エンタメのスペシャリストが語る シンガポールのエンタメマーケット事情や強みとは?

今回は、シンガポールをはじめ様々な国のエンタメ業界で活躍し、大学で英語講師も務めるなど、マルチかつインターナショナルに活躍中の中山淳雄さん(41歳)にお話を聞きました。

淳雄さんは、在星中、そして帰国後もエンタメに絡む仕事をとても幅広くされていますが、現在は何を?

シンガポールでは、エンタメ事業などを幅広く手がけるブシロードで執行役員として日本とシンガポールを行き来しながら、ゲームやアニメ、カードゲームの製作に加え、音楽やスポーツ事業にも携わりました。赴任としては海外5年、シンガポール3年ですね。

その途中で本や講演などもやっていた関係で、早稲田大学とご縁ができて、2017年からMBAで非常勤講師としてエンタメビジネスを教えています。そこからの派遣でシンガポールの南洋理工大学MBAでも授業をやっていました。映画、アニメ、アート、スポーツなどの産業・企業戦略を英語で教えてます。

実はこの2021年春から夏に色々激変しておりまして、ブシロードは退職して、顧問での勤務となってます。早稲田大学で博士課程として学生でまた学びなおすことになって、新たに慶応大学と立命館大学で教えたり、研究したり、同時に自分でRe entertainmentという会社を立ち上げて色んな会社さんのコンサルとか顧問とかをやりながら、模索の時期に入っております。


エンタメ業を活かして、教えることも精力的にされているんですね

結局動き回って営業した結果ではあるんですが、大学はちょっと普通の企業とは違うので、それなりの方からの強い推薦がないとチャンスがないので本当に幸運が重なった感じです。2016年から20年まで、早稲田大学と南洋理工大学の両方で講師をやってたときに、毎年25時間分の資料を英語で作成し説明しきるのは、本当に磨かれます。

バンクーバーにも住まれていたそうですが、シンガポールとの違いは?

バンクーバーは生活空間としては最高なんですが、とにかく田舎なんですよね。仕事よりも生活が主体にあって。一方シンガポールはシティの色が濃く、刺激に溢れていて、人の出入りが激しい。ビジネスのスピード感も凄いし、熱気が違いますね。

そんなシンガポールで属していたブシロードは、コロナ禍でもダメージはない?

ブシロードの海外売上は北米が中心なんですが、メインコンテンツのカードゲームがコロナ禍で売上が伸びました。コレクションとしてのカードは価値が落ちず、むしろエンタメ消費が少なくなったのでインベストで購入してる人も多いんです。

デジタルのアプリゲームも好調ですね。ただ、デジタルやカードゲームは良いのですが、人が集まるイベントを出来ないので、プロレスや音楽ライブといったリアル系はもちろんダメージを受けました。

マーケット的に東南アジアはどうなのでしょう?

面白いデータがありまして、シンガポール人は一人あたりでエンタメ消費額が極端に少ない。GDPは6万ドルなのに、1人あたりのエンタメ消費でいうと年100ドルもない。米国や日本の1/10以下です。やはり投資領域を振り切ったこの国ならでは、ですよね。

出典)三井物産戦略研究所レポート(2014年)をもとに著者作成

日本はモバイルゲームに1.5兆円、カードゲーム1千億円のマーケットですが、東南アジア全部入れてもその1/5にもいかないレベルですから。しかも欧州と違って国ごとに言語ややり方まで変えないといけない。そうすると東南アジアの数倍以上ある韓国・台湾といった東アジアが優先になってしまいます。

エンタメ企業からすると東南アジアは生産・製造地としてはポテンシャル十分なんですが、消費市場としてみてしまうと不十分。この図からもわかるように1人1人の消費額が日本の開発・生産コストを支えきれないんです。

日本を中心にしながら、やはり海外全体でいうと北米と中国がメイン、そこに東アジアがついてきて、ただビジネスとしての親和性はポリティカルリスクも低い東南アジアは開発のバリューチェーンに組み込むのはよい、といった位置づけに現状だとならざるをえません。

ところで、帰国後、改めてシンガポールの教育面に刺激を受けたとか?

はい。他の国には真似できない程、突出していますよね。私の子供はローカルインター幼稚園の後、クレメンティの小学校に通いましたが、今思うとどちらも日本の普通の公立とはずいぶん違いました。

そのまま日本と比べてしまうのはなんですが、今通わせている日本の公立校は、コロナ禍でしばらく休校して、半年くらいしてからようやくリモート対応で宿題出し始めと思ったら、週1枚のプリントでしかも自己採点というお粗末ぶり。

ワクチンもそうでしたが意思決定までが膨大な時間を要するし、失敗に寛容ではない文化なのでトライアンドエラーがされない。横目でシンガポールがとても羨ましかった。

一方で、クリエイティブな分野では、シンガポールは強くはない?

