シンガポールで電子決済が浸透、でも「完全キャッシュレスは目指さない」

完全キャッシュレス「目指さない」

新型コロナウイルス感染拡大の影響で人と人との接触を避ける動きもあり、シンガポールでは電子決済の導入が加速し、すっかり浸透しています。しかし、シンガポール金融管理局(MAS)幹部のオン・イェ・クン氏は2月26日、予算審議の答弁の中で「シンガポールは現金が全く使われない『キャッシュレス社会』は目指しているわけではない」と発言しました。「電子決済は効率的で便利。環境保護の観点からも良く、促進していく方針だ。しかしキャッシュ(現金)はこれからも私たちの決裁にとって身近なものであり続ける」としています。

シンガポール銀行協会が主導で展開される送金サービス「Pay Now(ペイナウ)」は、2020年だけで個人の登録数が160万増え、全登録数は490万までになりました。また法人としての登録も倍増し、約24万となりました。オン氏によると、シンガポール居住者約560万人や事業者の約8割余りがPayNowに登録していることになるといいます。

PayNowを経由した送金額も昨年から倍増し、計50億シンガポールドルとなりました。配車サービス系のGrabPay(グラブペイ)や、通信サービス系のSingtel Dash(シングテル・ダッシュ)といった、銀行系ではない電子決済サービスのユーザーもPayNowで送金したり、お金を受け取ったりでき、さらに額の増加が見込まれます。

QRコード決済も増えています。現在シンガポール国内には20万もの統一のQRコード「シンガポールQRコード(SGQR)」があります。うち12万が去年設置されました。

電子決済慣れない人「置き去りにしない」

電子決済が浸透する一方で、小切手の使用は減少しています。電子決済に対する小切手の割合は32%(2016年)→18%(2019年)→12%(2020年)と減少傾向です。

小切手と同様、ATMからの現金の引き出しの量も減少しつつあります。同じく電子決済に対する割合で見ると、47%(2016年)→24%(2019年)→17%(2020年)と減少傾向がはっきりと出ています。オン氏は「電子決済に慣れた人が多くなるにつれてこの割合はさらに低下するだろう。しかし電子決済にあまりなじみがなく、使うのが難しいという人は今でもいる。我々はそのような人たちを置き去りにはしない」と明言しました。

言うまでもなく、現金が広く受け入れられ続けるためには、ATMでの現金引き出しがきちんとできることも大切です。シンガポール国内で現金引き出しができる場所の数だけを見ると実は微増しており、5年前には国内で3700カ所だった引き出し可能なポイントは今では4100カ所となっています。

社会的利益増進のための金融

オン氏は、金融サービス部門が社会的利益を増進するためにいかに進化してきたかについても言及しました。財務実績以外にも、企業側が社会や環境に与える影響について、持続可能性の点から広く情報開示することが好ましいとの見解も示しました。「投資家の社会や環境への影響についての意識の高まりを考慮すると、この情報開示は極めて重要。投資家の好みや基準によりそい、資本の流れを促進されるだろう」と話しています。

実際に2016年以降、シンガポールの証券取引規則は、環境、社会、ガバナンスのリスクについて情報開示することを企業側に求めています。温室効果ガスの排出量や、取締役会のスキルや性別の多様性などが含まれます。また、銀行システムへの信頼を高めようと、シンガポール金融管理局は詐欺やマネーロンダリングの不正防止に取り組んでいます。

金融管理局幹部の発言から、決済そのものへの信頼感をつくり、電子決済、キャッシュ(現金)などあらゆるルートでお金の流れを確保していくシンガポールの施策が浮き彫りになります。


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この記事を書いた人

SingaLife編集部

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