駐在夫、子を育てる-41- 視点

これはシンガポールに駐在する妻に帯同し、“駐在夫”として家事や育児に奮闘する日々を綴ったコラムです。シンガポールのフリーマガジン「シンガライフ」誌上で連載しているものに一部加筆して、ウェブでも公開しています。

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人生の中でそれまで自分が持っていた視点ががらっと変わるタイミングがいくつかあると思う。成人になったタイミング、働き始めたタイミング、結婚したタイミングなどなど。けれど、その最たるものが子育てではなかろうか。


子どもが生まれると、住む街の見方も飲食店の選び方も移動手段の選択も、子どもが中心になる。最寄駅から自宅までの経路だって、少し遠回りするルートに変えることがある。

現在住んでいるコンドミニアムから徒歩1分の距離に小さな公園がある。その公園は、コンドミニアムに駐在夫とその妻が入居してあとにできた。モモタ(仮名、1歳)が生まれるまでは、その公園に対して「ああ、あるな」ぐらいで特になにも感じていなかった。が、モモタが歩き始めた最近では「この公園があってよかった」としみじみと思う。

モモタを安全に遊ばせることができる公園の存在の有り難みは、モモタがいなければ感じることはなかっただろう。

レストランを選ぶ際には「チャイルドシートがあるか」「ベビーカーを持ち込める広さかどうか」という視点になる。「本当はあそこのレストランに行きたいのだけれど、子どもを連れてだと少し厳しいか。ならこっちにせざるを得ないか」と、シンガポールはお店も人も総じて子どもに優しいお国柄ではあるものの、引け目を少し感じてしまう。

驚くことにバス車内の立ち位置だって変わってしまう。ベビーカーを押してバスに乗ろうとするとき、車内に設けられているベビーカーや車椅子の優先スペースに人が立っていると「うわー、できればどいてくれないかなー、ベビーカーを窓際にある器具で固定したいんだよなー」と思っている。

これまでは自分1人のときはそのスペースに立っていたが、そのスペースは避けて、車内の奥へと入るようにしている。

視点が変わるのは私だけではないはずだ。その証拠にかつては東京港区のタワマンに住みたい!と主張していた駐在夫の妻が、いまでは「(日本に本帰国してから)住むなら庭付きの一軒家が良いかもね。山梨県はどうかな。自然も多いし」と言い始めた。驚愕である。地価で言えば、1坪当たり港区は1321万円。山梨県は22万円。その差はおよそ60倍数である。

ここまで視点を変えてしまう子の存在。偉大だ。


この記事を書いた人

SingaLife編集部

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