【2023年版】シンガポールの祝日ハリラヤハジとは?モスクのガイドの方に聞いた慣習や、海外事情についてもご紹介!

シンガポールでは、異なる信仰をもつ人々が共存しており、宗教関連の祝日も多くあります。ハリラヤハジは、イスラム教関連の祝日のひとつですが、ラマダンやハリラヤプアサの時期のように、目立った装飾やバザールで賑わうわけではありません。そのためイスラム教に馴染みのない日本人には、この日がどんな意味のある祝日なのか、なかなか想像ができませんよね。

今回は、ハリラヤハジの起源や、この時期のムスリムの方たちの慣習について学んでみましょう!


ハリラヤハジとは?

ハリラヤハジは、日本では犠牲祭、イスラム圏ではイード・アル=アドハー(正式名称)と呼ばれます。地域によって名称は異なりますが、世界各地のムスリムが執り行う、イスラム教の宗教行事であり祝祭です。この時期イスラム教徒は、アラーの神への忠誠を示す行為として、ヤギや羊などを屠殺し捧げる習慣があります。


ハリラヤハジの起源

屠殺をすると聞くと残酷に感じる方もいるかもしれませんが、ムスリムの方たちにとって、これはコーランに出てくるストーリーにのっとった、神聖な行為です。アラーが預言者イブラヒムの信仰心を試すため、自身の息子を生贄として捧げよと命じます。イブラヒムが息子の首をはねようとしたまさにそのとき、信仰心の深さが認められ、アラーは代わりに羊を捧げるよう命じました。

このイブラヒムの信仰心に習い、ムスリムの方たちは、シンガポールではコルバンと呼ばれる犠牲をアラーに捧げ、自身の神への忠誠心を示します。捧げる動物は、ヤギ、羊、牛、ラクダのいずれかでなければなりません。厳密には、ヤギや羊は1頭で1人、牛やラクダに関しては1頭で7人からの捧げものと数えられるようです。

イスラムの慣例にのっとり、「神の御名のもとに」という言葉とともに捧げられる動物たちは、3分の1は自分と家族、3分の1は友人、残りの3分の1は必要な方たちへの寄付という形で分配されます。


ハリラヤハジはいつ?

ハリラヤハジの日付はイスラムの太陰暦によるため、毎年異なりますが、イスラム暦最終月の10日目に当たります。正式には4日間の祝祭だそうですが、シンガポールで祝日になるのは1日のみで、2023年は6日29日がハリラヤハジです。※今年は日本も同じ日となりました!


サルタン モスクで聞いた、シンガポールのハリラヤハジ

ガイドの方がいることで、外国人にも訪れやすい、アラブストリートのサルタン モスク。今回そちらのガイドの方に、サルタン モスクでのハリラヤハジや、シンガポールのコルバン事情についてお伺いしました。

ハリラヤハジに際して、シンガポールのイスラム教徒もコルバンを捧げます。捧げられるのはおもにヤギか羊です。新型コロナのパンデミック以降、現在に至るまで、サルタン モスクでは屠殺やコルバンの分配は行われていませんが、以前はこちらのモスクでも、敷地内で屠殺や、その分配を求める方たちへの分配が行われていたそうです。

シンガポールのハリラヤハジの祝日は1日のみですが、コルバンを捧げる儀式は3日間に渡り行われていたとのことです。コルバンの屠殺は、動物たちが穏やかでいられるよう、覆いで外部からは見えないようカバーされ、「神の御名のもとに」を意味する「ビスミッラー」という言葉を唱えて行われます。

しきたりでは3分の1が自分や家族、3分の1が友人、残り3分の1は貧しき方や必要とする方に分け与えることになっているコルバンですが、シンガポールでは、必要とする方へすべてお渡しするため、ご自分の分を持ち帰らない方も多いようです。屠殺が行われる日には、捧げる方たちのみならず、施しを受け取りたい方たちも集まり列をなします。

国内に家畜がほぼいないシンガポールでは、コルバンの多くは輸入です。コルバンはイスラム系の組織などを経由し、直接、またはインターネットでオーダーします。

シンガポール国内で屠殺が行われるのはほんの一部であり、オーダー先の各国でイスラムの方式にのっとって屠殺し、そのオーダー先の国内で分け合ってもらうという方法をとる方が多いようです。その際は、儀式の終了後、どなたの名前で何を捧げたかを示す、証明書が発行されます。

コルバンのオーダーに関する広告を見てみると、インドネシア、イエメン、ウガンダと、さまざまな地域のムスリムの方に、コルバンを施せるようになっているのがわかります。遠く離れた出会うことのないムスリムの同胞とも、助け合いができるシステムになっているんですね!

