アジア最大級のギャラリー「ホワイト ストーン ギャラリー」がシンガポールにプレオープン!見どころを紹介
ホワイト ストーン ギャラリーは、1967年に東京の銀座にオープン以来、アジアで最も先駆的なギャラリーと呼ばれてきました。戦後日本の美術史の重要な部分である具体美術協会の作品や、現代および新進気鋭の若手アーティストを世界に紹介しています。
そのホワイト ストーン ギャラリーが、シンガポールアートウィーク(SAW)の開催に伴い、シンガポールにギャラリーをプレオープン。シンガポールのアートファンへの顔見せにと、素晴らしいコレクションをお披露目しています。
今回は、ホワイトギャラリー社長白石さんやアーティスト江上越さんのインタビュー並びに展示作品を紹介します。
場所はSingapore Art Museum(SAM)が入る、現在のシンガポールのアート拠点とも呼ばれるTanjong Pagar Distripark。総面積13000平方フィート超えの広々としたギャラリーは天井も高く、ゆったりとした気分で作品を眺めることができます。
ホワイト ストーン ギャラリー社長 白石幸栄さんにインタビュー
まずは今回の仕掛け人である、ホワイト ストーン ギャラリー社長、白石幸栄さんにお話を伺いました。
日本からアジアへ、大アジア時代を目指す
24歳でナスダック上場企業の社長となった白石さん。ダイヤモンドという美しい宝石を手がけ、業界を席巻しました。そして10年前に先代の白石幸生社長の後を受け、社長に就任されました。
目指したのは国際化、IT化でした。多くの外国人スタッフを入れ、台湾、香港でギャラリーをオープン。着々とアジアで地盤を固めました。そして今年2023年にシンガポールに巨大ギャラリーをオープンしました。
「アートを通して世界とつながるのが夢です。アートは視覚に訴えるもの。視覚は言語に左右されないし、見るものによって感じ方も自由ですから。言葉で伝えるものは、どうしてもその使用言語に左右されるので。
アートはヨーロッパで生まれ発展し、アメリカで花開いた芸術です。でも100年後には大アジア時代というものが生まれるかもしれないと思います。
今はフランスがおしゃれと言われているけれど、いずれアジアがおしゃれと言われるかもしれないですよね。ホワイト ストーン ギャラリーは、日本からアジアへ進む先駆者になりたい。道を切り開き、後進が続くように、と白石さん。
現在70〜80人ほどのアーティストを持つホワイト ストーン ギャラリーですが、全てのアーティストに共通するのは、唯一無二の作風を持つアーティストだということ、人となりや未来へのビジョンがしっかりとしている方ばかりということです。国籍や性別も関係なく、アートを志すという共通項だけがある人たち。白石さんはアートとビジネスを両立させたいと思っています。
例えば1人のアーティストの作品を日本各地、世界各地で作品を発表し、広く名前を浸透させる。ブランディングにより、作品の価値も上がり、アーティストもコレクターも幸せに。今ではなく、未来を見据えてアーティストに投資をしていく、成功したからといって例えばスポーツカーを買ったり豪遊したり、自身の欲を満たすことはしたくないと言います。
自身については「運がいい」。運がいいと言うことは縁があると言うことで、その運と縁が素晴らしいアーティストの再評価につながったそうです。その方こそホワイト ストーン ギャラリーが力を入れている、具体美術協会に属していた上前智祐(うえまえちゆう)さんです。
アーティストとの新しい出会い
日本における戦後初の前衛的なアーティスト集団ですが、60名ほどいるアーティストの中で再度調査をして出会ったのが、上前智祐さん。
上前さんの作品
92歳の時に出会い、その後ホワイト ストーン ギャラリーがロサンゼルスで個展を開き、そこで世界的アートコレクターのハワード・ラチョフスキーさんによりコレクション全てが購入されたそうです。そしてそれがきっかけで上前さんの海外での知名度も上がりました。
上前さんが97歳で亡くなる1週間ほど前にサザビーズで売却された一枚は、100万円単位で購入されたものが、1億円の値がついたとか。定年まで船を作り続け、仕事が終われば趣味の制作をし、こつこつとやってきたアーティストが花開きました。そしてそれを叶えたのがホワイト ストーン ギャラリーです。
2023年、3カ国に展開
アジアのアートシーンを牽引する日本発のアートギャラリー、ホワイト ストーン ギャラリー。シンガポールの次は中国、韓国と続きます。
2023年2月中旬以降は一旦ギャラリーを閉鎖し、5月か遅くとも6月には建築家隈研吾氏により、美しいギャラリーに生まれ変わります。そして1月または1月半ごとに変わる展示は、無料で楽しめます。そこで出会った作品があなたのリビングを飾る事もあるかも。
今現在の展示は、もしかすると今回見るのが最後かも。その後は誰か一人のものになるアートもあるでしょう。ぜひ一期一会のアートに触れ合える機会を逃さずに。
シンガポールアートウィーク 2つの展示
そして今回、シンガポールアートウィークの参加にあたって2つの展示が用意されました。
1. We Love Singapore
グループ展「We love Singapore」では、戦後から現代までの日本を代表するアーティストの作品を含め、ホワイトストーンのアーティストが本展のためだけに描いた新作を展示しています。
個性もアートスタイルも異なるアーティストたちが1つのテーマで書き上げた新作は、ユニークで全く違った感性を惜しみなく見せてくれます。そしてすばらしいのは、気に入った作品があれば購入できることです。
美術館での展示はいくら気に入っても、自分の手元には入りません。でもホワイト ストーン ギャラリーの作品は、自分だけの作品にすることができる。夢が生まれます。
2. ソロ エキシビジョン「江上越個展:行く川のながれは絶えずして…」
