パーソルシンガポールによる企業座談会!各社の抱える組織・人事の悩みとは?
シンガポールで採用・人事・労務コンサルティングなど幅広く人材サービスを提供しているパーソル シンガポール(旧テンプスタッフ、旧インテリジェンス)。今回はそのパーソルシンガポールが主催する、企業座談会の様子の一部をお伝えします。シンガポールならではの組織・人事の苦労や課題解決策など、ぜひ参考にしたい中身の濃い内容となっています。
参加者の皆様(順不同)
・UZABASE Asia Pacific Pte Ltd 内藤様 ・GLOBAL ISF PTE. LTD. 若本様 ・MITSUBOSHI OVERSEAS HEADQUARTERS PRIVATE LIMITED 岡沢様 ・Kawasaki Heavy Industries (Singapore) Pte Ltd. 森様 ・パーソルシンガポール 堀岡様、岩本様、丸山様 (以下、敬称略) |
報酬見直しについて
堀岡:
今はどこも人材獲得が難しいと思うのですが、人材引き留め策やエンゲージメントを高めるためにどうしてますか?給与水準をどうするのかということもあると思いますが。
岡沢:
この間ボウリング大会しましたね。100人ほど来ていてやる気満々な感じでした。
堀岡:
100名!一体感出て盛り上がりますね。内藤さんは給与動向が気になるとおっしゃっていましたが、内藤さんのところではどうリテンション、エンゲージされてますか?
内藤:
うちは8年間で3回給与テーブルを改定しました。スタートアップで給料が低かった状態で入ってきてくださった方にはストックオプションを渡していましたが、上場後はもう給料を上げるしかない。 事業の成長にともなった給与引き上げを2回、直近では物価上昇に対応した給与引き上げを行いました。ただ、まだまだ営業職の給与は市場平均を下回っているようなので、いつも気になっております。
とはいえ、結局私が入ってから退職があんまりなくてですね、給料でリテインしているって感じはあまりないです。
堀岡:
給料ではないとしたら何がリテンションに効いているんですか?
内藤:
ボスですかね(笑)
真面目な話、ワークライフバランスがよいとは言われます。求められていることを達成することを前提に、各人にある程度働き方の裁量があるなど、会社として自由に働いていただける環境を整備しています。柔軟な働き方を魅力に感じている方は多いようです。あとは年に一度ちょっと豪華なパーティをしたり、ランチ会をしたりしています。
ITエンジニアの採用やインターンシップについて
堀岡:
人材獲得の面ですが、特にITエンジニアだと、若本様どうですか?
若本:
僕の周りはIT関係が多いので、すぐ人が辞めちゃう話ばかりです。
岡沢:
同じく、うちもIT人材は苦労しましたね。
岩本:
日本でも同じですよね。私も前の部署がパーソルの中でもITアウトソーシングを得意としている会社だったのでエンジニアの採用には力を入れていたのですが、採用が難しい話はよく聞いていました。ブランディングのために小学校でエンジニア教室やったりと、若いうちからターゲットにして頑張っているそうです。
岡沢:
我々もポリテクニックからインターンシップ生を受け入れました。彼らの卒業テーマにうちの工場を使ってもらって。結果10人のインターンシップに対して1人入社したくらいです。ポリテクニックとの提携は悪くないなと思っています。
内藤:
期間ぐらいはどれぐらいやっていらっしゃるんですか?
岡沢:
多分、半年ぐらいはやってますね。
内藤:
うちも受け入れているんですが、プロジェクト単位(3週間や夏休みだけ)など、短い期間でしかできませんっていう人が多いです。
堀岡:
それは単位が認められないインターンかもですね。
内藤:
かもですね。短期で業務経験をつけたいという人にデータ分析ツールを作ってもらったり、オンラインマーケティングを手伝ってもらったりしてますね。
堀岡:
卒業して、インターン経験が楽しかったから入社しますとかないんですか?
