【ASEAN議長国のカンボジア】ミャンマー問題を巡る意見対立で外相会合できず

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

1月17日から18日に行われる予定だったASEANの外相会合が延期された。今年、ASEAN議長国がカンボジアとなってから、初めての政治ハイレベル会合となるはずだった。

原因はミャンマーの扱いを巡るASEAN加盟国内の意見の不一致である。ミャンマーは2021年2月に軍部がクーデター起こして全権を掌握し、現在に至るまで政権を運営している。

カンボジアのフン・セン首相は、ミャンマー問題への関与には意欲を見せ、年明け早々にミャンマーを訪問し、ミン・アウン・フライン総司令官を始め軍事政権要人と面会した。

しかし、マレーシアやシンガポールは、フン・セン首相がカウンターパートとしてミン・アウン・フライン総司令官と会談をしたことは、軍事政権を正当な政府として認めることにつながると反発した。

一方で、ベトナムやラオスは、ミャンマー情勢の進展になり得るとして支持した。こうした背景から、外相会合にミャンマー軍政の外相を招こうとした議長国カンボジアと一部の加盟国で対立が生まれた。

仮に、ミャンマーを招かないことで一致をしていれば、ミャンマー不在で会合を行うという選択肢もあった。しかし、延期となったことは、意見がまとまらず、カンボジアも強行開催はできなかったという事情を示唆している。

カンボジアは2012年に議長国だったときも、外相会合で議長声明を出さず、前代未聞の事態となった。この背景には、中国の南シナ海問題について、声明文に盛り込もうとした加盟国の主張をカンボジアが拒否したことにあった。

ASEAN議長国には、アルファベット順で加盟国が就任する。議長国としてミャンマー問題でプレゼンスを高めたいカンボジアだが、運営を誤るとASEAN全体の外交力の低下にもつながりかねない。

2012年の議長声明問題は、域外国の扱いであったが、今回はメンバー国のミャンマーを巡る扱いであるため、より敏感な問題であり、このままカンボジアがミャンマー軍政の正式招聘にこだわれば、ASEAN政治レベル会合自体が開催できなくなってしまうリスクもある。

加盟国が調整に動くとみられるが、年始早々、多難な船出を迎えたカンボジア議長国のもとでのASEAN外交となった。


*2022年1月18日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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