【アジア×安全保障】岸田総理はアジア安全保障会議で何を語ったか。

アジア安全保障会議(シャングリ・ラ・ダイアローグ)で基調講演を行う岸田総理
出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202206/11singapore.html

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

去る6月10日から12日、シャングリ・ラ・ホテルにてアジア安全保障会議、通称シャングリ・ラ・ダイアローグが開催された。

米国および欧州主要国とアジア諸国の首脳・閣僚級など安全保障当局者に加えて、シンクタンク関係者が一堂に会する重要会合である。新型コロナウイルスの影響で3年ぶりの開催となり、高い注目を集めた。

基調講演を行った日本の岸田文雄総理は、約30年前が国際政治の転換点であったとし、日本から「大変な議論の末」にPKO協力法を成立させ、自衛隊をカンボジアに派遣したことを紹介した。

それから30年が過ぎた今、新型コロナウイルスやロシアによるウクライナ侵攻などにより、「不確実性が一層増した」との認識を示した。その上で、参加国の関心が高い南シナ海と東シナ海におけるルール形成について触れられ、現状は秩序が守られていないと指摘した。

その上で、岸田氏は5本柱からなる「平和のための岸田ビジョン」を発表した。その5本柱とは、

(1)ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化、特に、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP、ホイップ)」の新たな展開を進める。

(2)安全保障の強化であり、日本の防衛力の抜本的強化、及び、日米同盟、有志国との安全保障協力の強化を車の両輪として進める。

(3)「核兵器のない世界」に向けた現実的な取組の推進。

(4)国連安保理改革を始めとした国連の機能強化。

(5)経済安全保障など新しい分野での国際的な連携の強化

である。

紙幅の都合があり詳細には立ち入ることが出来ないが、5つのうち(1)のFOIPは2016年8月に安倍晋三首相(当時)が提唱した概念を継承しており、(5)は岸田政権が発足直後から重視する経済安全保障だ。(2)は日本の防衛予算のGDP比で2%に引き上げることが紹介された。

(3)と(4)は日本が長年、国際社会に対して働きかけを行ってきた論点である。(3)については、岸田氏が広島出身ということもあるのか、「忘れられた感すらある」とまで言及し、包括的核実験禁止条約(CTBT)と核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の重要性が強調された。

「軍事的貢献」と狭く捉えると日本は手段が少ないが、「安全保障」というより包括的な概念がテーマの本会議において、明確な考えを伝えたことは前向きに評価して良いだろう。


*2022年6月14日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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