「デジタル競争力ランキング」から見えた、極端に低い日本のビジネス俊敏性とデータ活用

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

9月28日、スイスのビジネススクールIMDは「デジタル競争力ランキング2022」を発表した。このランキングは、Knowledge、Technology、Future Readinessと軸で評価されている。

多くの日本の報道は、中国、韓国、台湾に後塵を拝している日本という視点で報じた。確かにその通りである。調査対象63か国中、日本は前回よりもワンランク落として29位であった。これに対して、韓国は8位(前回12位)、台湾11位(前回8位)、中国17位(前回15位)となり、日本を突き放している。

しかし、このランキングではもっと注目すべき点があると筆者は考えている。日本の前後にひしめく国のうち、最も注目したいのはマレーシアである。マレーシアは31位と日本のわずか2ランク下である。そして、2021年は日本の28位に対して、マレーシアは27位であった。中国、韓国、台湾に抜かれた以上に危機感を持つ評価ではないだろうか。

順位だけで無く、スコアでみても日本は76.84であり、マレーシアは76.42と1ポイント以下の僅差である。日本はマレーシアとデッドヒートを展開しているのが、このデジタル競争力ランキング上の評価である。

本ランキングでは、より細かな項目に対する評価が掲載されている。冒頭の3つの評価軸が、それぞれさらに3つのサブセクターに分かれ、そのサブセクターが6から7の評価項目で構成されている。

日本のランキングが振るわない原因となっているのは何か。極端に低いのはFuture ReadinessのサブセクターBusiness agility(ビジネスの俊敏性)であり62位と全体で下から2番目という評価である。ここはさらに6項目に分かれているが、調査対象のうち最下位の評価を受けたのはuse of big data and analyticsである(本記事では紙幅の都合から図版には掲載していない。報告書の103ページをお読み頂きたい)。

これは深刻な指摘であろう。日本は、ビジネスの俊敏性、つまり、時代に応じて競争力を維持向上するために柔軟に対応して革新を起こす能力が極めて低く、かつ、ビッグデータの活用が進んでいないことを示す。

日本のデジタル化の課題は、様々なところで指摘されており、それが故にデジタル庁が設置された経緯がある。また、このランキングは様々なある一つのマクロ的な評価ではあるが、相対評価として見てもあまりに低い項目が多い。筆者は巷によくある日本に対してネガティブに書きすぎる記事には辟易しているものの、このランキングが示唆する内容を見ると、危機感を持たざるを得ない。


国際競争力ランキング2022年の上位国と
主要アジア諸国

日本対する評価詳細(63か国中の順位)

出所:World Digital Competitiveness Ranking 2022より筆者作成


*2022年10月4日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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