シンガポールの日系飲食店のwithコロナ戦略【Case1焼肉王・魚王魚王グループ】

「新たな客層=ファミリー層を開拓も、宅配以外の取り組みを模索」

シンガポールでは新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、政府が4月7日から飲食店の店内飲食を禁止した。飲食店に与えた影響は大きく、テイクアウトやデリバリーでの営業を強いられ、売り上げは激減した。

店内飲食が禁止されてからすでに2ヶ月が経過し、店を畳んだ飲食店も出始めている。このような状況の中で、今後どのように経営をしていくのか。シンガポールの日系飲食店経営者にインタビューを行い、現状と今後の展望を聞いた。

初回はシンガポールで焼肉王や魚王魚王などを経営する松本尚さん。

プロフィール

松本尚(まつもと・ひさし)。カッページプラザの焼肉王やベンクーレンの魚王魚王、和食五縁など計14店舗を経営。焼肉王は、手ごろな価格で和牛を食べられることが好評で、ローカルや日本人を問わず多くの客で賑わう。44歳

客足に異変

シンガポール随一の繁華街・オーチャードエリアにあるカッページプラザに入る「焼肉王」。2017年5月にオープンしたこの店舗は、週末にはローカルや日本人を問わず満席になることも多かったという。


その客足に異変が現れ始めたのは、2月7日に政府の警戒レベルが上がってから。徐々に来店者が減り、2月は焼肉王や魚王魚王は日本人客を中心に前年比はクリアしていた。
しかし、シンガポール政府が3月下旬に一部の娯楽施設の利用を禁止すると客の姿は減少し、売り上げが半減した。

七輪が付いた焼肉セットでファミリー層を開拓

店内飲食が禁止されてから、焼肉王では七輪も一緒に貸し出すファミリーセットを始めた。ファミリーセットは、牛肉、豚肉、鶏肉や野菜、海鮮が盛られた3〜4人向けのセットで、七輪は後日、焼肉王のスタッフが回収。客は面倒な炭の処理や七輪の手入れをしなくて済むようになっている。

このセットメニューを始めたのは、元々店舗で使っていた七輪を貸し出したら面白いのではないか、という考えからだ。

店舗に来られないのであれば、自宅でお店と変わらない焼肉を楽しんでほしいと思った」と松本さん。この狙いは的中し、それまで来店がほとんどなかった日本人主婦層からの注文が多く入るように。週末にはファイリーセットだけで7〜10の注文が入ることもあるという。

厳しい状況ながらも「ファミリー層という新たな顧客層に焼肉王を知ってもらういいきっかけになった」と手応えを感じている。

新しい取り組みを模索

焼肉王ではテイクアウトとデリバリーのほかに、新たに食材の宅配も展開。肉や野菜、そして日本産の果物を注文者の自宅に届けるもので、新型コロナウイルスの感染を避けるためにスーパーに買い物に行くのを控える人たち、主に子どもがいる家庭がターゲットだ。

テイクアウトに食材の宅配といった取り組みをして、売り上げは5割程度まで回復したが、これだけの売り上げではまだまだ不十分だという。グループとして生き残るための、これら以外の新しい取り組みを模索している。

ワークシェアリングで雇用を維持

飲食店にとって大きな問題が、スタッフの雇用だ。シンガポールでは、政府がシンガポール人スタッフの賃金の一部を肩代わりすることで、企業に従業員の雇用を維持し続けるように促している。この点の補償は、日本よりも手厚いという。
松本さんのグループでは14店舗で50人ほどのスタッフを雇用し、その内訳は日本人が1割で、シンガポール人が9割。

シンガポール政府の賃金補助があるため、解雇しないで済んでいるものの営業できているのが9店舗に限られるため、どうしても人手が余ってしまうという。
そのためスタッフの勤務時間を午前だけ、午後だけというような時間帯に分けたり、デリバリーのための要員に回したりして調整している。

前述した七輪の貸し出しも、回収するためのスタッフを割けるからこそ可能になっている。

客足の回復には長い時間が必要

店内飲食の禁止は6月下旬にも解除されるとみられるが、解禁されたとしても以前のように客足が戻るのか。それに対して、松本さんは否定的な見方をする

「まず、シンガポール人はかなり減るでしょう。そして、子ども連れのお母さんたちもお店には来てくれなくなると思います。日本人会社員は、おそらく以前とそれほど変わらず飲みに来てくれるはずです」と話す。

その状況が少なくとも1〜2年は続くと予想している。

家賃交渉次第で店舗閉鎖検討

店内飲食営業が禁止されてからの期間、シンガポール政府が賃料の一部を補助してくれているが、賃料は飲食店にとって大きな負担だ。

松本さんのグループでも、不動産のオーナーと契約更新する際に賃料の減額が認められなかった場合、店舗を閉めることも考えているという。

日系飲食店が半減も

「シビアな話をすると、キャッシュに余裕がある飲食店は多くない。キャッシュフローが厳しくなれば店を潰すしかない状況に追いやられるので、シンガポールにある日系飲食店は閉鎖が続き、コロナ禍以前と比べて5〜7割程度になるでしょう」と松本さん。

日本食の人気の高まりと相まって、ここ数年数を増やしていたシンガポールの日系飲食店は、新型コロナウイルスのダメージで大きな曲がり角を迎えている。

この記事を書いた人

SingaLife編集部

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