【大人の社会科見学】
シンガポールで楽しむイベントその306
-旧マレー鉄道跡地-
旧マレー鉄道跡地に魅せられて
私が初めてマレー鉄道の存在を知ったのは、まだ学生だった頃でした。観光パンフレットで見かけた「イースタン オリエンタル エキスプレス」という豪華列車が、マレー半島を縦断していると知り、その美しい外装と内装に目を奪われました。贅沢な料理に身をゆだね、時間に追われることなく進む列車の旅。そんな優雅な旅に憧れ、いつか乗ってみたいと夢見たものです。
そしてバックパックを背負ってシンガポールを訪れた際、まず向かったのが、そのイースタン オリエンタル エキスプレスの発着駅だったタンジョンパガー駅。しかしその日は残念ながら列車の運行がなく、期待していた豪華列車を見ることは叶いませんでした。
それから約20年後の2011年4月、シンガポールで働くことが決まりました。あの頃の夢が今、思わぬ形で叶うことになり、心が躍ったのを覚えています。早速イースタン オリエンタル エキスプレスの運行日を調べ、タンジョンパガーのマレー鉄道駅へ向かいました。ホームは自由に出入りでき、マレータイムが流れるようなゆったりとした空間。至近距離で見る豪華列車に胸が高鳴り、ついあの頃の憧れが蘇りました。
しかし、その年の6月末、タンジョンパガー駅はついに廃止され、マレー鉄道はウッドランド駅へと移管されることになりました。私はその最終列車の出発式にも足を運び、別れを惜しんだのですが、この背景にはシンガポールとマレーシア間の長年にわたる外交問題が関わっていると後から知りました。これを機に両国の歴史に興味を持ち、学ぶきっかけとなりました。
マレー鉄道の歴史を辿ると、マレー半島に錫の大鉱床が発見され、資源輸送のために敷設されたことが始まりだったといいます。その後、シンガポール内でも鉄道が敷かれ、1923年にはコーズウェイの完成によってシンガポールとマレーシアが陸続きでつながりました。
1965年にシンガポールが独立してからも、マレー鉄道はマレーシア鉄道公社が運営を続けていました。このため、シンガポール内でマレーシアの国有企業が土地を所有している状況が続き、これが外交上の摩擦を引き起こしていたのです。シンガポールとしてはどうにかしてその土地を移管させようとしていましたが、長年交渉は難航し、ついに2011年に合意が成立し、歴史的な問題のひとつが解決を迎えました。
私は廃線マニアでもあるので、地図上からマレー鉄道の面影を地図から探し出し、廃線跡であろう場所をさまざま探していたら、ブキティマ駅の存在を発見。かつて単線であったため、列車がすれちがえるように駅が設置されていたこの場所も、駅舎と線路が保存され、今では地元の人々の憩いの場となっています。駅舎の古びた風合いや、薄れた行き先案内板、レバーなど、至る所にノスタルジックな雰囲気が漂い、地元の人々や観光客が写真を撮るスポットとしても人気があります。
さらに現在、旧タンジョン パガー駅からウッドランド駅までの約24㎞の廃線跡は「グリーン レール コリドー」として整備が進められ、市民の散歩道やサイクリングコースとして賑わっています。また、ジュロン線などの支線跡も残っており、実はシンガポール島内にはまだ隠れた廃線跡が点在しています。
過去と現代が交差するこの場所で、週末に廃線跡を歩いてみると、きっと過去と未来をつなぐ静かな時間が流れているのを感じられることでしょう。
◆大人の社会科見学 筆者
森山 正明 大人の社会科見学シンガポール版は、シンガポールで生活している方々へ、シンガポールの奥深さを知ってもらいたい思いで活動を始めました。「3カ月も住んでいればシンガポールは飽きてしまう」と巷では言われますが、なかなかどうして、この地ならではの楽しみは、尽きることはありません。 2013年11月からこのサークル活動を始めて約11年。行ったイベントは、200回を超え、その中から読者の方にもシンガポールの文化や習俗について年中行事を軸に紹介をして参ります。 ●大人の社会科見学の電子書籍版完成! 詳細はこちらから |
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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この記事を書いた人
SingaLife編集部
シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!