シンガポールでのバイリンガル教育に大切なことは?IBやGCSEについても徹底解説! 

長年継承日本語の研究や指導をされている磯崎みどり氏にバイリンガル教育とは何かやバイリンガル教育の大切なポイントをお聞きしました。また、IBとGCSEについても丁寧に解説していただいています。最後までご覧ください。




バイリンガル教育とは?

「バイリンガル」と聞いて、皆さんはどんな人を思い浮かべるでしょうか。二言語どちらもぺらぺらで、左を向いて英語を話し、右を向いて日本語を話す、など、二言語が同程度、それもどちらも母語レベルで使用できる人を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

ですが、「バイリンガル」という言葉を定義する範囲は非常に広く、「一つ目の言語は母語レベルだがもう片方の言語は少し話せる程度」であったり、「二言語共にそれなりに話せるけれど、書いて読めるレベルはどちらもそれほどでもない」であったりと、幅があります。「話す・聞く」のレベルではバイリンガルでも、「読む・書く」はバイリンガルと呼べるレベルにないということもあるでしょう。

このシンガポールという国においては、国策としてバイリンガル教育を推進しているため、ローカル教育では英語が根幹の言語として使用されるものの、家庭ではその他の公用語としての中国語、マレー語、タミール語が使用されているため、英語が第二言語である方々も多くみられ、巷でも英語とともに中国語他がよく聞かれることは皆さんもよくご存じのことですね。

こういったシンガポールのバックグラウンドを元に「バイリンガル教育とは何か?」という問いに「シンガポールにおける」という言葉を加えてそれに答えると、すでにシンガポールにおいて施されている言語教育、と言えます。そんなシンガポールで、Expat(Expatriate海外滞在者の短縮語)として短期、長期に限らず滞在する日本人が、その子女に英語を学ばせたいと考えるのはごく自然な流れかもしれません。そして、自分の子どもが究極のバイリンガルとして英語、日本語の両方を同レベルで使いこなせる人材として育ってほしいと思う親が多いことから子どもはローカル校、インターナショナルスクールで学習させることを決められる保護者が多いのではないかと思います。

でも広い意味で言うと、日本人学校の日本語での授業に加える英語教育もバイリンガル教育です。ですから、まず、「我が子にバイリンガル教育を受けさせたい」もしくは「我が子をバイリンガルに」といった思いを持たれるのであれば、「どんなレベルのバイリンガルを目指すのか」を明確にする必要があるでしょう




シンガポールでバイリンガルを身につけるために必要なことは?

バイリンガルのレベルを仮に「それなりに話せるレベルに」ということであれば、一般的にバイリンガルと言う時の二言語、英語と日本語が使用される環境下に子どもを置けば、「それなりに」話すことはできるようになります。もちろんその年齢や個人的な性格によって、習得については差があるため、「だれだれさんのお子さんが一年もしないうちにぺらぺらと英語を話すようになったから、うちの子も」という考え方は間違っています。

更には、そうやって短期間で覚えたと思われる英語(を含む外国語)は、正しい文法、文章構成を理解した上で、洗練された文章を書けるレベルのバイリンガルであるとは言えません。それでも、まずはそれなりに身に付けるためにも、両言語に触れることはバイリンガルの第一歩であることは当然のことですね。

一旦、そのレベルを超えてからの道のりが長いものであることは十分理解しておかないといけないことです。お子さんの年齢にもよりますが、ちょっとした会話を他の言語のネイティブの子ども達と始めた時点で、「あーよかった、うちの子はこれで英語が話せるようになったわ」と考えるのは少し時期尚早です。

新しく使用を始めた言語が言語習得の四技能、「聞く」「話す」「読む」「書く」のうち、「書く」のレベルで年齢相当になるまでは時間がかかるということを是非忘れずにおいていただきたいと思います

時間がかかるために、まだ道半ばで「こんなになかなか身に付かないのであれば、もうやめさせよう」と思われることもあると思います。それも一つですが、まさに継続は力。継続させなければ、身に付くものもつきません。ですから、まずは保護者が辛抱強くバイリンガルへの道は時間がかかることを理解し、お子さんの学習を継続させることが必要です。

そして、この後バイリンガル教育を進めていく上で、いかに母語の学習を継続することが大切であるかについて書いていきますが、母語と新しく学ぶ言語のバランスを取りながら、どちらかの言語の使用時間のみが長くならないように注意を払うのは保護者の役割であり、そのバランスが取れることがバイリンガル達成への重要な条件となるということをご確認いただきたいと思います。



バイリンガル教育における母語学習の進め方は?

