駐在夫、子を育てる-32- 多数決

これはシンガポールに駐在する妻に帯同し、“駐在夫”として家事や育児に奮闘する日々を綴ったコラムです。シンガポールのフリーマガジン「シンガライフ」誌上で連載しているものに一部加筆して、ウェブでも公開しています。

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子どもが1人生まれることは家族が2人から3人に増えることだ。子どもが2人になれば、家族が3人から4人になる。人数が増えることで、夫婦2人のときと状況が大きく異なってくる。夫婦だけの時ではあり得なかった「多数決で物事を決める」という手法が取り入れられるようになるからだ。


モモタ(仮名、生後11カ月)には、もちろん選挙権はないが、駐在夫の家の中では立派に一票を持っている。その一票が発揮されるのは、例えば「冷房を付けるか付けないか」の場面。駐在夫の妻は冷房を付けたい派で、駐在夫は冷房なしで過ごしたい派。家庭内世論が二分しているときに、妻はモモタを取り込む。モモタを抱っこして顔を見ながら「こんなに汗かいて暑いよね〜。冷房を付けようかね、モモちゃん。あ、今、手を挙げたね、そうしようね〜」という具合にだ。冷房派が2となり、冷房のスイッチがオンになる。民主主義では最終的に多数決で物事が決まるので仕方がない。

私には3歳上の兄と5歳下の妹がおり、3兄妹の環境で育った。3兄妹だと、子どもたちの中で多数派と少数派が形成されるので、子どもたちの中で社会が生まれる。「自分の考えで多数派を形成するには、兄または妹を取り込まなければならない、それにはどうしたらいいか」。小中学生にしてそんなことを考えていた。妹にはお菓子をあげておけばよかったので楽ちんだった。テレビ番組のチャンネル権を争う場面で、その賄賂(お菓子)の効果が発揮されることが多かったのだ。

ときには、子ども3人が結託して親2人の意見をひっくり返すということもあった。外食をお蕎麦屋さんにするかファミリーレストランにするか、とう場面では子ども3人が揃って「ファミレス」と主張する。扶養者であろうと、清き1票の重みは平等なのである。

冒頭の話に戻そう。モモタへの多数派工作がまだまだ甘かったと認識させられる。もう少し大きくなったら、餌付けに加えてボール遊びなどの魅力的な”賄賂”で、日頃から多数派工作に奔走しておこう。もし子どもが2人になったら、1対3という圧倒的少数派にならないことが重要になる。自分以外の3人のうち1人は常に味方になるように、多方面での取り込み工作に力を入れなければ。家庭内でも休まるときがなさそうだ。


この記事を書いた人

SingaLife編集部

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