【日本外交×グローバル】世界からの弔意と長期政権による外交の存在感

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

7月8日に安倍晋三元総理が凶弾に倒れた事件は衝撃的だった。安倍氏の政治的な業績については冷静に評価すべきだが、世界の元首や首脳からの追悼メッセージが相次いで表明され、世界的な注目を受けていることは確かだ。

これは国際社会における安倍外交の存在感を反映しているとも言えるが、そもそも論として、最長の首相在任期間だったことは重要な要素だ(無論、個々の外交政策もあるが、機会を改めて論じたい)。

そもそも、外交は短時日では進展しない。データだけで判断できるものではなく、現状と将来の国際情勢を見据えた戦略性が求められ、実際に何を実行するかが極めて重要だ。この点を国際社会はみている。

日本の戦後の歴代政権は、東久邇宮内閣から現在の岸田内閣までの87年間に、35人の総理が誕生した。一人当たり、わずか2年半程度の在職に過ぎず、特に平成から令和にかけては、平均2年を切る。

千日間を超えて在職した首相は、安倍晋三3188日、佐藤栄作2798日、吉田茂2616日、小泉純一郎1980日、中曽根康弘1806日、池田勇人1575日、岸信介1241日のわずか7名にとどまる。

長ければ良い訳では無いが、G7諸国の各国首脳はイタリアを除けば、各国とも短くても3年程度、長ければ英国のトニー・ブレアのように10年や、米国は大統領を2期8年務めることも珍しくない。

2022年7月11日に経済ソーシャルメディアのNewsPicksは、日本研究の第一人者ジェラルド・カーティス氏に対する興味深いインタビューを掲載した。その中で、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官が「日本が一番わかりにくい国だ。首相に会っても何を考えているのか分からない」と述べたのに対して、カーティス氏は「戦略が無いだけだ」と答えたエピソードが紹介されている。

これは無理もないことだ。3年にも満たない、時には1年以下という首相もざらにいるなか、立案した外交戦略を実行するには短すぎるのだ。日常的な外交関係の処理は、外務官僚が日々業務に当たっている。しかし、世界を動かすリーダシップは政治からしか生まれない。

安倍元総理に対して、各国から追悼メッセージが送られていることは、最長の首相在職期間であったが故に、諸外国に戦略が明確に見えやすかったことも関係していると考えられるだろう。

*2022年7月13日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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