【大人の社会科見学】
シンガポールで楽しむイベントその320
-シンガポールの住宅政策とHDB:国家建設の礎-

シンガポールの公営住宅システムであるHDB(Housing Development Board)は、独立後の国家建設における最も重要な政策の一つとして誕生しました。1960年代、シンガポールは深刻な住宅不足と劣悪な居住環境に直面していました。市内にはスラム街や不法占拠地区が広がり、多くの国民が不衛生で危険な環境での生活を強いられていました。
この危機的状況を打開するため、1960年にHDBが設立されました。HDBの主な目的は、国民全体に適切な住宅を提供すること、住宅所有率を向上させること、そして社会的統合と国家アイデンティティの形成を促進することでした。
シンガポール政府は「持ち家社会」の実現を目指し、様々な施策を展開してきました。特に注目すべきは中央積立基金(CPF)を活用した住宅購入支援制度です。これは給与の一部を強制的に積み立て、その資金を住宅購入に充てられるようにするもので、この制度により所得に応じた補助金と合わせて、多くのシンガポール人が自身の住宅を所有できるようになりました。


現在、シンガポール国民の約85%がHDBに居住しており、その90%以上が自身の住宅を所有しています。この高い持ち家率は世界的に見ても極めて特異な現象であり、シンガポールの社会的安定と経済成長に大きく貢献してきました。
HDBは単なる住宅供給機関ではなく、都市計画、社会統合、経済政策など、多岐にわたる国家戦略の中核を担う存在となっています。その影響はシンガポールの都市景観、社会構造、さらには国民のライフスタイルにまで及んでいます。
◆HDBの社会的役割
HDBの住宅政策には社会的統合を促進する重要な側面があります。シンガポールは中国系、マレー系、インド系など多様な民族で構成される多文化社会です。HDBでは「民族統合政策」を導入し、各住宅ブロックや地区で異なる民族がバランスよく居住するよう調整しています。これにより民族間の隔離を防ぎ、相互理解と社会的結束を強化する環境が作られています。
また、HDBの開発は単なる住宅建設にとどまらず、「ニュータウン」という自己完結型の地域共同体を形成しています。各ニュータウンには住宅だけでなく、学校、医療施設、商業施設、レクリエーション施設などが計画的に配置され、住民の生活に必要なサービスがすべて徒歩圏内に収まるよう設計されています。これにより、強いコミュニティ意識が育まれ、地域の結束力が高められています。


◆おわりに
HDBはシンガポールの過去60年間の発展を支えてきた重要な制度であり、単なる住宅政策を超えて、国民のアイデンティティ形成や社会的結束の強化に貢献してきました。社会環境の変化に応じて政策を柔軟に適応させながら、今後もシンガポールの「ホーム」としての役割を果たし続けることが期待されています。シンガポールのHDBモデルは、急速な都市化に直面する多くの国々にとって、効果的な住宅政策の参考事例となっています。
◆大人の社会科見学 筆者
森山 正明 大人の社会科見学シンガポール版は、シンガポールで生活している方々へ、シンガポールの奥深さを知ってもらいたい思いで活動を始めました。「3か月も住んでいればシンガポールは飽きてしまう」と巷では言われますが、なかなかどうして、この地ならではの楽しみは、尽きることはありません。 2013年11月からこのサークル活動を始めて約11年。行ったイベントは、200回を超え、その中から読者の方にもシンガポールの文化や習俗について年中行事を軸に紹介をして参ります。 ●大人の社会科見学の電子書籍版完成! 詳細はこちらから |
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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この記事を書いた人
SingaLife編集部
シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!