や土壌、気候、肥料など緑化についての知識を深めていった。首脳会談や国際会議で外遊する際も、各国の緑化に関する努力には特に関心を払った。フランス訪問の際は、あの立派なパリの並木道の地下に排水施設が整備され、木の根の周辺の鉄格子を通って水が根へ流れ込むように工夫していることを知った。
ニュージーランドでは豊かで美しい草原を見て、私は早速、同国政府にコロンボ計画の援助予算による専門家の派遣を要請した。彼らはシンガポールは草が豊かに成長する条件がないという。熱帯では普通巨木があり、スコールで養分のある表層土壌が流されるのを防ぐ。巨木を切ってしまったシンガポールではそれが難しいという。だが、私はあきらめなかった。肥料やたい肥を使って土壌を再生しようとした。都市緑化が進み、ツタが生い茂れば人々は暑さをしのぎやすくなるし、それがまた都市に新しい息吹をもたらすのだ。
私は67年5月、シンガポールを3年以内にごみのない清潔な都市にする計画を示した。8月には島内184地区を対象に、清潔で緑の豊かさを競うコンテストを実施すると発表した。国民の悪い習慣を改め、国民の意識を高めるため、ごみを捨てた人に多額の罰金を科すなど、具体的な政策も打ち出した。悪い習慣を一夜で変えることはできない。息の長いキャンペーンになると見ていた。
各地の公園完成式の植樹祭や清掃運動にも積極的に出席し、国民の啓もうに努めたつもりである。我々は最初は普通の樹木を植えたが、次第に政府の計画に沿って果物がなったり、花の咲く樹木を植えた。
アフリカ、カリブ海、中南米など赤道周辺の各国や亜熱帯諸国からシンガポールにはない木や花、つる草などを持ち帰って植えてみたのである。高速道路や立体交差の日陰でも成長する植物を探すため、世界中に担当官を派遣した。
庭の管理は毎日しなければならない。芝生は一日おきに刈り込まねばならない。樹木の剪定(せんてい)、花の面倒見が欠かせない。そのため、きちんとした組織と細部まで気を配る努力が必要だ。手入れの行き届いた公園都市はそうした我々の能力を世界に示すことになると思う。
何もガーデンシティーに限らない。どのような問題でも解決する気があれば解決できると思う。シンガポールの生活環境が向上して、ひいては国際競争力を持つことになるのだ。シンガポールがいま世界でもっとも美しい都市の一つといわれるのを聞いて私は、我々の努力がうまく機能していることを確信している。
(シンガポール上級相)
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SingaLife編集部
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