内藤:
当社のスリランカ拠点ではインターンから本採用もしていますが、シンガポール拠点ではないですね。優秀な学生も多いので、学生たちは金融機関やコンサルに就職してもらって…。将来のためのご縁を作っている感じで、特に採用や営業に関する短期的なメリットは期待していないかな。
森:
人材獲得についてしっかり考えないといけないですよね。給料も大事ですが、ただ上げればいいかというとそうでもない。ワークライフバランスとか、その会社が従業員に何を提供するかとか、そういった目線で考えることが必要かと思います。
我々の世代の日本では、TVCMが「24時間戦えますか」 と繰り返す環境でしたけど、海外に出ると本当違いますね。生活することと働くことのバランス、それをどれだけより良くしていくかをみんな真剣に考えていて、日本から来た私達も先ずその視線で理解しないといけないと感じます。
今回海外で働くのは4カ国目になりますが、どの国も多くの人がそのように考えていますし、同じように自分ごととしてあまり考えてこなかったのが以前の日本ではないかと思いますね。
パーソルグループのエンゲージメント向上策、ジョブトライアルについて
岩本:
パーソルグループでは最近「キャリアオーナーシップ」をキーワードに、従業員エンゲージメント向上に取り組んでいます。転職をしなくても、グループ内でも仕事や働き方、キャリアを自分で選択できる環境がつくれるよう、さまざまな施策にチャレンジ中です。
私たちも「グローバルチャレンジ」という公募異動制度でシンガポールに来ています。それとは別に、月に8時間と決めて別部署で副業する「ジョブトライアル」という取り組みも行っているんです。
丸山:
私もジョブトライアルやったことあります。
岩本:
そうなんですね。海外パーソルとしてもそれに参加しようかといった議論をちょうど先週ぐらいにしていて。ジョブトライアルを通して海外のことを知ってもらう機会ができたり、興味持ってもらうきっかけになるかと考えています。
堀岡:
こういった取り組みを通して、社内のネットワークができたり、部署間のコラボレーションをしたりとイノベーションが生まれやすくなりますよね。人手不足で採用難になる中、自社人材をどう活用するか。タレントマネジメントを一つの部署や法人だけで行うのはもったいないですよね。
特に今の若手世代は「石の上にも3年」という考えを持つ方は少ないので、どうやったら会社もしくはグループに残ってもらって、その能力を最大限に活かしてもらえるか考える企業側の工夫が大事ですよね。
岡沢:
ジョブトライアルを行う業務はバックオフィスの方がやりやすいですか?我々はメーカーで、お客様側も当然プロフェッショナルばかり。ある程度経験積んで、お客様の業務がよく理解できて初めて担当を任せられるので突然のお客様担当は難しいと思われます。
岩本:
そうですね。私が元々いた部署ですと、例えば窓口の営業担当は今までと変わらずに、ジョブトライアルの参加者も一緒にお客様との商談に同席させてもらい、その後の資料作りや数字の分析を一緒に行ったりしていました。特定の分野のプロがいつもと違う職種の経験をすることで、新しいアイディアが生まれたり、視野が広がったり、別分野に興味を持ったりといった効果があったようです。
丸山:
私がやってみたときは、パフォーマンスというよりむしろその部署とかその職種がやってることを知り、体験するというのが目的で、応募する側も受け入れる側もまずはそのくらいの意識でした。私は他のことを挑戦したいと思ってジョブトライアルに参加したんですが、結果的に当時の自分の業務の方がいいなとなりました。シンガポールは「なんか思っていたのとは違うな」と思うとすぐに転職ができやすい環境があるのですが、一方で出戻り(退職者の再入社)もよくありますよね。そういった退職を阻止するにはジョブトライアルのように社内の中でちょっと他に興味のありそうなことを体験させてあげる取り組みは効果的ではないかと思います。
若本:
会社を辞めると会社の良さがわかることがありますよね。「戻ってこれる制度」はうちでもやっています。
国による文化や価値観の違い
ホフステードの国民文化6次元モデル-4カ国比較 |
森:
シンガポールの人ってどんな人たちなのでしょう。
堀岡:
シンガポールの方って不確実なことを不安としない方が多いようなので、全てのリスクを潰した状態で行動する傾向にある日本に比べると、ギャップが生じるところかもしれません。シンガポールの方は成功するためにはリスクをとって失敗を恐れないという感じですかね。
森:
わかりますね。シンガポールの役所や要所に我々も度々行きますが、話の中で言われました。
”Japanese Company has good product, good technology, but very slow”と。苦笑いしかできませんでした。でも、なぜ彼らが遅いと感じるかというと、我々としては一つ一つステップを踏んで「うん、大丈夫」と確かめながら進んでいくからです。時間はかかりますが良いものを提供できる自信はあります。 「走りながら考える」で進めば早いでしょうが、我々には一寸それは難しいですね。
岡沢:
例えば新製品の開発ステップは全部ガラス張りで、ルールが決められてますからね。
堀岡:
シンガポールの方はマイクロマネジメントを嫌がりますよね。規則にとらわれずに比較的臨機応変に進むことを好まれます。「最短距離でゴールにたどり着きたい、仮に失敗したとしても失敗したところを修正すればいい」と思う傾向が調査データに出ています。失敗を恐れない強さがありますね。
内藤:
私の経験の範囲だと、ちょっと違っていました。当社のようなスタートアップで務められるような、 達成意識の高く、さらに不確実性を好む人ってなかなかいないかな、と。採用活動で候補者さんに会ったり、今のメンバーを見ていてもそう思いますね。正解がない中で、自分で企画立案して実行して、必要なら改善していく、強い意思が必要なのですが…。
シンガポールって強烈な学歴社会で子供の頃から選抜があるせいか、割と早い段階で身の丈を知るという感じなのかもしれません。エリート中のエリートはめちゃくちゃ働くっていう方多いんですけど、一方で、ある程度、仕事と生活の折り合いをつけて「こんなもんかな」と、もう見切ってるような方々もいらっしゃいませんか?
