シンガポールにおける男女平等への道のり

世界経済フォーラム(WEF)による世界各国の男女平等の度合いをランキングした「ジェンダー・ギャップ指数2020」で、シンガポールは153カ国中54位にランクインしました。しかし、シンガポールにおける伝統的なジェンダー論は根強く、膨大な家事に苦しんだり、性別のせいで昇進ができない女性は数多く存在します。中には、性的暴力の被害に遭う女性も。

こうした状況を受けて、シンガポール政府は本当の意味での男女平等を実現するための取り組みを始めています。K・シャンムガム法務大臣は、2020年9月に「ジェンダー平等に関する捉え方を根本的に変える必要がある」と語り、それ以降、ワーキングマザー、若い女性、主婦、男性も含む1,800人以上の参加者との対話集会を実施。家庭内暴力に対する対策委員会も設置され、サン・シェリン社会・家庭振興担当大臣とムハンマド・ファイシャル・イブラヒム内務大臣が共同議長となり、対応策を検討予定です。

憲法を改正して男女平等を明文化?

シンガポール憲法では、宗教、人種、血統、出生地による差別が明確に禁じられています。女性運動の第一人者である元国会議員のカンワルジット・ソインさんは、性別による差別も憲法上で同様に禁止されるべきと考えています。

シンガポール政府は、憲法第12条(1)に定める「すべての人の平等の原則」が、性別による差別もカバーしているという立場を取っています。しかし、ソインさんは「シャンムガム法務大臣は、平等は形式的かつ実質的でなければならないと述べました。これは、憲法に明文化して初めて達成できることだと思います」と話します。

ただ、明文化すれば問題が解決するかと言えば必ずしもそうではありません。ジェンダーの平等を憲法に取り入れたことで、訴訟が多発している他国での状況を踏まえると、改正には慎重になるべきだと主張する人もいます。

例えば、マレーシアでは2001年に憲法を改正。現在、マレーシア航空と政府に対して、性差別に関する訴訟が提起されています。シンガポールでジェンダー差別を完全に禁止すれば、女性憲章や鞭打ち刑などの一部の罰則が女性が対象外になっていることなどが憲法違反となる懸念もあります

変わる男性の役割

ジェンダー平等の推進のためには、男性は女性の権利を守るだけではなく、介護や育児など、これまで女性が中心と担ってきた役割についても、夫、父、息子として積極的に関わっていく必要があります。しかし、そのためには「男性が仕事を犠牲にしなければならない」という考え方が根強く存在します。

「センター・フォー・ファザーリング」の最高経営責任者、ブライアン・タンさんは次のように指摘します。「私はかつて、夫や父親の役割は、仕事で成功を収め家族を支えることだと信じていました。しかし、家庭を顧みず仕事に打ち込むあまり、家庭での存在感がゼロであることに気付いた時、深い罪悪感を抱くようになりました」。

タンさんは、その後「ダッド・フォー・ライフ」のプログラムに参加し、家庭で夫や父親としての役割を務めるために仕事を休むことは恥じるべきことではないと気づきました。
世界保健機関(WHO)による欧州での研究では、ジェンダーや男らしさについての偏見が男性の健康に大きな影響を及ぼすことも明らかに。男女平等度が高い国に住む男性は幸福度が高く、死亡率や自殺、うつ病の発生率は低いといいます。

兵役における男女平等は?

シンガポールには兵役制度(ナショナル・サービス)がありますが、それが男女間の不平等を促しているという意見も。例えばシンガポールの多くの企業では、2年間の兵役を考慮して男性の初任給は女性よりも高く設定されているといいます。

元国会議員のソインさんは「女性が兵役に参加できるようになれば、ジェンダー平等が進む」と信じています。「シンガポールでは、多くの政治指導者が軍隊出身です。女性も同じように兵役の中で昇進しない限り、男性と同じ地位に就くことはできません」。

現代では軍隊のありようも変化し、サイバー攻撃や、ドローンやロボット兵器といったコンピュータ制御の武器も登場しています。そうした状況では、男女の体力面の優劣はあまり関係なく、女性も軍隊で活躍できるのではないか、という考え方もあります。しかし、エング・ヘン国防相は「女性は人口統計学的な理由がある場合のみ徴兵されるべき」と述べ、否定的な見解をしめしています。

タンさんは、21年間も軍隊で働いていました。その経験から、女性も兵役に参加可能だろうと話します。しかし、タンさんは「現在全てのシンガポール国籍の男性が2年間徴兵され、さらに徴兵終了後も最大で10~13年間は予備軍に入ります。国にとっては働き盛りの男性が軍隊に取られるため、莫大な経済的コストがかかる仕組みであり、もし女性も徴兵するとなった場合には、その仕組みが経済的・社会的に耐えられるのかは疑問です」とも語りました。

ただ、タンさんは「兵役の2年間で家事のやり方を学んだ」とも言います。「軍隊では、ほとんどの男性が自分でトイレ掃除やベッドメイキング、洗濯、アイロンがけをします。軍隊でできたのであれば、家庭に戻った後でも続けることができるはずです。」

シンガポールでもまだまだ途上のジェンダー平等への道。決して簡単ではなさそうです。


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この記事を書いた人

SingaLife編集部

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