【パーム油×インドネシア・マレーシア】生活に密着するパーム油。世界最大の生産国インドネシアの政策が二転三転する理由

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

インドネシア政府が5月19日、パーム油の輸出禁止を解除する方針を発表した。

同国は4月28日からこの措置を続けており、輸出は5月23日から再開される。ジョコウィ大統領自らが発表しており、その重要性がうかがえる。

パーム油は私たちの生活にとって、実はとても身近なものだ。パン、ポテトチップス、マーガリン、ラクトアイスといった食品に使われているほか、洗剤や石けんの原料の一つにもなっている。

最近は新興国の経済成長に伴い、食品や洗剤の需要が高まっている。

パーム油はアブラヤシの実から生産される。アブラヤシの世界の総生産量をみると、1998年では1821万トンであったが、2018年は7145万トンと20年間で4倍近く伸びている。

パーム油生産においてインドネシアは極めて重要な国だ。アブラヤシの世界生産量の7145万トンのうち、インドネシアは4057万トンと6割弱を生産している。

そして第2位はマレーシアで1952万トンを生産している。この2か国で9割近くを占めている。つまり、インドネシアとマレーシアの安定的な供給が非常に重要になっているのだ。

そのインドネシアがなぜ、輸出禁止措置に踏み切ったのか。背景にはウクライナ情勢が関係している。

ウクライナは世界最大のひまわり油の生産国であり、第2位のロシアとあわせると世界の半分を生産している。両国が戦争状態に入り、ひまわり油の生産と輸出が減ってしまっている。

そのため、パーム油を含む食用油の価格が全体的に高騰している。

これを受けて、インドネシアでは、本来は国内消費用に確保されるべきパーム油についても、業者が利ざやを稼ぐために輸出向けに回してしまうという現象が発生した。

これは放置すれば、国内のパーム油供給が減り、価格が一段と高騰してしまい、一般庶民の生活に大きな影響が生じてしまうだろう。それを避けるために輸出を禁止していた。

ジョコウィ大統領は、パーム油価格の高騰が一段落したことを理由としているが、増産を発表しているマレーシアに対する危機感もある。

日常生活に直撃するパーム油だけに、今後もインドネシアとマレーシアの動きが見逃せない。


※2022年5月24日脱稿



プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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