【野生動物×新型コロナ】頭数が倍増したシンガポールのカワウソ。人間との共存共栄もニューノーマルへ

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

コロナ禍で人間の移動は大幅に制限されたが、野生動物は人間がいないことで、より自由になった。

世界各地がロックダウンを経験し、もはやこれまでの世界とは違うと認識し始めた2020年7月31日、エスクァイア日本版は、学術誌Nature Ecology and evolutionの2020年6月20日号掲載の論文で使用された「anthropause(アンスロポーズ)」という言葉を紹介した。

「人間の活動の停止により、動物の行動範囲が拡大する現象を表す新しい用語」という意味だという。

アンスロポーズは都市国家であるシンガポールも影響があった。シンガポールは意外なほどに野生動物が暮らしているのだが、特に有名なのは野性のカワウソ(Otter)だろう。

日本人SNSやメディアでその愛くるしい姿がシェアされ、話題になってきた。本サイト読者にも、ボタニック・ガーデンズやマイリーナベイなどで実際に見たことがあるという方もいるだろう。

この地域であれば、有名クラブにちなんだZoukと呼ばれるファミリーの可能性が高い。あるいは、少し前であればZoukとの縄張り争いに敗れたSBGファミリーかもしれない。

カワウソは世界で11種類確認されており、シンガポールではコツメカワウソとビロードカワウソ(スムースコートカワウソ)が生息しており、普段、目撃されやすいのは絶滅危惧種ビロードカワウソの方だ。

シンガポールのカワウソはコロナ期間中に頭数が増大した。2017年時点では、シンガポールで生息が確認されていたカワウソは79頭であるが、今年4月17日付The Straits Timesの報道では150頭へと、ほぼ倍したとされている。

報じられた専門家の発言によれば、頭数が増えすぎたということはなく、心配する必要は無いとされる。一方で、カワウソは普段はおとなしいが人間の行動の仕方によっては攻撃をしてくる。コロナ渦中にカワウソに襲われてけがをしたとシンガポール各紙が複数報じている。

カワウソは縄張り意識が強く、シンガポールには10家族が暮らしていることが確認されている。

アンスロポーズを経験した野生動物たちにとって、コロナ後のニューノーマルを迎え始めている。人間と動物の共存共栄もニューノーマルなあり方を模索していく必要があろう。

※2022年5月4日脱稿



プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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