堀岡:
そうなんですね。
内藤:
お客様からよく伺う話です。多くの現地日系企業で、非日系市場からの売上を拡大させたい、新規に事業をおこしたいという話があると思います。新しい市場での事業拡大を実現するために、「ローカル マネジメントに任せたい」という話になりますよね。ただ、一朝一夕にはうまくいかない。
例えば、メーカーさんで 40-50代くらいのローカルスタッフの方に新しいことをお願いしたいとお話をしますよね。でも日本のメーカーさんでずっとやってきたご経験がある方は、どちらかといえば、 これまで「日本人マネジメントが指示してきた内容を漏れなく・滞りなく遂行できる」ことに強みがある方である場合が多いようです。結果、新しいことにチャレンジするよりかは不確実性を回避されることの方が多い、と。
堀岡:
日系企業で長く働いてる方ってそういう感じに変わっていきますね。いい意味で染まるという風にとらえることもできますが。シンガポールの方は日本と同様に長期志向な傾向があるので、「今がどう」 というよりかは、長い目で見たときに「これが正解か、満足か、そうじゃないか」という考え方があるように思います。将来の成功のために教育に投資をしたりするのは長期志向の国の特徴ですね。他の東南アジアの国々はどちらかというと短期志向で今を重視する傾向が高いみたいです。
森:
そういう考え方をするんですね。
内藤:
メンバーが辞めないのは長期志向だからかなっていう気はします。
日本と海外のビジネスの感覚の違い
森:
この地域の国々も転職社会が多いことで、我々の事業に影響することがあります。客先の担当者が自分の次のキャリアステップのために成果を出したいがために、先々より今を優先することがあります。
例えば、大きな設備を買ってもらいたい時に「少々値段が高くても、うまくメンテナンスしながら 使ってもらえば 20年でも30年後でも使えて、トータルコストで安くなって会社にも得です」と我々もアピールします。それが日本製を使ってもらうメリットですが、それが通じにくいことが多々あります。
担当者が今後の転職時に「低コストで導入し会社に貢献した」とアピールする成果をつくるために安価な他国製を選んでしまう。でもその設備が数年後に壊れて使われていないのを見かけて残念に思うことも、あったりします。
岡沢:
人件費が無視できなくなってきてるので、その分だけ日本の製品のコストパフォーマンスが響くことは増えましたけどね。中東なんて全然響かないかなと思ってましたけども、その理屈で採用してくれる場合があります。
森:
以前駐在したタイもですが、シンガポールは中華系の方が多いですよね。シンガポールの中華系の人は中国大陸とは”一線を画す”意識のようですが、香港の人たちも大陸と香港では違う、という認識なんでしょうか。
堀岡:
全然違うみたいです。私は香港に10年住んでいましたが、香港と中国本土の人は一緒にしない、と暗黙の了解だったように思います。世代にもよりますが。近年は香港のホワイトカラーの特に子育て世代の方々は移民をするため香港を離れているようです。その枠を中国本土から来る優秀層の方々が埋めていくので長い目で見ると違いは曖昧になるかもですが。
森:
今シンガポールの若手の人が仕事に求めているのは、やはり報酬ですか。または働くと生活するをどちらも楽しむ、ワークライフバランスがとれているのがいい、という目線でしょうか。
岡沢:
40代のマネジャーとかは安定を求めてるように感じます。40代だったらもう再就職はしんどいからってぼやいてましたね。少しイメージ違いましたね。もっとジョブホッピングしていくと思ってましたけど。40代後はそんなもんみたいです。
堀岡:
シンガポールにはマレーシア出身の方も多いので、また違った感覚があるかもですね。
岡沢:
生産技術エンジニアはマレー系の方が多いですね。技術なのでデータをよく見ないといけないのですが、マレー系の方は熱心にデータ取ってたりして、そういう仕事を楽しんでいるように思います。
森:
我々も人材として広く目を向けて探しますし、イメージする人が見つかると嬉しいですね。
岡沢:
