【グローバル×コンテンツ】韓国ドラマ「イカゲーム」が世界を獲った本当の理由を探る

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

世界各地で話題となったドラマ「イカゲーム」。衆目を釘付けにした様子は、知人のソーシャルメディアや現地報道を通じて伝わってくる。世界90カ国以上でNetflixランキング1位を獲得した。ただ、冷ややかな感想もある。特に、日本には、「賭博黙示録カイジ」や「神さまの言うとおり」など似たようなコンセプトの映画、ドラマ、小説、漫画が多数ある(表参照)。

それでもなお、世界的スマッシュヒットを記録したことは確かだ。「模倣」と突き放すより、なぜ、ヒットしたかという視点で考えてみたい。日本に類似した先行コンテンツがあるなかで、−ファン監督は先に構想していたと話しているが−、イカゲームが世界を獲ったという事実にも向き合う必要がある。

ヒットの理由としてNetflixというグローバル配信プラットフォームを活用し、英語等の吹き替えがあった事が最重要と思われるが、筆者は見る人によって見え方が違う作品であることもヒットの理由だと感じた。

韓国ドラマは、韓国的あるいはアジア的な要素が強く反映される作品が多い。話題となった「愛の不時着」はアジア圏では大ヒットしたが、世界ヒットではない。題材が北朝鮮であるし、アジア的なフェミニズムも色濃く出ていた。しかし、イカゲームは、子供の遊びという誰でも理解できる題材であり、借金に困った人々がお金を目当てにサバイバルゲームをするという分かりやすいストーリーだ。深い意味を持つ伏線も張られているが、一切、気付かなくても、単純に楽しめる。

イカゲームの評論では、貧困や経済格差といった「韓国らしさ」が指摘されているが、筆者は「韓国らしさ」は最小限にまで抑えていると見た。むしろ、貧困や格差は世界で共通の話題であり、庶民の関心事であるが故にヒットを記録したのではないか。一方で、主人公ギフンの労働運動のエピソードなどは、韓国的文脈では共感される伏線もちりばめられている。

グローバルには、「脱韓国的」であり、シンプルが故にエンターテインメントとして受け入れられやすかったのだろう。

日本発のサバイバルゲーム系の主な映画、ドラマ、小説、漫画

出所)各公式サイト・種資料・報道より筆者作成。「イカゲーム」に類似性の見られる作品を中心に取り上げた。


*2021年11月29日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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