【マレーシア×政治】マレーシアで紆余曲折を経て新首相が誕生。経済・ビジネスへの影響は最小限か

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

揺れ動いていたマレーシア政治がとりあえず落ち着いた。8月16日にムヒディン首相が辞任し、8月20日にアブドラ国王がイスマイル・サブリ氏を新首相に任命し、翌21日の宣誓式を経て就任した。

マレーシアでは2018年の総選挙で史上初の政権交代が発生し、長年続いた政党連合の国民戦線(BN)支配に終止符が打たれた。マハティール氏とムヒディン氏が新たに設立したブミプトラ統一党(Bersatu)が野党にまわり、マハティール氏が政敵であったアンワール元副首相が中心となる連合野党の人民連盟(PR)と手を組んで、新たな政権を樹立した。

そして2020年、ムヒディン氏はマハティール氏を置き去りにして、Bersatuの主要議員とともにBNと手を組んで「選挙なき政権交代」を経て首相に就任した。

このとき、Bersatuは他の政党と共に新たに国民同盟(PN)を作り、PNとBNを中心とした与党政権となった。そのムヒディン氏の政権も1年半も続かず、今回のイスマイルサブリ・サブリ政権の誕生となった。なお、今回は政権交代ではない。権力の重心がPNからBNへと重心が移動したのである。

ムヒディン政権が瓦解した理由は、BNの中核政党であるマレー統一国民組織(UMNO)のザヒド総裁がムヒディン氏の支持を止めたことが原因だ。

ザヒド氏は与党連合で最も議席が多いUMNOから首相が出るべきだと主張した。UMNO内部では意見が割れ、ザヒド氏に追随したのはUMNO所属議員38名のうち15名にとどまったが、ムヒディン政権が過半数となるには十分な数だった。

新首相に就任したイスマイル・サブリ氏はザヒド氏とは必ずしも近い関係ではない。ザヒド氏は今回の動きに不満を抱いていると伝えられるが、権力のある与党から野党に寝返るほどでもなく、UMNOから首相が出るという点で妥協したのだろう。

新型コロナウイルス対策を最優先すべきなかでの政治劇だったが、政権交代までは起こらなかったことや、コロナ対策の中枢にいたイスマイル・サブリ氏の政権となることは、経済やビジネスに与える打撃は最小限で済んだと言える。

*2021年8月22日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。



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この記事を書いた人

SingaLife編集部

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