ハリラヤハジの日には、サルタン モスクをはじめとするほとんどのモスクで、朝から特別な祈りの時間がもたれます。モスクを訪問したあとは、多くのムスリムの方が、お墓参りをしたり、ご家族やご友人と集まって過ごしたりするそうです。


祝日の特別な食事はあるの?

シンガポールでは、コルバンをすべて寄付にまわすという方も多いため、必ずしもその日ヤギや羊を料理するというわけではありません。また、ハリラヤハジの定番のメニューというものも、特にはないようです。

それでもハリラヤ プアサと同じく、家族が集まった際には、お肉を香辛料とココナッツミルクで煮込んだrendang(ルンダン)や、編み込んだ椰子の葉でお米を包み茹でたketupat(クトゥパット)など、伝統料理をいただくのを好む方もいるようです。

ハリラヤハジは、信仰に関わる厳粛な行事のため、ご馳走を囲んで派手に盛り上がるということはありません。ですが、イスラム教徒の方たちにとってはやはり特別な祝日であるため、シンガポールではマレー料理のセット割メニューなども販売されます。マレー料理がお好きな方は、この日お得なセットメニューで祝日気分を感じるのもいいかもしれませんね。


カンポングラムのモスクでイスラム教のヘリテージにふれよう!

イスラム教徒が人口の約15%を占めるシンガポール。その中でも観光客に人気のアラブストリートも含めたカンポングラムと呼ばれる地区は、ムスリム文化が色濃く感じられるエリアです。

イスラム建築やムスリムの方たちの暮らしにふれることのできるこのエリアで、歴史あるモスクを訪ね、イスラム教の文化や習慣を感じとってみてはいかがですか。

サルタン モスク

黄金色に輝くドーム型の屋根がひときわ目を引くサルタン モスクは、1824年、シンガポール初のサルタンであるサルタン・フセイン・シャーのために建設されました。アラブストリートにあるため、観光の方にも立ち寄りやすく、常駐している係の方に、モスクの歴史などについてうかがうことができます

周辺には、シンガポール以外のイスラム教の国の雑貨やフードを扱うショップも豊富にあり、多国籍ムードが味わえますよ。

Sultan Mosque(サルタン モスク)
住所:3 Muscat St, S198833
最寄り駅:Bugis駅、Jalan Besar駅
開館時間:月〜木・土 9:00-12:00、14:00-16:00
閉館日:日・祝
(開館時間はビジターが訪問できる時間を記しています。また金曜は、ビジター向けの開館日ではありませんのでご注意ください。) 
電話番号:6293 4405
WEBサイト



ハジャ ファティマ モスク

サルタン モスクから徒歩10分ほどの距離にあるハジャ ファティマ モスクは、この地に住んでいた女性実業家ハジャ・ファティマ・スライマンにちなんでその名がつけられました。ヨーロッパ、マレー、中国の建築様式が融合した珍しいモスクであり、不思議な魅力を感じられます。

地盤の弱さにより塔部分が傾きはじめたため、傾斜進行を止める保存工事が行われましたが、現在でも傾斜は見ることができ、シンガポールの「ピサの斜塔」と呼ばれています。

Hajjah Fatimah Mosque(ハジャ ファティマ モスク)
住所:4001 Beach Rd, S199584
最寄り駅:Nicol Highway駅、Lavender駅、Bugis駅
開館時間:9:00-21:00
閉館日:無
電話番号:6297 2774
WEBサイト



マラバール モスク

青のタイルの外壁が美しいマラバール モスク。マラバールとは、南インドのケララ州から19世紀初頭にシンガポールへ移って来た人々を指します。その名からもわかるように、マラバールの方たちにより管理されているこちらのモスクは、1950年代に建設が開始され、1960年代に入り正式に開館が宣言されました。

サルタン モスクから徒歩5分ほどの距離にあり、アラブストリートを楽しんだあと、Lavender駅に向かう途中で訪れることのできるモスクです。

Malabar Muslim Jama-ath Mosque(マラバール モスク)
住所:471 Victoria St, S198370
最寄り駅:Lavender駅、Jalan Besar駅
開館時間:5:00-21:00
閉館日:無
電話番号:6294 3862
WEBサイト

