シンガポール環境庁(NEA)は、2020年のシンガポールにおけるデング熱の感染者が、1月から8月5日までで22,403人となり、シンガポールで大流行した2013年の22,170人を超えて、過去最多となりました。
デング熱による死亡者も20人となっており、死者数が過去最多だった2005年の25人に迫るペースとなっています。(2019年は21人が死亡)。
シンガポール保健省によりますと、2020年のデング熱の死亡者の年齢は20歳代から90歳代となっており、最も若い犠牲者は25歳です。
シンガポール環境庁が公表している1週間ごとのデング熱の感染者数によりますと、7月12日〜18日の1週間で1,733人となりました。
1週間当たりのデング熱感染者の数字としては、2020年で最も高くなっています。前週は1,668人を記録し、7月に入ってからデング熱の感染者数が高止まりしており、シンガポール環境庁は強く警告を呼びかけています。
そもそもデング熱とはどういうものなのでしょうか。なぜ、2020年はデング熱がシンガポールで流行しているのでしょうか。新型コロナウイルスの影響で強いられたステイホームも影響していると言われています。
シンガポール環境庁のデング熱感染者数のウェブページ
日本の厚生労働省によると、デング熱はデングウイルスに感染することで発症する感染症です。デングウイルスは、全ての蚊が媒介するわけではなく、ヒトスジシマカ(学名:Aedes albopictus)とネッタイシマカ(学名:Aedes aegypti)が媒介します。
デング熱は、この2種類の蚊に刺されると感染する可能性があります。新型コロナウイルスと異なり人から人へ感染することはなく、感染経路は蚊に刺されることです。
ジカ熱も蚊を媒介して感染する感染症ですが、こちらは症状が軽いケースが多く、気づかないことも多いということです。
シンガポールにおけるデング熱の感染者数は、
2020年:22,403人(8月5日現在)
2019年:15,998人
2018年: 3,285人
2017年: 2,772人
※2013年〜2016年は、年平均で約11,000人
では、デングウイルスを持っている蚊に刺されると、どのような症状に見舞われるのでしょうか。
厚労省によりますと、蚊に刺されてから2〜14日間の潜伏期間を経て、約2〜4割の人に38~40℃の発熱で発症となります。合わせて、激しい頭痛や関節痛、筋肉痛、発疹の症状が出ます。関節などの痛みは激しく、英語ではBreak bone feverとも呼ばれるほどです。
3〜5日で解熱しますが、熱が下がる際に発疹がみられます。
重症化するケースは多くはありませんが、まれにデング出血熱やデングショック症候群を発症することがあり、その場合は早めに適切な治療が行われなければ死に至ることもあります。
厚労省によれば、デング熱に対してのワクチンや有効な治療法はなく、症状を抑える対症療法しかないため、デング熱にかからないこと(=ウイルスを媒介する蚊に刺されないこと)が最大の予防策です。
参照リンク=厚労省「デング熱について」
ストレートタイムズによれば、今年、シンガポールでデング熱の感染者が急増している大きな要因は、ほとんどの人間が免疫を持たないタイプのデングウイルスが流行しているからです。
日本の厚生労働省によれば、デング熱を引き起こすウイルスには、4種類の異なる血清のタイプ(DEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4)があり、例えば、DEN-1の血清型のウイルスに感染して回復した場合、その血清型への免疫力が生涯にわたり続きます。
今年、シンガポールで流行しているのはDEN-3型で、このタイプは約30年前に流行したものであるため、免疫を持つ人がほとんどおらず、デング熱を発症してしまう人が増えています。
リンク:厚生労働省検疫所のウェブサイト
シンガポールで2020年にデング熱が流行している背景には、新型コロナウイルスによるステイホームも影響していると言われています。
1)在宅勤務が増えた
シンガポールでは、サーキットブレーカーが始まってからほとんどの業種で在宅勤務となりました。そのため、本来であれば日中はオフィス街にいる労働者が自宅にとどまり、デングウイルスを媒介する蚊に刺される機会が増えたとみられます。
2)建設現場がストップ
シンガポールでは、新型コロナウイルスが建設現場などで働く出稼ぎ外国人(ワークパーミット=WP)の間で感染が爆発的に増えたことから、一時的に建設工事を中止しました。
人がいなくなった工事現場に溜まった雨水などが放置され、そこから蚊が発生したとみられています。
デング熱に注意を呼びかける横断幕
シンガポールでは蚊が繁殖しやすい環境を放置していると罰金刑が科される可能性があります。
たとえ個人の住宅であっても政府職員が訪問してベランダや軒先にあるトレイや雨どいなどをチェックし、水が溜まっていないか、蚊がいないかどうか、を確認されます。
自宅での蚊の発生が増えていることがデング熱の感染者を増やしている原因の一つだとして、シンガポール環境庁は蚊が繁殖しやすい環境を放置したことに対する罰金額を2020年7月から引き上げることにしています。
2020年6月現在、罰金額は$200ですが、この罰金額が7月15日からは初回の違反で$300になります。
シンガポール環境庁は「違反を繰り返した場合は、より重い罰則が科されたり、起訴されたりする可能性もある」と述べています。
シンガポール政府は、デング熱を媒介する蚊の発生を抑えるため、遺伝子を組み替えた蚊を放って、繁殖させないようにする取り組みをしています。
これは、オスの蚊にボルバキアという自然界にいるバクテリアを感染させることで、バクテリアを持ったオスがメスと交配しても、次世代を産まないようにさせるというものです。
シンガポール政府はこれまでにタンピネスやイーシュンでこの蚊を放ち、その結果として、蚊の発生を90%近く抑えることができたといいます。
最大のクラスターが確認されているブキバトエリアなどでも5月上旬から同じように始めています。
シンガポール環境庁はウェブページで、シンガポール国内のデング熱の集団感染(クラスター)を公表しています。これまでに260以上のクラスターエリアが発生しているので、近くに住む人や散歩コースにしている人は要注意。
オーチャードやノベナといった日本人が多く住む住宅エリアでも感染が確認されています。
警戒スポットは次のリンク先から確認できます。
NEAウェブページ(英語)
シンガポールの隣国マレーシアでは、昨年末から2020年6月までのデング熱の感染者が52,000人を超えています。
マレーシア保健省の統計では、2019年12月29日から2020年6月22日まで、52,727人となっています。保健省4月にフェイスブックページで、デング熱への注意喚起をしています。
デング熱への最大の予防策は、デングウイルスを媒介する蚊に刺されないことです。
外出する際には、新型コロナウイルス対策のマスクの他、長袖長ズボン姿でさらに防虫スプレーをして、蚊を寄せ付けない対応をしましょう。
シンガポールでは新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きを見せ始めたと思いきや、今度はデング熱の感染に注意しなければなりません。
デング熱の高熱や関節痛に苦しまないためにも、できる限りの自衛措置をしましょう。