シンガポール日本人学校中学部で特別支援学級が設置(森まさこ内閣総理大臣補佐官・特別インタビュー)

Singalifeでは2022年3月、下記の記事を掲載いたしました。
シンガポールで動き出す 日本人学校中学部の特別支援教育への願い

その後、2007年から15年来の保護者・支援者一同の願いが叶い、2022年9月にはシンガポール日本人学校中学部にて特別支援学級が設置されることが決定。2023年4月度より実際にクラスが運営されています。

今回は、特別支援学級が設立されるまでの経緯や15年もの間叶わなかった想いが短期間で実現できた背景について詳しくご紹介します。



特別支援学級設置に至る経緯

2007年以降、15年間にわたり切望されてきた日本人中学校への特別支援学級の設置。

2022年3月の記事でもお伝えしたとおり、2022年度までは日本人中学校に特別支援学級や通級指導教室が無かったことから「小学5年生以降に支援級や通級の在籍記録があると日本人中学校への入学は原則的に不可」というルールがあり、子どもと母親だけが日本に帰国せざるを得ず家族がバラバラになってしまうケースが余儀なくされていました。

さらに、このルールを子どもたちに伝えることは「自分のせいで、進学ができない」という受け止め方につながり、中学進学を控える思春期の子どもたちの情緒面にも大きな影響を及ぼしていました。

こうした現状を重く捉えた教育関係者や医療関係者らが当事者の親とともに、関係各所との話し合いや働きかけを続けてきた結果、2022年4月以降に事態は大きく動きます。

その経緯について「海外日本人学校への特別支援学級導入を考える会」の代表・徳沢理絵さんに、お話を伺いました。

「支援者の方々と関係各所とで話し合いを進める中で、まず2022年4月に首相官邸で『在外教育施設の現状』について話をする機会ができたんです。

そこで、森まさこ内閣総理大臣補佐官と、参議院議員の自見はなこ先生が特に問題を重く受け止め、すぐ解決に向けて動いてくださいました。

私が首相官邸に伺った翌月の2022年5月には、すぐに森まさこ先生自らが視察に来てくださり、私をはじめシンガポールで生活するお母さん達の車座が開かれたんです。」


そこで母親たちは現状を話し、またしてもすぐに次の一手が打たれたと言います。

「2022年6月には『在外教育施設における教育の振興に関する法律』(※1)が可決し、公布・施行されました。その後、2022年の7月には文科省の視察団の方々にもシンガポールにお越しいただきました。そこで、文科省の方々にもあらためて現状を知っていただくことができたんです。」

※1:「在外教育施設での教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進することで、グローバル人材の育成に資するとともに、国際相互理解の増進に寄与するのが狙い」で公布・施行された法律

出典:在外教育施設教育振興法が参院委で可決

 

こうして2023年4月度より、ついにシンガポール日本人学校中学部に特別支援学級が設置されることが決定しました。

「設置が決まってからは当事者の保護者だけでなく、他のお母さん達からもたくさんの『おめでとう!』『本当に良かった』というメッセージが届きました。

子どもたちの学ぶ場をつくりたい、という想い自体がわがままなのではないか、という苦悩も常に抱えていたので、みなさんからの温かい声をいただけたことは本当にありがたかったです。

いま、私の娘もクラスの子どもたちもいきいきと毎日学校に通っています。校長先生も新学期が始まってから毎日のように様子を見に来てくださり、担任の先生をはじめとするすばらしい先生方に恵まれて、感謝の気持ちでいっぱいです。」



森まさこ内閣総理大臣補佐官インタビュー

シンガポールで15年にわたって切望されてきた日本人学校中学部における特別支援学級の設置を、約半年間という短期間で実現された森まさこ内閣総理大臣補佐官にもお話を伺いました。

「まず、私自身日本国内で障がい者支援に関する政策はこれまでも進めてきておりましたが、在外教育施設で支援級がなく、行き場を無くしている子ども達がいることは全く知りませんでした。2022年4月に徳沢さんが官邸にいらして、初めて知ったのです。

知ったときは『なぜ、そんなことに』という気持ちの一心で、すぐに当時の文部科学大臣であった末松大臣に話をしました。

翌月には私自身がシンガポールへ行き視察。現地のお母さん方にもお話を伺いました。また、その数か月後には文科省の視察団もシンガポールに出向き、特別支援学級設置の要望を正式に受理しました。」

その後、2022年6月に「在外教育施設における教育の振興に関する法律」が成立し、支援学級が設置されたのは先述のとおりです。


森まさこ内閣総理大臣補佐官は、今回の特別支援学級設置を短期間で実現させた背景として以下のように続けます。

「そもそも海外の日本人学校で学ぶ子どもたちというのは、日本のために海外で頑張って働いてくださっているお父さん、お母さんの子どもたち。それなのにそうした家族を日本側が守らないなんておかしなこと、在外教育施設の教育内容を拡充することは当たり前の責務です。

今回シンガポールの日本人中学校で支援級ができたことは、世界中の在外教育施設の良いお手本になるのではと思います。」


また特別支援学級の設置を進める中で、当事者の話を聞いたり、シンガポールの施設を視察したりしたことはご自身にとっても新たな発見につながったと語ります。

「シンガポールに視察に行って印象的だったのは、当事者のお母さんたちでだけなく、健常児のお母さん方も一緒になって涙を流して支援級設置を訴えられている姿でした。

どんな子どもも、学校で友だちと出会って他者と共に生きることを学び、自分にできることを一つでも多く見つけて人の役に立つ喜びを感じ、社会で自立してゆくための義務教育を受ける権利があります。

インクルーシブ教育をどう実現してゆくか。海外の日本人学校は私立学校の扱いで難しい面もありましたが、なんとか一歩でも前に進めたい思いで実現できたのは本当に良かったです。」


「その後、日本人中学校で特別支援学級が設置された後の2023年5月にも、シンガポールに訪問しました。そこでは発達障がい児向けの学校である『Pathlight School』や、障がい者の芸術的才能を発掘し、将来の生計まで繋げる職業訓練施設である『ART:DIS:』にも視察に伺い、障がいを持つ方々の才能やそれを将来の自立につなげる学校のあり方に感銘を受けました。

今後、私も福島県で動物愛護×障がい者福祉支援のセンターを設立しようと動いています。私自身も今回の件でいろいろと勉強になり、政策のアイデアが深まる良い機会になりました。」




取材後記

在外邦人という立場は、住んでいる国の政治に口を出すことも難しく、かといって今住んでいない日本の政治や制度にもなかなか意見しづらい、なんとなく「宙ぶらりん」の立場、そういう思いが私自身どこかにあり、現状の制度や仕組みに疑問を抱いても口に出すのが憚れていたところがありました。

しかし今回の一連の取材を通して、在外邦人として声をあげること、それが未来を担う子どもたちや日本の役に立ち得るのかもしれない、そうした思いにつながりました。

今回はシンガポールでの日本人学校中学部での特別支援学級の設置となりましたが、世界各国の日本人学校ではまだまだ小学校でも特別支援学級がない国も少なくないのが現状です。

今シンガポールで開かれた新たな扉が、世界中で学んでいる日本人の子どもたち、そして家族の希望となることを願い、在外邦人の一人としてこれからもより良い環境づくりに力を尽くしていきたいです。

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。



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この記事を書いた人

SingaLife編集部

シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!

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