今回ご紹介したモスクの内、サルタンモスク以外では、観光客が訪問時に肌の露出を避けるための、ガウンやロングスカートなどの貸し出しを行っていません。訪問時には服装に注意したいですね。シンガポールでモスクを訪問する際、どんなことに気をつけるべきか 、次の項目で改めて見てみましょう。


モスクを訪れる際に知っておきたいマナーとルール

モスクはイスラム教徒にとって、礼拝をするための神聖な場所です。観光で訪れる際には、マナーとルールを守って見学することが大切です。

モスクは土足厳禁のため、靴を脱いで入ります。肩や胸元、足など、肌を露出していると入場できません。ほとんどのモスクではガウンの貸し出しも行っていないため、服装に注意して出かけるか、羽織れるものを持参して行きましょう。

また、モスク内部の写真撮影や礼拝堂への立ち入りは禁止されている場合があります。訪問前にモスクに問い合わせ、見学可能かどうか、注意事項はあるかなどを事前に確認しておくと安心です。たまたま通りかかったモスクに立ち寄ってみる際などは、施設のスタッフがいればその方に許可を取り、入場後は礼拝をしている方たちの邪魔にならないよう、静かに行動することを心がけましょう。

また金曜日には集団礼拝が行われるため、観光での訪問は避けるのが賢明です。


【番外編】SingaLifeスタッフそれぞれのハリラヤハジの過ごし方をご紹介!

ハリラヤハジの過ごし方や習慣は国ごとによって違います。ここではパキスタンとアラブ出身のSingaLifeスタッフのハリラヤハジの過ごし方をご紹介します。

パキスタン編

パキスタンではハリラヤハジのことを「バクライード(バクラ=ヤギ)」といいます。
※ラマダン明けのお祭りハリラヤプアサのことは「イード」といい、バクライードは「小さなイード」とも呼ばれています。

バクライードの2週間前から自宅の庭にその年屠殺(とさつ)する家畜を買ってきて餌を与えながら育てます。ヤギ以外にも牛や羊を屠殺することもあります!いいヤギを選ぶのはなかなか難しく、ケガをしているヤギはNGだったりと決まりもあるため、早めに牧場で品定めすることをおすすめします!犠牲祭=屠殺は、日本人からすると残酷なお祭りと思われがちですが、バクライードはとても神聖な行事の一つです。

パキスタンは貧富の差も激しく、だいたいの家庭では、屠殺したヤギ・牛をしっかり小分けして、貧しい人たちに配って回ります。これもパキスタンのバクライードの醍醐味です。当日はヤギの煮込みカレーやカバーブを食べますが、当日の新鮮な肉を使用しているため、ヤギ臭さがなくとってもおいしい印象です。

今年はこの2匹を購入して、バクライード当日まで庭で飼っています。


アラブ編

アラブでもパキスタンと同じようにハリラヤハジ=バクライードといい、盛大にお祝いをします。(正式にはイード・アル=アドハー)ヤギや牛はもちろん、ラクダなんかも屠殺します!さすがアラブですね!今回は、アラブ地域でバクライードに食べられる伝統料理をご紹介します。

アラブの地域では、肉とお米を使った伝統的な料理が多く、その中で今回ご紹介するのがラム肉を使った「マンディ」

マンディは、イエメンのハドラマウトを起源とする伝統料理で、主に肉と米に特別なブレンドのスパイスを加え、掘った穴の中で調理をします。

お次は、ラム肉を使った「マドフーン」

マドフーンは、肉と米を組み合わせたアラビア料理のひとつ。コリアンダー、クミン、胡椒、クローブ、ターメリックなどのスパイスを効かせた骨付き肉を使用します。数時間かけて煮込んだ肉は柔らかくしっとりとし、スパイスの香りがしっかりと染み込んでいます。

国ごとに料理は違えど、祝い方や盛大さは同じですね!


祝日から多民族多宗教のシンガポールを学ぼう!

多民族多宗教がシンガポールの大きな魅力ですが、それぞれのコミュニティが何を大切にし、どんな習慣をもっているのかは、積極的に関心をもってみないと意外に知ることができないものです。ハリラヤハジをはじめとしたさまざまな祝日をとおして、隣人の文化を学び、より深くシンガポールにふれてみるのはいかがでしょうか。

● 記事内容は執筆時点の情報に基づきます。


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この記事を書いた人

SingaLife知りつくし隊

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