【中国×外交】中国が世界に貸し出すパンダ。その背景にある外交的な思惑
(出所)シンガポール動物園のパンダ、ジャジャの様子(写真:unsplash/rigel)
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
シンガポール動物園のパンダのジャジャが8月14日、赤ちゃんを無事出産した。赤ちゃんパンダがシンガポールで生まれるのは初めてのことだ。
ジャジャは中国のジャイアントパンダ研究保護センターから貸与されたパンダ「フーバオ」である。ジャジャがやってきたのは2012年であり、2009年にシンガポール中国の国交樹立20年を迎えるにあたり、中国から10年の貸与が決定された。
このように、中国は世界各地の動物園にパンダを貸与する、いわゆる「パンダ外交」を展開している。パンダが外交手段として使われるようになったのは、1972年のニクソン大統領の中国への電撃訪問の時だ。毛沢東国家主席と同大統領の会談で、中国は2頭のパンダをアメリカに寄贈すると表明した。
その後、1981年に中国がワシントン条約に参加し、84年には絶滅危惧種に指定されパンダは保護すべき対象へと変わり、国際共同研究という名目で貸与へと切り替わっていった。レンタル料はつがいで年間100万ドルとされる。
日中関係でもパンダ外交が展開されてきた。1972年の日中国交正常化の際には、日中友好の証としてパンダが寄贈された。諸外国に比べて、2017年に上野動物園でシャンシャンが一般公開された際には、メディアが連日報じ、見物には長蛇の列ができるほどだった。親パンダは中国から借りているため、シャンシャンの所有権は中国にある。
中国は21世紀に経済力を付け、国際政治における影響力は一段と増した。しかし、同じく大国である米国と比べて、足りないのはソフトパワーだと言われている。パンダ外交は中国のソフトパワー外交のそのさきがけとも言える存在だ。
パンダがいる動物園は人気となり来客数も増え、地元経済にも裨益する側面がある。ドイツのメルケル首相はパンダを「愉快な外交官」と表現したことがある。
中国は、ここぞ、という時に様々な外交懸案とパッケージにしてパンダを活用する。それゆえに、「高度に政治化された動物」とも言われている。
*2021年8月31日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。
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この記事を書いた人
SingaLife編集部
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