シンガポールの街角を彩る壁画アート〜会計士からアーティストへ転身した、Yew Chong Yip氏にインタビュー〜

シンガポールの原風景を壁画に描くYipさんにインタビュー

シンガポールの古き良き時代を垣間みるような、ノスタルジックでユニークな壁画をシンガポールの街中で見かけたことはありませんか?

壁画を描いているのは、シンガポール人アーティスト、Yew Chong Yip(ヨー・チョン・イップ)さん。どれもシンガポールに住む人々や生活が描かれており、かつその周囲の風景に溶け込む、とても印象的で不思議な空間が作り出されています。

壁画を描き始めた2015年以降、シンガポールで完成させた壁画は約50点。EVERTON ROADの理髪店の壁画、SPOTTISWOODE PARK ROADの食料品店の壁画、WATERLOO STREETのナショナルライブラリー&MPHの壁画、TELOK AYER STREETにあるティアンホックケン寺院裏の40mの壁画など、全てYipさんによるオリジナルの作品です。

その壁画人気はシンガポールのみならず海外からのファンも多く、壁画と一緒に絵の一部となって写真を撮れるのもYipさんの絵の魅力となっています。

今回は、壁画を魅力的に彩るアーティスト、Yipさんに、どんな経緯で壁画を始めたのか、なぜ昔懐かしいシンガポールを描いているのかなど、色々お話を聞かせてもらうことにしました!

Yipさんの経歴を教えてください。壁画を描き始める前は何をしていましたか?

私はもともと会計の仕事をしていましたが、2015年8月、一旦休暇を取り、数ヶ月間旅行をしたり、その旅先でスケッチをしたりして過ごしていました。絵はもともと趣味でしたが、大学卒業後に就職した頃は芸術家として生活することはあまり一般的ではなく、会社員として仕事をしていました。

長期休暇を取っている間、色々な制作活動をする中で、壁画はSNSで人気が出やすいことが分かりました。 2016年2月、会社に戻りましたが、週末に時間を割いて壁画を描くことにしました。月曜から金曜に会計の事務仕事を、土日に路上で壁画を描くという生活をしていました。この壁画制作を続けていくうち、私の絵が広く知られるようになり、2018年7月、自分の絵画活動にさらに時間を費やせるよう、25年の会社員人生にピリオドを打つことに決めました。

Bird Singing Corner (Tiong Bahru)
Tiong Bahru Pasar (Tiong Bahru)
最初の壁画制作であるオートラムパーク近くの理容室、食料品店の絵はなぜここにこの絵を描いたんですか?

そこの壁画(EVERTON ROAD)は私の最初のストリートアートです。自宅近くで描くと何かと便利だろうと思い、最初の壁画の場所としてエバートンロードエリアを選びました。かつてこの地に住む人々の様子をテーマしたのは、このエリアに残っている古い家々から着想を得たものです。エバートンロードは保護地区に指定されています。

昔の人々を描く理由は、保護地区の風景と調和しやすいからです。一般的に理髪店というのは路地裏にあり、ここの壁も路地裏にあったため、かつての理髪店を描いた絵とマッチさせることができました。ペラナカンファミリーの母親が洗濯している様子は、ペラナカン様式の家の雰囲気が、自分が家族で住んでいたチャイナタウンでの懐かしい記憶が思い起こされて描いたものです。

シンガポールの原風景ともいえる絵が多いですが、それはなぜですか?

