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リー・クアンユーのヒストリーvol.24 エリート養成 優秀な人材集め登用 効率的な政府 運営を担う

シンガポールの成功は、経済成長率や所得の向上、犯罪発生率の減少など数字が示していると思う。だが、これは結果だ。私が最も心を砕いてきたのは、こうした実績をもたらす効率的な政府の確立で、それを担う人材の確保、養成である。

現実に政府の人材不足は深刻だった。1971年には政府で計画を立案し、実施する基幹人物は300人とジャンボジェット一機分ほどしかいなかった。全員が乗った飛行機が墜落すれば、文字通り国は一夜にしてバラバラになる心細い状況だったと思う。

だから私の頭の中から人材の発掘と育成の問題が離れたことはない。70年4月、米国のアポロ号が宇宙飛行中に計器故障を起こしたことがある。宇宙船は直るのか。3人の宇宙飛行士の手腕を世界は固唾(かたず)をのんで見守っていた。私が注目したのは彼らの冷静沈着な対応だった。どうやってそんな人材を選ぶことができたのか、とうならされた。

私は外国企業も含め、どんなシステムがあるのか調べてみたし、企業経営者にも相談した。中でも私が着目したのは、国際的な大石油会社ロイヤル・ダッチ・シェルの「ヘリコプター級」と呼ぶ幹部選考の方法だ。

視野が広ければ広いほど、視点が高ければ高いほど、問題の複雑な相関関係が見えるという理屈である。人の知的能力を見るには、問題を実際的に処理する際の分析力、想像力、現実主義的思考などを踏まえて考える。

シェルという会社は指導者についても、人々を鼓舞し、動機づける方法を編み出した。我々はこれを公務員に適用したのである。私はそうした考えを参考にしながら官界、学界、経済界などいろいろな分野の優秀な人材に働きかけて人民行動党(PAP)に加盟させた。そこから国会議員、さらには閣僚への昇格という道筋をつくってきた。学業の成績に加え、私が最も重視したのは性格と人柄の高潔さである。それから知的能力とそれまでの業務成績だ。

ゴー・チョクトン現首相も外部から導入した一人である。国営海運会社ネプチューン・オリエントの経営改善で実績を上げ、経済担当大臣の推薦で76年にPAPの幹部候補生として迎え入れた。私が引退した時に彼は閣僚たちに選ばれ、首相になった。彼は国家をリードするのに、合議システムを導入し、国民の支持も得ている。

そんなわけで私はいまの政府は国で最も優秀な人たちで構成されていると確信している。優秀ではない人が政府にいるのはばかばかしい。

米国のリベラル派は行政、立憲、司法の三権が相互に監視しながら分立していることで、望ましい政府の仕組みができると考えている。私はアジアでの経験から全く違う結論である。英国やフランスの植民地の多くは立派な憲法を持っていたが、それを受け継いだ指導者たちは要職に合った能力を欠き、国は崩壊した。望ましい政府に肝心なのは適切な人材である。

リベラル派は優れた人材は言論の自由な民主制度の下では自然に浮上してくると考えている。だが、第二次世界大戦後に、そうした理想的な制度を採用した新興国家の多くが国家建設に失敗した現実を忘れてはならない。シンガポールは経済発展に伴い、ますます若い世代が就ける仕事の場が広がっている。

システムを維持する上でも私は現実的に考えた。閣僚たちの給料である。恵まれた新世代は、我々のように薄給でも政治的信念に燃えて国家のために働くとは期待しない方がいい。このため閣僚の給与も次第に引き上げ、現在は民間企業のトップより高くした。私は常に現実主義者である。

(シンガポール上級相)

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