【アジア×経済予測】アジア開銀が最新の経済予測を発表。コロナ禍から脱して力強い成長へ

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

アジア開発銀行(ADB)は4月6日、「Asian Development Outlook (ADO) 2022」を発表した。東南アジア経済について、2022年はコロナ前水準に回復する前夜、2023年はコロナ前の水準に戻すと言えそうだ。

ADBは2022年の東南アジア全体を前年比プラス4.9%とし、コロナ前の2019年の4.7%を上回る。ただ、筆者がコロナ前の経済に回復する「前夜」としたいのは、2021年が2.9%だったからだ。経済成長率は前年比で計算される。

しかし、近年はコロナ禍の影響で2020年はマイナス3.2%、2021年は2.9%とプラスに戻したが、2022年のベースとしてはまだ低い状態である。そして、2023年はベースが高い状態からの5.2%であるから、コロナ前の水準に戻すと評価できる。

国別にみると、ベトナムが2022年は6.5%、2023年6.7%と東南アジア各国で最も高い。コロナ禍でも2020年は2.9%、2021年は2.6%とプラス成長を維持した希有な国である。

次いで成長率が高いのはフィリピンである。2022年は6.0%、2023年は6.3%であり、2019年の水準を上回る。この2か国は、ひとり当たりGDPが3000から4000米ドル台で育ち盛りの国だ。

もう一つ、注目したい点はシンガポールとマレーシアだ。両国とも経済水準が高いにも関わらず、高成長が予測されている。経済水準が高くなれば、計算のベースとなる数値が末に高いため、あまり高成長の値は出てこない。

具体的には、米国やEUが近年は2%の成長で堅調な景気と言える。ADBはシンガポールについて、2021年は4.3%、2023年は3.2%、マレーシアについて2022年は6.0%、2023年は5.4%と高い成長を予想している。

このほか、インドネシアやタイなども、2023年に向けてコロナ前の水準に回復することが予測されている。

1人当たりGDPも2021年時点でコロナ前に近い、あるいは上回る水準に回復している国が大半だ。2022年から2023年にかけて、全ての国でコロナ前の水準まで戻る、ないしは上回るとみられる。

クーデターでマイナス成長の苦境にあるミャンマーを除けば、東南アジア経済は2020年2月からの長いトンネルから、2022年は出口の明かりが明るく見始め、2023年にはトンネルを脱すると言えるだろう。

※2022年4月12日脱稿



プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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