【ノルウェー・テレノール×アジア事業】北欧通信会社の雄テレノールが賭ける東南・南アジア事業

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

ノルウェーの通信大手テレノールが7月8日、ミャンマー事業撤退を発表した。2月のクーデターを受け、事業環境が悪化したことが理由とされた。

ノルウェーの通信会社が東南アジアでビジネスをしていることを意外に感じた人もいるだろう。東南・南アジアの通信事業は長らく国営や財閥資本による寡占だったが、最近10年ほどで、外資企業の参入や現地の新規参入があり、状況が変わった。

様々な論点がある業界だが、本稿ではテレノールの東南・南アジア事業について整理したいと思う。

※注:北欧の売上げには携帯電話以外の固定ブロードバンド等も算入されている。アジア事業は携帯電話事業のみ。
出所)Telenor Annual Report 2020より筆者作成

海外事業で売り上げが一番大きいのは、65%の株式を保有するタイのDtac事業であり、237億ノルウェー・クローネ(NOK、約2940億円)の売り上げがある。ノルウェー本国が263億NOK(約3270億円)であるから、それに次ぐ規模だ。デンマーク、スウェーデン、フィンランドといったお膝元の北欧諸国よりも遙かに大きい。

そして、アジアでタイに次いでバングラデシュとマレーシアが大きい。売上げは、バングラデシュは55.8%保有するGramenphone社の事業で154億NOK(約1915億円)、マレーシアは49%保有するDigi社の事業で137億NOK(約1700億円)だ。

テレノールは以前、東欧やインドなど上記以外に13カ国も展開していたが、いずれも撤退した。そしてミャンマーの撤退も決まり、7月下旬にはタイ事業の売却という噂が市場で広がった。7月29日にdtacは、「噂に過ぎない」と否定して、東南アジア戦略に変わりはないと強調した。

北欧は生活環境の良さは世界的な評価のある地域だが、人口が少ない。そして先進国の通信事業には既存のプレーヤーがおり、入り込む余地は少ない。そうしたなか、テレノールは過去20年ほどで果敢の新興国に進出した。

ミャンマーとタイの事業を取り巻く環境からはアジア展開の難しさを感じさせる一方、上位シェアを持っていることも確かだ。そうしたなか、テレノールが東南アジア・南アジア事業で次の一手をどうするか注目しておきたい。

*2021年8月2日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。



この記事を書いた人

SingaLife編集部

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