シンガポールの方は新しいものへの反応が早いですよね、マレーシア人は仕事に何かを見出す、プロセスを楽しむ感覚があるように感じるので日本人と似ているなと感じることがあります。
森:
シンガポール人にはスマートさを感じる人が多いと思いますが、これも多数を占める中華系の人達の長い歴史と経験が土壌なんでしょうか。メリットのためにさまざま準備するとか、一歩先んじたいという か。
堀岡:
歴史的な背景はありますよね。中国大陸からシンガポールに渡って来て、生き抜いていくためにビジネスを始めて必死で働いて、、、そういうバッググラウンドも海外文化を理解する際に忘れちゃいけないポイントですよね。商売上手なのも中華系の方ですよね。
成果と評価について
堀岡:
先ほどもシェアしましたが、シンガポールの方たちはマイクロマネジメントを嫌がりますよね。あまり途中経過を細かく言われたくない。
内藤:
「プロセスは自由にさせてほしい、結果を見てくれ」というのは、当社のマネジメントおよび評価ではスタンダードです。結果の出し方の創意工夫を奨励しているので。
ただ、悩ましいのは、マネジメント視点で「結果が出なそうだな」「このままだと未達になるな」というときです。現場メンバーが自ら改善策を実行に移したり、行動量を十分に増やすことができるか、という点が不安なこともあります。ゴールから逆引きして動けているのか、これまでと同じ努力を積み上げるだけで後は神頼みになってしまっていないか、と。状況を打開できるのか、気を揉みます。例えば、目標達成が危ぶまれているときに、焦っているように見えないマネジャーがいる、とか(笑)。
森:
確かにそれはありますね。どうなってるのか、どうしてそうなったのか、途中でいいからもっと知らせて、と思うことは多々あります。シンガポールに限らずですが(笑)。
堀岡:
日本は求める完成度が高いのかなとも思います。敢えてシンガポール人寄りの見方をすると、日本人が 「完成」と思うレベルは高すぎて、そのクオリティは must ではなく better to have だったりします。質はそこそこにして、スピードを重視する場合もあるのかなと思います。
丸山:
内藤さんはどうやってマネージしてるんですか。
内藤:
基本的には、結果の出し方は任せたいので、細かく口を出すことは我慢しています(笑)。ただ、早め早めにチェックはいれています。何かあったらちゃんと報告してね、という期待はしていない。
丸山:
そうすると、仕事を頻繁に報告してくれる人からすると不満とかじゃないですか。
内藤:
まさに「裁量と責任」のバランスの議論ですよね。責任を果たしていないのに、自由だけを謳歌しているように見えてしまう。ひどい場合は、他の方の努力にフリーライドしてしまう形になる。そういう人は評価できないし、場合によっては退場してもらうこともありました。
一方、結果を出すことにコダワリがある、当事者意識が高いメンバーはどんどん引き上げていきます。 挑戦をする・より重い責任を担うことに前向きな人を重用していますし、一方、そこそこで良いやと思っている人は評価もそれなりに。評価もメリハリを大事にしています。
森:
そういうのはこちらに合ったやり方ですね。よくやってくれる人は成果に応じて上がっていくし、さらに成長してくれる。我々日本人駐在も、そういう土壌に馴染んで活用する必要があると思います。
編集後記
座談会の一部分を掲載しましたが、実際には長時間に渡り、組織や人事についての知見や情報がノンストップで交わされていました。毎回参加者より好評の座談会についてご質問がありましたらぜひパーソルシンガポールまでお問い合わせください。
パーソルシンガポール(PERSOLKELLY Singapore Pte Ltd) お問合せ先:mami_horioka@persolkelly.com (窓口:堀岡) 電話番号:9170 0905 パーソルシンガポールWEBサイト |
この記事を書いた人
SingaLife編集部
シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!