【都市の経済力×東南アジア】クアラルンプールの経済力、日本の県と同等に

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

最近、「日本は物価が安い」という話題がメディアの紙面を賑わせることが目立つ。確かに、シンガポールに住んでいると、日本は手頃な価格で高い質とサービスと感じることが少なくない。シンガポールとの比較はよくされるし、1人当たりGDPで日本を抜いていることもよく知られた話しだ。

では、ほかの東南アジアの都市と比べたらどうだろうか。

体感レベルや、スーパーの値段での比較は、時折行われているが、マクロ的な数字でも見ることができる。都市レベルで見ると、シンガポール以外でも、東南アジアの首都あるいは大都市が日本にキャッチアップしつつあり、日本の県レベルと同等の水準に達していることが分かる。

例えば、マレーシアの首都クアラルンプールのひとり当たりGDPは、12万1100リンギットである(2020年)。2020年の平均為替レートを使って、1リンギット=約25円で換算すると302万7500円となる。この時点で感覚的に日本に近いと感じる人も少なくないだろう。

次に、日本の「県民経済統計」の平成30年度版(2018年度)で1人当たり県内総生産を算出して、下位5県をみると、一番少ない47位は奈良県の278万円、46位は沖縄県311万円、45位は埼玉県317万円、44位は千葉県337万円、43位は鳥取県の340万円となった。

したがって、クアラルンプールは奈良県を上回っており、埼玉県や千葉県といった首都圏の県にもかなり近い。

上位県との比較をしてみても興味深い結果が得られる。まずは東京都が774万円でダントツの1位だが、大きく差を開けて、2位は愛知県543万円、3位の茨城県488万円、4位は栃木県482万円、5位は滋賀県479万円となる。

ここで、日本の場合は東京が突出し、愛知県がやや高めだが、3位以下は400〜300万円台で差が小さく、平均は447万円である。したがって、クアラルンプールは日本の県レベルの経済水準に達していることが分かる。

2022年1月にニトリの東南アジア1号店がクアラルンプールにオープンするが、上記のデータをみれば納得のいく話でもある。

日本の県民総生産とクアラルンプールの比較

出所)「県民経済統計(平成30年度)」、マレーシア統計局より筆者作成


*2021年12月21日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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