【インドネシア×エネルギー】インドネシアの石炭禁輸。世界と日本に対するインパクトを探る

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

2022年が明けて、最初の重要なニュースの一つとして飛び込んできたのがインドネシアの石炭輸出の禁止だ。

ジョコウィ政権は、国内の石炭火力発電所の供給不足と説明した。石炭採掘業者は生産量のうち一定分を国内に販売する義務があるが、その基準を満たしていない企業がある。そのため、国内の石炭供給が需要を下回っており、電力事情にも影響を及ぼしている。

しかし、インドネシア国内外では突然の措置として困惑が広がっている。日本も例外ではなく、1月4日、在インドネシア日本国大使館はエネルギー・鉱物資源省に対して、突然の石炭禁輸は日本経済と国民生活に深刻な影響を与えるとして懸念を伝え、インドネシア政府に再考を促した。

世界と日本石炭事情について統計をみると、今回の措置のインパクトの強さが分かる。まず、世界市場における石炭輸出をみると、1位は豪州で39.5%を占め、次いでインドネシアが17.6%、ロシアが15.0%となっている。

つまり、インドネシアが約6分の1を占めている。一方で輸入国をみると、1位が中国で17.3%、2位が日本で16.8%、3位がインドで16.7%となっており、日本は世界の石炭供給事情に左右される。

さらに日本の石炭輸入をみると、豪州が1位で68.2%、2位ロシアが14.7%、そして3位にインドネシアが11.5%となっている。すなわち、インドネシアから石炭が輸入できなくなると、日本の石炭需要のうち9分の1程度が不足する。

毎年、日本の冬や夏といった電力需要の多い時期には節電が呼びかけられ、電力供給に余裕がある訳ではない。この9分の1の不足分をどこから調達するかは、日本のエネルギー安全保障政策上、重要な課題となる。

しかも、インドネシアのような新興国は経済発展に伴い、エネルギー需要が増大し、輸出よりも国内消費へと回す動きが一段と加速しするだろう。

今回の事態は、資源を産出しない日本として、エネルギー算出国と多角的かつ良好な関係を構築し、国内でもまかなえる再生可能エネルギーの推進が一段と重要であることを示唆したと言えよう。

世界の石炭事情


日本の石炭輸入先

出所)国際エネルギー機構、財務省統計より筆者作成

*2022年1月10日脱稿


プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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