バイリンガル教育では、母語こそが大切だということを最初に述べておきたいと思います。

そして、まずここでは前提として、母語が日本語、新しく身に着ける言語が英語で、インター校かローカル校に通学しているという場合に限定して書いていきたいと思います。なぜそこまで限定するかと言うと、子ども達が毎日の学校で学ぶ言語は、たとえ新しい言語であっても、必ずそれなりのレベルで身に付けることができるからです。

ただ、その習得にかかる時間は個人差が大きいため、いつまでも英語が身に付かない、ということばかり気にしていると、今度は母語の学習がおろそかになってしまうことがあるからです。

英語(もしくは子どもに習得させたいと考える、母語としての日本語以外の外国語)だけを使用するような生活をしていたのでは、絶対にバイリンガルになることはありません。その上、下手をすると「セミリンガル」と呼ばれる、二言語ともにまともに使用できないレベルにとどまってしまうことにもなりかねません。

まずは幼少期に保護者がしっかりと子どもの母語が育っていることを確認しながら、確実に読み書きできるレベルまでもっていくことが重要です。確実に読み書きができるレベルの言語を一つ作ることがバイリンガルになるための前提となります。そして、なにより継続が大切です。母語がある程度身に付いているからと言って、新しく学習、使用するようになった言語に力を入れすぎると、たとえ一旦それなりに母語として力を付けた言語であっても、その力が持続するわけではないのです。

「子どもの言語形成期は、12歳、13歳までと言われていて、ことばを育てるには13年かかるので、幼児期だけ環境をつくるのではなく、そのあとも継続しなければならない。」と言われています。

私自身もバイリンガル研究の為にコロンビア大学大学院で学ぶバイリンガル研究者の一人です。だからこそ、声を大にして、母語を大切にと伝えていきたいと考えています。たとえ、英語と日本語のように、関係性の薄いと言われる言語であっても、その二言語間に関係がある、ということを忘れてはいけないのです。一つの言語の力がついていれば、それがもう一つの言語に良い影響を与えます。ですから、母語の基礎がしっかりしていると、もう一つの言語も伸びるケースが多いのです。母語が育っていれば、次の言葉も育つ、ということです

したがって、特に、幼稚園、保育園児のお子さんを持つお母さま方には、子どもを幼稚園や保育園に入れっぱなしで、英語でそして、シンガポールであれば中国語で学んでいるから英語、中国語が身に付いている、と考えることには「注意が必要ですよ」と忠告したいです。

更に、日本語以外の言語をバイリンガル教育の一環として受けている子どもの保護者は、小学校卒業の年齢、つまり中学生になるまでずっと、保護者が継続して子どもの母語の習得の為に日本語を話し続ける、日本語学習の支援をすることが大切だということを忘れずにいていただきたいと思います


バイリンガル教育で注意すべきポイントは?

これまで書いてきたことをまとめると、注意すべきことは明らかだと思いますが、少しだけ前述したことで、更に注意をしていただきたいことを追加すると、それは、二言語を同レベルで学習使用言語として使えるようになるには、本当に長い長い道のりが必要だということ、二つの言語で読み書き、議論までできるレベルにすることを目標とするのであれば必ずしもそれは絶対に達成できることではないかもしれないこと、そして二言語間の熟達レベルが同じであることはまれであることを理解しておく必要があるということです。

海外生活が長くなればなるほど、たとえ日本語が母語で、あれほど日本語の方が強かったのに、というほど、英語での生活が気楽になってくることがあります。特に、日本語は4、5年生の学習時に学ぶ漢字、特に熟語学習がハードルとなり、今までのようにすらすらと教科書等、学年相当の内容で、読み仮名が書かれていない本を読むことが難しくなってきます。

それを簡単にあきらめず何とか乗り越えることができれば、二言語をかなり近いレベルで読み書きが母語に近いレベルで習得できると言えますが、そのための努力は子どもにとっても親にとっても並大抵のものではありません。繰り返しになりますが、二言語が同じレベルのバイリンガル達成は誰にでもできることだと思わず、お子さんの言語に対する興味や力、適性を見ることも大切だということを忘れないでいただきたいです