フルタイトルは、「江上越個展:行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。 よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しく・とゞまることなし。」
方丈記の冒頭部分より引用するテーマは、「生々流転、世の中の無常も、しかしそれもまた人生、生きることは旅をすること、川の流れのように」とエキシビジョン紹介の文章の締めに書かれています。
会場にはレインボー、虹のようなストロークで描かれた人物が観客を迎えてくれます。いろいろな色の集合体なのに、決して混ざり合うことはなく、でも寄り添ってキャンバスを彩ります。
色合いは明るく、見る人の心を温めてくれます。絵の横に添えられた言葉にも注目してください。
アーティストインタビュー 江上越さん
1月7日、Tan Siuli(キュレーター)さんとの対談前のお忙しい中にお時間をいただきました。江上さんも多くの新作を出しています。
シンガポールをイメージして描かれた大作「Rainbow-2022-W-42」は、今までで1番大きい作品で、いろいろな人種の女性たちがひもを持って立っている作品です。ピンクや黄色などで彩られています。
江上さんはコロナ禍になり、ソーシャルディスタンスという言葉を聞いた時に実にしっくりときたそうです。
「普通はコミュニケーションを通して距離を縮めようとするけれど、実はコミュニケーションはお互いの距離を知ること。コミュニケーションとはなんなのかと本質を見つめるうちに、距離感、周りを見つめる先にコミュニケーションの本質が見えてくる」
そうして、ソーシャルディスタンスシリーズを描き続けてきて、その先に今回の「Rainbow-2022-W-42」という作品が生まれたそうです。
「今までで1番大きい作品なんですけど、シンガポールにはいろんな人種がいて、宗教があって、小さいところにいろいろなものが詰まっている。意義深い。それを絵にしたかった」とのこと。
そして色彩のイメージもオレンジなどといったカラフルな色。これまでの作品と比較してもより明るい色調になりました、と江上さん。内側から色を発するような色が自然と生まれたそうです。
コロナの時、⽂化庁新進芸術家海外派遣プログラムでニューヨークへ。アメリカではアジアンヘイトが過熱中で、地下鉄に乗らないで、と注意喚起をされるなど大変な時だったそう。でもそんなときだから、より多様性とか今まで見えなかったものが見えてきた時期でもあったそうです。
多様性をポジティブに捉え、その中でコミュニケーションを作品に描き出す江上さん。江上さんの作品は実体験が元になるといいます。コミュニケーションで苦労したことや誤解や誤聴。でもそれを苦しみでなく、面白いと取る江上さんは、常に作品にそして世界に希望を持って、それを伝えてくれます。
レインボーは線を描き、美しいけれど、混ざり合うことはありません。ですが、心地よく協調しているようです。江上さんの作品は完売することが多く、今回のように多くの新作を見られるのは、稀有な機会です。唯一無二のアートを追求する江上さんの作品は、きっとあなたにも語りかけます。
江上越 |
1994年千葉県生まれ、日本、中国、ヨーロッパを中心に活躍し、展覧会にて作品完売を続けている今話題の若手作家。
ドイツHFG(The Karlsruhe University of Arts and Design)、北京・中央美術学院へ留学。豊富な海外体験からコミュニケーションの可能性を再考し、言語の起源を含むさまざまな学問領域から探求している。
とりわけ、言葉による社会の再考に傾注。彼女の「プロジェクト」は、そのサイトスペシフィックな現地調査と文献資料で国際的にも高い評価を得ている。
画像出典:Etsu Egami 出典:White Stone Gallery
誰でも楽しめるアートを
恥ずかしながら筆者にはアートの素養はなく、美術館に行っても「ああ、なるほど」的な感想しか抱けませんでした。ですが、不思議なことに今回の展示はストレートに心に届きました。今回、2日にわたって伺ったのですが、前日展示を拝見してからとても気分が良く、素敵な気分で過ごせました。
もしかしたら広々とした空間も関係があるのかもしれませんし、いろいろなアーティストからさまざまなメッセージを受けたのかもしれません。もちろん江上さんの作品に強烈に共感したからかもしれません。現在海外で暮らす自身も、江上さんが感じたような事を経験したことがあったからかもしれません。うれしかったのは、アートは何も考えず感じることができるということに気づけたことです。
気軽に足を運んで、気に入った作品を探せる場所が、シンガポールに新たに生まれました。ホワイト ストーン ギャラリーのグランドオープンが楽しみです。
White Stone Gallery(ホワイト ストーン ギャラリー) 住所:39 Keppel Road, #05-03/06 Tanjong Pagar Distripark, S089065 最寄り駅:Tanjong Pagar駅より徒歩18分(Opp former railway stationバス停より徒歩5分) 営業時間:11:00-19:00 定休日:日月祝 電話番号:6223 3090 WEBサイト ※詳しくはギャラリーに直接お問い合わせください。 |
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この記事を書いた人
林じゅん子
長崎県出身。バブル期の東京で浮かれて過ごし、そのままシンガポールへ。気がつけば20数年!香港映画がきっかけでアジア芸能にはまり、シンガポール初日本人芸能記者(自称)に。ラジオ、雑誌ともに芸能一筋、出会った芸能人は数知れず。 現在はエンタメ以外の3大好物、イケメン、おいしいもの、アニマルネタ目を光らせる。期間限定&新製品にも目がない、ローカルどっぷりジャパニーズ