【ロシアと東南アジア】元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

ロシアのウクライナ侵攻が4月24日に始まり、早くも1か月が経過しようとしている。ウクライナ危機は、資源エネルギーや食料価格の高騰で世界経済への影響を与えている。

東南アジアにとってロシアは安全保障上、重要な存在である。それは武器取引だ。

ロシア製の武器は米国製に比べて安い割に、性能が一定程度高いというメリットがある。特に、戦闘機は戦略上で重要だが、米国製は高価なため、予算に限りのある新興国ではロシア製のスホイに対する需要は高い。

2015年から19年の累計のロシアの武器輸出先として、1位は75億3000万米ドルでインド、2位は47億6000万米ドルで中国となり、5位に23億9000万米ドルでベトナムが登場する(図1)。

東南アジアの視点で見ると(図2)、武器の最大の調達先はロシアであり、2000から19年で107億米ドルに上り、2位米国の78億6000万米ドルを引き離している。

さらに東南アジアを国別にみていくと、ベトナムは2000から19年の累計では65億1500万米ドルと断トツに多い。さらに、ベトナムは東南アジア全体のロシアからの武器輸入のうち約3分の2を占めている。しかも、ベトナムが輸入している武器の総額のうち、84%がロシア製となっている。ベトナムにとっては、安全保障上、ロシアはなくてはならない存在なのだ。

次いで金額が多いのはマレーシアであるが、過去10年間は輸入額が大幅に減少している。マレーシアはロシア離れが進んでいると言えるだろう。

ミャンマーとインドネシアは2015から19年のデータがないが、購入しなくなった訳ではない。特にミャンマーは購入を継続していることは各種の報道で報道されており、2021年のクーデター後もロシアによる武器の売却は継続している。インドネシアについても、ロシアからの武器購入は報じられている。

今後、ロシアがウクライナ侵攻で一段と厳しい状況におかれることは間違いない。しかし、現実をみれば、予算上、ベトナムやミャンマーといった国々がロシア製の武器の購入を続けるだろう。

*2022年3月14日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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