大学生で見た「能」をきっかけに、日本の舞台に興味。インド系シンガポール人の女性脚本家がシンガポールの朗読劇で日本のテーマにした理由〜

インド系シンガポール人の女性脚本家、A Yagnya(エイ・ヤグニャ)さん(30歳)が脚本を手がける朗読劇が、6月20日から始まるシンガポールの芸術祭「StoryFest 2021」で、オンライン配信されます(有料)。朗読劇のテーマは、神奈川県・江ノ島に伝わる天女・弁財天と龍にまつわるおとぎ話。日本にルーツがない彼女が、シンガポールで上演する劇にどうして日本のおとぎ話をテーマに選んだのか。日本の舞台や日本文化に興味を持つきっかけを聞きました。

StoryFest 2021メインビジュアル

学生時代に見た能に衝撃

ヤグニャさんが日本の舞台や文化へ関心を持つきっかけになったのが、大学時代にシンガポールで見た能の特別舞台。その時、19歳。ヤグニャさんは、能で用いられる「すり足」を見て「衝撃を受けた」と明かします。
ゆっくりと静かに舞台上を滑るように歩く「すり足」。中学生で出会った劇の世界でしたが、それまで見てきたどんな劇にもなかったその動きを目の当たりにして「こんな世界もあるんだ」と感激したと話します。

劇中の「間」への興味

youtubeなどで日本の演劇見ていくなかで、次第に劇中の「間」にも関心を抱くように。ヤグニャさんのルーツであるインドや東南アジアの劇よりも日本の劇中で強調されている「間」。「日本の舞台が「間」を重視する理由を学びたい」と2011年の夏に、東京にある桐朋学園に2カ月間留学しました。
現在は流暢な日本語を操るヤグニャさんですが「あの時の日本語レベルは日常会話も難しくて、身振り手振りと辞書を駆使して、なんとか周りとコミュニケーションを取れるかなぐらいでした」と振り返ります。日本語の難しさを同時に「英語が当たり前じゃない世界があるんだと気づかされた」。

留学を終えてシンガポールに帰国した彼女は舞台に関わることを仕事にします。ちなみに大学の卒業論文のテーマは「現代劇は、伝統的な日本の演劇からどんな影響を受けたのか」

再び日本へ

脚本や演出などフリーランスとして働く傍ら、日本語スキルも磨き、劇作家の蜷川幸雄や太田省吾を研究。日本で働きたいとの思いを募らせたヤグニャさんが取った選択肢は、日本の学校で語学を教える日本とシンガポールとの交流事業JETプログラムでした。
2014年夏、英語のALT(外国語指導助手)として、富山県にある高校と養護学校に赴任して、3年間を過ごし、2017年シンガポールに戻り、舞台活動を本格化させます。

シンガポールは上演前に「検閲」

ヤグニャさんが書く脚本には、シンガポールに残る「死刑制度」へ是非を問うものや、「仕事と結婚と出産の価値観で揺れる女性の生き方」など、社会的なテーマが少なくありません。
シンガポールでは、演劇を上演するに当たり、当局に脚本を提出し許諾を得なければなりません。差別的な表現はないか、過度な演出はないかを当局がチェックする、いわば”検閲”が行われます。
ヤグニャさんは、そのシステムには理解を示します。「多国籍、他人種が暮らすシンガポールでは、何を言ってもいいというのは、差別や暴力の温床になってしまうから」。だからと言って当たり障りのない脚本を書くのかというとそうではありません。

観客に問いかける舞台

「自分がおかしいと感じていることを舞台で訴えて、観客の方にも考えて欲しい」と話すヤグニャさん。例えば「死刑制度」をテーマにした舞台では、麻薬を密輸したとして起訴された被告の男の娘を主人公にしました。麻薬の運び屋に手を染めてしまうのは、その高額の報酬に目がくらんでしまうから。そしてその背景にあるのが、貧困。麻薬事件を取り扱った経験のある弁護士などに取材を重ねて、丁寧に描写していきます。

「subTITLED 1.0」という題名のその劇は、反響があり、ヤグニャさんも手応えを感じたと言います。

ヤグニャさんは訴えます。「運び屋を死刑にしても、麻薬問題の本質は変わりません。麻薬を密造し、大儲けしている闇組織を摘発しない限りは」と。

「subTITLED 1.0」の一場面。写真@black.beanie

「subTITLED 1.0」はこちらからオンデマンド動画でご覧いただけます(有料)

弁財天はインド由来

話を冒頭の江ノ島のおとぎ話に戻します。

ヤグニャさんが今回の朗読劇にこのテーマを選んだのは、彼女のルーツであるインドと、数年間過ごした日本を絡めた内容で物語を書きたかったからでした。
日本滞在時に訪れた江ノ島で知った弁財天と龍のおとぎ話。調べてみて分かったのは、弁財天はインドから伝来した神様だということ。「インドと日本で国は違いますが、神様のキャラクターは変わっていないことが興味深かったです。日本とインドのインターカルチャーをうまく表現したいです」と理由を話します。

6月20日からオンラインで好きな時に鑑賞できるヤグニャさんの朗読劇。ぜひご覧になってください。

<作品詳細>
The Dragon Tamer
配信期間:2021年6月20日〜7月11日

URLhttps://storyfestsg.com/2021/programmes/restory-celebrating-the-feminine-in-folklore

チケットはこちらからStoryFest 2021 – ReStory 2: Celebrating the Feminine in Folklore)
料金:$15〜(鑑賞する朗読劇の数によって変わります)

この記事を書いた人

SingaLife編集部