バイリンガルの子どもを育てる、という問い全般に関わる私自身の経験を少し書いて、バイリンガルについての回答の最後としたいと思います。

日本語を継承語として、そして、日本文学を指導する教師としての立場だけではなく、私自身が母親として日本語を継承する立場であり続けています。すでに独り立ちし、家庭を持ち、NYで弁護士の卵として働く娘は、物心ついたころにはアメリカで生活、八歳でシンガポールに移住、そのままシンガポールで10年を過ごしました。Yale University、 University of Oxfordを卒業、日本での就職も経験後、国際法で米国NO.1を誇るNYU Law School在学中に国連でのインターン、その後人権弁護士として勤め、現在、法廷弁護士としての道を歩んでいます。

彼女に日本語をどのように継承していくかについて、母として常に最善の方法を考えていました。日本の学校には体験学習以外には、幼稚園でさえも一度も通ったことがなかったからです。一旦、海外でほぼ永続的に生活をすると決めた以上、英語が最重要言語でしたが、結局、日本語も母語レベルで学習したことで、NYで働きながらも日本の弁護士事務所から機会があると声がかかるようです。

もともと文学・語彙への興味が強い子どもだったことが現在の道に進むことに繋がっているのは確かでしたが、日本語・英語の他に、中級レベルとはいえ、シンガポールで育ったことから中国語、そして、留学先で少しだけ学んだチェコ語など、新しい言語を学ぶことも経験しました。

そんな娘に対しても、私が「日本語を継承する立場であり続ける」と書いたのは、NYで英語のみを使用して生活していく中で、現在、主に日本語を使用する相手は親だけだからです。使わなければ忘れていくのが言語。子どもの頃のようにゼロになってしまうことはなくても、なかなか言葉が出てこないこともあるわけで、使い続けることが大切だと思うから続けているのです。言語を継承するということは、親として子どもと話す時、連絡をする時にはその言語を使用し続けるということを意味すると考えています。


GCSEとは?

GCSEとは、イングランド、ウェールズ、北アイルランドでは義務教育(5~16歳)を終了する時(Y11 もしくは G10) に受験する全国統一試験制度で、General Certifcate of Secondary Educationのイニシャルをとった制度の名前です。評価はA~Gのグレードで評価され、大学進学希望者は、一般的に8〜10科目を受験します。GCSEは英語、数学、科学が必修で、他のカテゴリーは、美術、人文科学、外国語などです。

IGCSE(International GCSE)というのは、ケンブリッジインターナショナルが海外の教育機関向けに提供しているイギリス式の義務教育修了と同等の資格のことで、イギリス国内版カリキュラムのGCSEに対して、シンガポールをはじめとする海外のインターナショナルスクールが実施する海外版カリキュラムのことです。シンガポールではGCSEとIGCSEを併用している学校が多くみられます。GCSE、IGCSEは、学校によって選択できる科目は違ってくるため、在籍校、希望校に確認してください。


GCSEのメリット

GCSEは上記のように義務教育修了時の全国統一試験制度の為、イギリスでは就職の際にもGCSEの成績を問われるなど、必須の試験制度です。しかし、シンガポールでは多くの学校で、IBDP(International Baccalaureate Diploma 詳細は以下で説明)の2年下の学年、Secondary Schoolの最後の2年(Y10、11 もしくは G9、10)で、GCSE(IGCSE)を使用する所が多くみられます。

それはIBDPの一つ前のSecondary Schoolでは、MYP(Middle Year Programme)という制度がありますが、その制度では公式の試験がないため、GCSE(IGCSE)を制度として採用し、生徒が公式の試験が受験できるようにしているのが実情です。


IBとは?