すべては、最初に描いたEVERTON ROADでの壁画がスタート地点だったと思います。保護エリアの古い街並みと絵の内容がうまく調和するよう、昔懐かしいシンガポールの様子を描きましたが、その壁画をきっかけに、あらゆる場所の家のオーナーから依頼が増えました。

依頼されて描いた最初の壁画は、UPPER CHANGI ROADのカンプンですが、依頼のほとんどが昔懐かしいシンガポールをテーマに描いてほしいといったものでした。

かつては当たり前にあった、過ぎ去っていった風景を絵に残すことで、心温かで懐かしい気持ちを呼び起こしてくれたらと願っています。その原風景の根本は、幼少期の頃の思い出を表現しています。

チャイナタウンの手紙作家の絵は、お子さんと取り組んだそうですね。

チャイナタウンで最初に描いたのがこれです。子どもたちはその時大学に入る前で長い休暇中だったため、私の絵に参加したいと言ってくれ、色付けするのを手伝ってくれました。親子で取り組めた、思い出の壁画です。

コナンの絵とのコラボのきっかけやエピソードがあれば教えてください。

この時の「名探偵コナン」はシンガポールを舞台にしたとのことで、シンガポール国内でもプロモーションするために、名探偵コナンの関係者、映画配給会社が日本のシンガポール政府観光局を通して私に連絡があり、名探偵コナンとコラボした壁画を描くことになりました。今後もし機会があれば、また名探偵コナンとシンガポールの風景画とのコラボができると嬉しいです!

壁画以外にはどのような活動をされていますか?

スケッチからデジタルアート、写真撮影、ビデオ制作まで活動は多岐にわたります。それらの制作を全て同時に進めています。これからは油絵や水彩画、将来的には映画制作やアニメなど、他の形式のアート活動にも精を出したいと思っています。

旅行先でも壁画を描いていらっしゃるそうですね。世界がこのような状況だからこそ描きたいものはありますか?

今まで行った旅行先は全て描きました。現地の人々や風景を地図に落とし込んだ絵も多く完成させました。今年、絵を描くために計画していた海外旅行は、ほぼ全てコロナウイルスによりキャンセルすることになりました。今年、本来の予定であれば、壁画を描くためにパキスタンと日本に旅行するつもりでした。

この状況下ではしばらく渡航は難しそうなので、今はその時間を別のテーマでの制作に切り替えて、キャンバスやデジタルアートで絵画を描き、今後自由に旅行に出られるようになる時までアイデアを寝かせておきたいと思っています。

この作品はぜひ見て欲しい!といったオススメ作品があれば教えてください。

どれも出来れば見て欲しいものばかりですが、今回写真を撮っていただいた、30 Smith streetの「my Chinatown home」はお気に入りです。幼い頃に住んでいたチャイナタウンの家は1983年に辺り一体が取り壊されて現在では駐車場になってしまいましたが、当時の懐かしい家の様子を壁面に描きました。最初、ここのオーナーは市場の様子を描いてほしいという依頼でしたが、ここの壁にあるドアや窓には絵を描いてはいけないと言われ、ドアや窓を活かせる壁面をと思い、思い出の家を描くことにしました。

他にも国内だけで壁画は50以上あるので、壁画に溶け込むポーズをとって、写真撮影を楽しめると思います。

壁画を巡った感想
The Window (Chinatown)
Tiong Bahru Pasar (Tiong Bahru)

これまでYipさんの壁画をゆっくりみたことはなかったのですが、今回の取材を機に、描かれている人の表情がとても豊かなことに気がつきました。

壁画に溶け込んで写真を撮ることで人気のYipさんの絵ですが、周りの背景に溶け込むような絵を敢えて描いているからこそ世界観が作り出せるのだと実感しました。隅の方に描かれている小物や猫や犬の様子も、よく見ると面白いものばかりです。

写真撮影:N. Yukie


Yew Chong Yip
1969年生まれ。南洋理工大学会計学専攻、卒業後はさまざまな外資系企業で会計業務を担当。
https://yipyc.com
https://www.instagram.com/yipyewchong/

この記事を書いた人

Natalie

駐在4ヵ国目、2児の母。 日本で旅行情報誌の制作・編集を経て、在住国の海外邦人向け情報誌のライターへ。 お値打ちで美味しいもの、安く手に入る雑貨などを好むプチプラ・ラバー。激辛激甘に目がない。推しのKPOPを聴くこと、ドラマや映画を観ること、ゴミ拾いが趣味。

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