ソムリエコラム Vol.4〜1億の幸せ〜
1億の幸せ
8月17日から解禁となったシャンパーニュ地方のブドウ収穫ですが、最近の世界情勢などを考慮し、収穫は近年最低量、恐らくここ数年の8割以下になるようです。また今年はどこもお祝いムードにはならないようで、残念ながらシャンパーニュも出番が少なくなりそうです。
日本酒業界も同様にかなりの苦戦を強いられているというのを耳にします。それならいっそのこと日本酒を応援しながら、しっかりとスパークリングも楽しみたいと思います。
お祝いと言えばやはり泡、グラスの底から立ち上る細かい無数の泡を見ているだけで、不思議な感覚に溺れます。ワインでは発泡ワイン・非発泡ワインと大別されるほど、スパークリングは重要なカテゴリー。日本酒でも最近は“シャンパーニュ製法”を完全に再現したものが登場したりと、スパークリング酒界は目まぐるしい変化を遂げています。中でも厳正な審査をパスしたものはawa酒として認定するという動きも見られます。
スパークリング酒の造り方は様々で、 “シャンパーニュ製法” はその中でも最高品質のものに用いられます。瓶内で自然発生した炭酸ガスをお酒に溶け込ませることで、クリーミーな泡となり深みのある筋の通った力強いお酒になりますが、その反面コストがかかり価格も上がります。他にも炭酸飲料の様に炭酸ガスを直接注入する方法もありますが、安価なだけあり泡も粗く、すぐに弱くなってしまうという特徴があります。
お酒を選ぶときは「誰といつ飲むか」というのも重要です。大事な席には高品質なスパークリングで話にも深みを、バーベキューには手頃なスパークリングで気軽に、など状況に応じて用意できることも大人の嗜みの一つですよね。
とは言え気持ちが一番、そしてみんなが楽しめるお酒が何といってもベストチョイス。1本のシャンパーニュには1億の泡=幸せが含まれていると言われているように、日本酒も泡の数だけ家族や友人と幸せな時間をお過ごしください。
Sake Tasting
人気一 瓶内発酵スパークリング 純米吟醸
今回のお酒は福島県二本松市にある人気酒造さんがつくる、瓶内発酵を施したスパークリング酒です。
こちらの酒蔵さんはウルトラマン怪獣とのコラボ商品も作っており、とある世代にとって嬉しさこの上ないと思います。私もその一人です…が、もちろん世界で様々な賞を受賞している、れっきとした日本酒にも注目です。
何といっても驚きなのは、瓶内発酵という手間をかけつつこのお値段、お酒好きには嬉しさこの上ないです。
上記2枚の写真はChampagneで瓶内発酵中の様子です。
シャンパーニュ製法では、ピュピトルと呼ばれるA型の枠にボトルを逆さに刺し、発生する澱を沈めていきます。
また光を当てるとよくわかるように、結構な量の澱が見て取れます。
<外観>
グラスに注ぐとはっきりと、うっすらと濁っているのがわかりますが、これは敢えて澱を残しているためです。
泡はとても細かく途切れることなく立ち上ってきます。
これが炭酸ガス注入方式だった場合、始めは大きく徐々に弱くなってきますが、さすが瓶内醗酵だけありうっとりと見とれてしまいます。
<香り>
日本人ならおそらく知っている「すあま」のような、甘くもちっとした香りが第一印象で、他にも綿あめ等甘い香りが漂います。
そんな中で米ぬかのような、しっとりとした細かい粉末のような感じがあり、これは純米由来かつ澱(オリ)を残していることからきているのではないでしょうか。澱(=役目を果たした酵母)由来のブリオッシュやヨーグルトといった複雑味も持っています。
<味>
かなり甘く感じる方も多いかもしれませんが、クリーミーな泡・適度な酸味など相まって、べったりとした嫌な甘みではなく喉を潤すような清涼感ある優しい甘味が口に広がります。
しっかりと一言で表すならミディアムスウィートではないでしょうか。
ご存知の方は、フランスLoireの甘めの白ワインVouvray Moelleux程度と言えばわかっていただけるかもしれません。
甘すぎないというもどかしさから、どんどん進んでしまう絶妙な甘さ加減です。
アルコールも7%と低め、それこそジュースの様に飲めてしまいますが、しっかりと味わう事で色々な表情が浮かんできます。
この酸味も香り同様ヨーグルトを連想させるようなクリーミーな酸味です。
ボディーも柔らかいんですが、それが泡によりしっかりと支えられています。
余韻は比較的短い中程度とやはり軽めで、ひと夏の終わりのような儚さを連想してしまいます。
<総評>
実はかつてフランスでは、甘口ワインを食前酒に飲んでいた時代があったと言われています。
ですので順序関係なく、食前にのどを潤すためにこのお酒から始めるのも面白いと思います。
酸味はやや控えめなので、酸味の強い食事は避けた方が無難です。
どちらかと言うと、生ハムなど多少脂身を持つ前菜が合うと思います。
オリーブオイルを使用するサラダやカルパッチョなどもいいと思いますが、オリーブやケイパーなどの酸味には気を付けてください。
先に挙げたVouvray Moelleuxだとフォアグラに合わせたりするのですが、このお酒だと負けてしまいそうです。そんな日本酒の繊細さが愛おしいですよね。
次回は皆さんが何気なく毎日使っている@とワインの関係について触れてみたいと思います。
< プロフィール >
渋谷 大輔
Daisuke Shibuya
<略歴>
北海道札幌市出身。現在、Suntory F&B Internationalが展開するSUN with MOON Japanese Dining & Caféと串カツ田中でシニアマネージャーを務める。
2020年には インターナショナルワインチャレンジ酒部門 准審査員に抜擢。
<ワイン資格等>
Certified Sommelier by Court of Master Sommelier
WSET Advanced Certified in Wine
インターナショナルワインチャレンジ酒部門 准審査員
WSET Advanced Certified in Sake
<受賞歴>
2019年 シンガポール – フランスワイン ベストソムリエコンクール優勝/アジア大会シンガポール代表
2019年 シンガポール – アメリカワイン ベストソムリエコンクール優勝
この記事を書いた人
SingaLife編集部
シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!