創作活動ってシンガポールの「選択と集中」の外側にあるんですよね。クリエイティブって既定の思考を外すところから生みだされることが多いんですが、そんな余裕はないと言い切ってるのがリー・クワン・ユーでしたもんね。

金融やコンサルとして同僚をみるととても優秀だなと思いましたが、世界をあっと驚かせるエンタメづくりにはまだまだ時間がかかる気がします。

一方日本人は、一見真面目そうな印象があるけど、実は、緩いがゆえに意外とコースを外れている面白い人も多いんですよね。

都市ごとに、寛容性と才能、技術の3要素ではかる指標「グローバル・クリエイティビティ・インデックス」でみると日本はスウェーデンに次いで世界2位、アメリカ4位に対して、東南アジアは調査対象にもなっていない。中国は36位にありますが。

ゲーム開発のトップ企業のマッピングもこちらの取材で書いたように、どうしても米・日・東アジア・欧州の順になってしまいます。

個人的には、今後中国が面白いので住んでみたいんですよね。やはりカオスで生活しずらいけど成長しているものの中に、未来が見えます。東南アジアでクリエイティブ領域を伸ばそうと政府補助も含めて勢いがあるのは、マレーシアやタイですかね。

淳雄さんから見て、シンガポールの強みは何でしょう

とにかく統制力が凄い。資源のない状態で人材投資だけでこんなにうまくいくんだなと。移民人材誘致もちゃんとできている成功パターン。計算できうる限りの戦略を着実に達成できていて、システマテックなところに特化している。

国のサイズで考えたら、あれこれ広げるよりは、ベンチャーのように今熱い領域に選択して張っていく今の形がとても合っていると思います。

今後の目標は?

エンタメ業界で事業家と研究者の両軸をもった唯一無二の存在になること。日米とか日中とか日星とか地域的な専門性を磨いていきたいです。大学からみても、こうした産業・事業観点の強い研究やっている人ほとんどおりませんので、この実業と研究を両立できたらとても面白いと思うんです。Re entertainmentで最終的にはやっぱり事業を作るということを一番の目標に置いてます。

読者にメッセージを☆

シンガポールのような、いわゆる“中間の国”にはイノベーションがあると思うんですよね。

シンガポールには、中華系、マレー系、インド系をはじめ色々な国の要素がミックスされているからこそ、バランス良く“良いところどり”ができていて、そこにはイノベーションがあると思います。

そして、こういう国にいると、自分のことも客観的に見られる機会が多い。自分自身がどう生きるかを見つめ直せるんですよね。

帰国したら、いかに恵まれた環境だったか改めて実感されると思うので、今在星の皆様は、色々な要素の入り混じる地の利を生かして貴重な経験をして頂きたいと思います。

中山淳雄さん

リクルート、DeNA、デロイトで勤務した後、2013年末からバンダイナムコスタジオに入社。そのまま2年間バンクーバーでゲーム会社の立ち上げ、2016年からシンガポールに赴任し、マレーシアでも会社設立。その時シンガポールに在住していたブシロードの創業者との御縁で途中からブシロードに転職、執行役員として日本とシンガポールを行き来しながら、ゲームやアニメ、カードゲームの製作以外にも、音楽やスポーツ事業にも携わる。海外歴5年、シンガポール3年。

2017年から早稲田大学でMBAで非常勤講師としてエンタメビジネスを指導。そこからの派遣でシンガポールの南洋理工大学MBAでも教鞭をふるう。映画、アニメ、アート、スポーツなどの産業・企業戦略を英語で教えている。

☆エンタメ業界で事業家と研究者の両軸をもった唯一無二の存在になる、という目標の第一弾なのですが、10月に日経BPから新著『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』(9月末にはAmazonに出る予定)前著『オタク経済圏世記』からコロナ以後のエンタメ世界と中国覇権の始まりという観点をいれた、進化版の内容になっています。これから「推し」というファンのメンタリティをデジタルベースでつかまえていくべきかという、業界的にはかなり注目度の高いテーマについて取り組んだ作品です。ぜひ購入&レビュー頂けると嬉しいです!


この記事を書いた人

SingaLife編集部

シンガポールライフをもっと楽しく豊かに、をコンセプトに、在留邦人や短期滞在者、またシンガポールに興味がある方に、実用的で生活に役立つ情報を提供しています。