日本を代表するゲーム・デザイナー水口哲也さんインタビュー
マリーナベイ・サンズのアートサイエンス・ミュージアムで行われている「Virtual Realms: Videogames Transformed 」が話題です。
世界中から賞賛を受けている6つのビデオゲームの開発メンバーとトップクラスのメディア制作スタジオ6組がそれぞれコラボレーションし、大規模なインスタレーションを作りあげた企画展。ビデオゲームがミュージアムのギャラリーに登場し、未だかつて出逢ったことがない特別なコンテンポラリーアートとしてお見せします。
今回、当イベントでコーキュレーターとして参加をされた水口哲也氏にお話を伺う機会に恵まれました。水口氏は、全米プロデューサー組合(PGA)とHollywood Reporter誌が選ぶ「Digital 50」(世界のデジタル系イノベーター50人)に選出された日本人セレブリティ・ゲームデザイナーです。
水口さんにとって、今回の企画に参加をされたきっかけは何だったのでしょうか?どのような関わり方をされていますか?
今回、僕は2つの役割を担っています。ひとつはコーキュレーターとして全体の企画をキュレーションすること。もうひとつは、「Rezonance(レゾナンス)」という作品に作家のひとりとして参加しています。
今回参加のきっかけを頂いたのは、ロンドンにあるアート展を企画・実施するバービカン・インターナショナルのメンバーであり、キュレーターのパトリック・モラン氏から連絡を頂き、打診があったのがきっかけです。
構想は2018年からスタートしました。そこからパトリックさんとバービカンのメンバーと一緒に、この企画展に興味を持ちそうなゲームクリエイターを集め、作品化したら面白そうな作品をリスティング。また、メディアアーティスト側でも興味を持ちそうな方々をリスティングしました。
まず、ゲームクリエイターの方々に打診をされたのですね。
はい。それからは話し合いも含め1年近くかかっています。実際に作り始めてからさらに1年くらい。
そこからCOVIDが始まってしまったので、企画展が1年ぐらい延びてしまいました。その間、移動が出来ない制約を受けながら進めてきたので、予定よりも時間がかかってからの公開となりました。
コロナ禍でのコラボレーションは難しい点が多かったですか?
そうですね。普段だったら色々楽しく出来たと思うのですが、大変でしたね。今回、作品は世界中で6つのコミッションとして制作されたのですが、それらが一度ロンドンに送られています。
実際に機能するかどうか、バービカンセンターで組み上げてチェックをしたためです。本当はその場にも立ち会いたかったのですが、オンラインでカメラ越しにチェックをする作業を続けました。全てのコミッションで行なったので、みんな大変だったと思います。
まさかの事件に巻き込まれて…
その後シンガポールに持ってくる時に、作品を積んだコンテナがスエズ運河の座礁事件に巻き込まれてしまいました。色々経ていますね(苦笑)。バービカンのメンバーも非常に頑張ってくれて、予定よりも遅れてしまいましたが、公開することが出来るようになりました。
色々なハードルを乗り越えての公開なのですね!今回の企画展における背景について教えて頂けますか?
ビデオゲームは50年ぐらいの歴史があって。今まで本当に沢山の作品が誕生していますね。今は映像が実写と見間違うぐらい綺麗な状態になっているし。VRなどの技術によって新しい体験が生まれていますね。これは終わりがないというか、常に表現が進化し続けていますね、ビデオゲームは。
基本的に体験は言語を超えていくし、世の中に浸透しているんですね。普段テクノロジーを使ってアート作品を作るようなアーティストたちも、より体験をアートにする機会が増えてきているのを感じます。
そういうメンバーがお互いにコラボレーションしてゲームが持っている体験のエッセンスを拡張するとすれば、どういう作品が生まれてくるだろう?というピュアな発想からこの企画展はスタートしています。
具体的なテーマはあったのでしょうか
今回のメッセージは、「バーチャルの王国」という意味合いですけど、ゲームって色々な側面があるんですよね。
6つの作品にはそれぞれテーマがあるのですが、例えば「ユニティ」、僕の参加した「シナスタジア(共感覚)」、「コネクション」…それぞれの言葉がゲームの現状を表してると思うんです。ゲームの共感覚性で感動して泣いたりするようなことは、以前はなかったと思うんです。技術が磨かれた中で、強い感情を覚えることが増えてきたという印象です。
ゲームが持っている側面というか要素が詰まっている企画展でもあるし、ゲームという体験が、もしかしたらアートと混じっていって新しい体験に変わっていく可能性もある。その未来を示唆したり、予兆するものかもしれません。
単純にゲームを展示するのではなく、ゲームの持っているエッセンスをメディアアーティストたちと組んで新しい体験に変えてみる。それが大きなテーマかなと思います。
どういった方々に見てもらいたいと思われますか?
ゲームはやったことがない人はほとんどいないと思うのですが、普段ゲームをやらない人でも、ここにクレジットされている作品を全く知らない人でも是非ご覧頂きたいです。
このアートを通じてちょっとでも興味を持ってそのゲーム作品に触れていくということがあってもいいかもしれないと思います。きっと楽しめると思いますし、もちろんゲームが大好きな人たちや、将来仕事にしていきたい人たちにとっても未来に対するメッセージを受け取って頂けるかと思います。
今回、特に力を入れられたことは何ですか?
一番大変だったのはパンデミックの中で企画されて開催されたアート展だということですね。
体験のアートを作るのは、本来は制作メンバーが集まって確認し合いながら作っていくことが当たり前ですが、途中からほとんどのプロセスをオンラインでやらざるを得なくなってしまったこと。もう、その一言に尽きますね。
いつもだったら1週間で終わることが何週間もかかってしまうことが起こりました。でも、そんな中でも、公開出来たことは嬉しいことでもありますし、お客さんがきてくれるということが有難いですよね。
貴重なお話をどうもありがとうございました!これからもどうぞご活躍くださいませ。読者の皆様もどうぞ直接足を運んで体感してみてくださいね。
水口哲也(みずぐち・てつや)さん
Enhance代表
Synesthesia Lab主宰
クリエイター、プロデューサー、実業家、大学教員。Enhance(米国法人エンハンス)代表、Synesthesia Lab(シナスタジアラボ)主宰、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授。米国Game Developer’s Conference、Developer Choice Award 受賞(Rez)欧州アルスエレクトロニカ、インタラクティブアート部門Honorary Mention、経済産業省デジタルコンテンツグランプリ・エンターテインメント部門サウンドデザイン賞、文化庁メディア芸術祭特別賞などを受賞 全米プロデューサー組合(PGA)とHollywood Reporter誌が選ぶ、「Digital 50」(世界のデジタル系イノベーター50人)に選出。米国The Game Award最優秀VR賞受賞 (Rez Infinite)
この記事を書いた人
SingaLife編集部
シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!