駐在夫、子を育てる-48- 好き嫌い

これはシンガポールに駐在する妻に帯同し、“駐在夫”として家事や育児に奮闘する日々を綴ったコラムです。シンガポールのフリーマガジン「シンガライフ」誌上で連載しているものに一部加筆して、ウェブでも公開しています。

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赤ちゃんの食べ物の好き嫌いがどのように決まるのか、とても興味深い。好きと嫌いとを分けるポイントはなんなのだろうか。大人であれば、いままで食べてきたさまざまな食べ物の履歴、いわば「食歴」によって、これは嫌いな食感だとか、これは好きな味だとか、基準が定まっているから分かりやすい。しかし、その「食歴」がない状態での「ファーストバイト」で、この食べ物は嫌いとなるのが、見ていて本当に不思議だ。


1歳4ヶ月のモモタ(仮名)は、離乳食などはとうの昔に卒業し、いまでは大人とほぼ同じ食べ物を食べ、妻と同じぐらいの量を平らげている。食事に関しては、大人とほぼ同等の扱いだ。好き嫌いは多くはないが、それでも嫌いな食べ物がときどき発生する。

その代表例が、きゅうりである。

昨年の一時帰国で、駐在夫の母(モモタの祖母)の家に滞在しているとき。きゅうりを口にしたモモタが苦々しい表情で、きゅうりを吐き出し、にやーっと笑った。それ以降は口元に運んでも口にすることはなくなった。きゅうり嫌いの完成である。嫌いの原因が食感なのか、味がないことなのか、汁っけなのかは判断しかねる。

それから10日ほどのち。舞台は、駐在夫の妹(モモタの叔母)の家に移る。夕食時に、妹が漬けた浅漬けのきゅうりを口元に持っていくと、一口に含み、にやーっと笑った。そして、ばくばく食べ始めた。きゅうりが嫌いから好きに転じた瞬間だった。

おそらく、モモタの中でそれまでのきゅうりの概念が覆るほどの美味しさが口に広がったことが衝撃的で、一気に大好きへと昇華したのだろう。浅漬けをもっとくれ、もっとくれとテーブルをプラスチックのスプーンで叩きながら要求するほどだった。

駐在夫は食べ物の好き嫌いに関して、仮説を持っている。

一度食べて苦手意識を与えてしまった食材を好きに転じさせるには、モモタの中にある「これは美味しくないぞ」という認識をはるかに凌駕するクオリティで提供しなければならない。そうすれば「え?これ美味しいじゃん。好きっ!」となる(ような気がする)。そして、それはとても難しいことだ。なので「ファーストバイト」で、いかにいい印象を持ってもらうかが肝要なのだ、という仮説である。

したがって、新しい食材をモモタに食べさせるときには、駐在夫が持ちうる料理スキルを最大限に発揮し、最高の状態のものをまずは試させることを心がけている。そのおかげか、好き嫌いが少ない状態をキープできている。

モモタがただ単に、食いしん坊なだけかもしれないが。


この記事を書いた人

SingaLife編集部

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