IBとはInternational Baccalaureate のイニシャルで、国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラムです。文科省はIBについて「1968年、チャレンジに満ちた総合的な教育プログラムとして、世界の複雑さを理解して、そのことに対処できる生徒を育成し、生徒に対し、未来へ責任ある行動をとるための態度とスキルを身に付けさせるとともに、国際的に通用する大学入学資格(国際バカロレア資格)を与え、大学進学へのルートを確保することを目的として設置されました。」と説明しています。ここで言う、IBとは、高校最後の2年間で履修するディプロマ(DP)のことで、IB Diploma、つまり、高校卒業資格、もしくは大学入学資格のことを意味します。

IBの使命を日本語に翻訳した文章を紹介しておきます。

「国際バカロレア(IB)は、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としています。

この目的のため、IBは、学校や政府、国際機関と協力しながら、チャレンジに満ちた国際教育プログラムと厳格な評価の仕組みの開発に取り組んでいます。 

IBのプログラムは、世界各地で学ぶ児童生徒に、人がもつ違いを違いとして理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認めることのできる人として、積極的に、そして共感する心をもって生涯にわたって学び続けるよう働きかけています。」

IBDPは、言語と文学(母国語)、言語習得(第二言語)、個人と社会(社会科にあたる)、自然科学(科学全般)、数学、芸術(Visual Arts, Music, Dance など)から6科目選択することに加え、Core Subjectとして、CASと呼ばれる必須課外活動(C:Creative, A; Activity, S;Service)、TOK (Theory of Knowledge)と呼ばれる思考の元になる考え方を学ぶ科目、そして、EE(Extended Essay)と呼ばれる卒業論文にあたる論文を書くことが必須となります。6科目は各科目の満点が7点で、合計点は42点。CAS、 TOK、 EEcの合計の満点が3点で、総合計は45点が満点です。

ただ、学校によって、選択できる科目は違うため、在籍校もしくは希望校において選択できる科目を確認してください。



IBの目指す人物像と活用するメリット

IBと一般的に呼ばれているのはIBDPのことですが、IBの学習者像は、「探究する人」「知識のある人」「考える人」「コミュニケーションができる人」「信念をもつ人」「心を開く人」「思いやりのある人」「挑戦する人」「バランスのとれた人」「振り返りができる人」としています。上記したIBの使命と求める学習者像から、広く世の中で役立つ行動のできるバランスの取れた人物を育成しようとする制度であることが分かると思います。

そのため、他の大学入学制度として一般的によく知られているものとして、A Level(英国のシステム)、AP(米国のシステム)と比較すると、必須科目数、必須課外活動などがあるため、取組まねばならない課題が多いことが特徴と言えます。多くの大学が、その様々な課題をこなし、乗り越えてきた学生であることを理解していることから、入試で有利になることもあります。

一方で気を付けなければならないことは、それだけ多くの科目、課題をこなさなければならないため、各科目で思うような点数を取ることができず、IBDPを選択しなければよかった、と考える学生もいることは注意点として伝えておきたいと思います。

どんな制度にも利点、欠点があります。我が子に合う制度はどれなのか、ということを見極めていくことが保護者にとっての最重要事項ではないでしょうか。



バイリンガル教育やIB・GCSEを熟知して子どもをサポート

この記事では、継承日本語の研究や指導をされている磯崎みどり氏にバイリンガル教育の心構えや注意点、IBとGCSEについて教えていただきました。子どもと一緒に継続して学習することや子どもの適性を見抜くことなどバイリンガル教育には、親のサポートが不可欠であることが学べましたね。バイリンガルへの道は親子一緒に歩みましょう。


磯崎みどり氏のご紹介

磯崎みどり

継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、現在アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究中。

アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IB(インターナショナルバカロレア)認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。

シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIB 日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、British School Manila (Philippines), Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。

自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。  

 

日本語文化継承学校のご紹介

日本語文化継承学校は、日本国籍をもちながらも、海外生活が長く、早急な日本への帰国予定がない、もしくはシンポールに永住する子供達を主な対象とした、日本語と文化の両面から学ぶことを目的とした学校です。

様々な環境の子供達にあった学びの場を提供するため、日本語文化継承学校は様々なコースを開催しています。詳しくは、ホームページ

継承学校は、継承語として日本語を学ぶ子ども達を応援する学校です。
一緒にそういった子ども達を指導してくださる教員を募集しています。
詳細を知りたい方は、sjkeisho@yahoo.co.jp にご一報ください。


この記事を書いた人

磯崎みどり

継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、現在アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究中。アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IB(インターナショナルバカロレア)認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIB 日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、British School Manila (Philippines), Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。

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