【シンガポール×サイバーセキュリティ】シンガポール、デジタル化の影で増大する「悪性ボット」

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

サイバーセキュリティのImperva社は、「悪性ボット報告」を発表し、シンガポールは「悪性ボット」の活動が世界で2番目に多い国と報告した。

ボットとは、事前にプログラムされた内容によってインターネット上で自動処理するプログラムのことである。例えば、カスタマーサポートにネットで問い合わせたときに、チャット欄に知りたい内容を打ち込むと自動回答をするサービスだ。これが代表的なボットの一つであり、日常生活に浸透しつつある。

こうした使い方が本来だが、フィッシング広告、ハッキング、ウイルスなどをまき散らす「悪性ボット」もある。シンガポールのインターネット・トラフィックのうち39.1%が悪性ボットである。ワーストであるドイツの39.6%と大差が無い。

分野別に見ると、シンガポールで最も悪性ボットによる被害が多い分野は、金融であり、全体の66%を占めると「悪性ボット報告」は明らかにした。金融セクターは、悪意のある側からすると、銀行口座情報やID番号など重要な個人情報を取得することができ、何よりも金銭的に多額の利益を得ることができるという「うまみ」がある。2番目に多いのが旅行で16%、3番目が小売りで5%となっており、悪性ボットの金融分野での比重の高さが分かる。

なぜ多いのか。この点、2022年6月14日にThe Straits TimesがImperva社員の発言として、新型コロナによってデジタル化が加速したことを背景要因として報じている。コロナ禍での行動制限や非接触の推奨という動きにより、デジタルバンキングやEコマースの利用者が増え、一方で、そこを狙う悪性ボットも増えてしまったという訳だ。

また、話題の新商品の発売のタイミングでも増えると指摘されている。ニンテンドースイッチの新型の事前予約が始まった際には、複数の世界的な小売りサイトにおいて、悪性ボットのトラフィックが88%も増加したとImpreva関係者は述べた。

悪性ボット対策は一朝一夕では不可能だ。イタチごっこ状態での対策が求められ、根絶は難しいだろう。個人レベルでは、悪性ボットの存在を知っておき、かつ、普段とは違うと感じる違和感を大切にして、心を備えておくことが大切だ。


*2022年7月5日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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