日本入国時の検疫で1歳の子どもがコロナ陽性!?試される夫婦の絆。シンガポール出国前は子どものコロナ検査を強くオススメ。21年11月の一時帰国体験記

※この記事は、2021年11月にシンガポールから日本へ一時帰国した日本人家族の話です。家族の事情で一時帰国せざるを得なくなり、帰国をしました。シンガポール出国時や日本到着時の措置などは、すべて当時の状況で記しています。現在では、検査手法や入国時の制度が変わっている可能性がありますので、ご自身で状況をお調べください。

世界では、入国時の隔離なしでの渡航を開始し始めている国がある一方で、新型コロナウイルスの水際対策がまだまだ厳しい日本。私たち家族がシンガポールから日本へ一時帰国をした2021年11月の段階では、日本到着時に、幼児を含めて全員を対象に、コロナウイルス検査がされます。

その検査で、1歳の子どもがまさかの陽性に。そして、それは夫婦関係にひびが入りかねない事態へと発展します。ですので、シンガポールを出国する前には、子どももPCR(ART)検査をしておいた方がいい、それを強く強くおすすめしますという記事です。

長文ですが、お読みいただければ幸いです。




1歳になった息子の陰性証明は取らず


今回の一時帰国は、我々夫婦と1歳になった息子の3人。当時、日本の厚生労働省が定めていた規制は、

・大人はシンガポール出国前72時間以内に実施したPCR検査の陰性証明を取得
・子どもも検査証明書を取得するようお願いしている

というものでした。

ただ、
・子ども(おおむね6歳未満)に関しては、当該監護者(つまり親)が陰性の検査証明書を所持している場合には、検査証明書を所持していなくてもよいものと取り扱う

とのこと。

出典:厚生労働省ウェブサイト

要するに親が陰性証明書を持っているのであれば、6歳未満の子どもは出国前に検査を受けなくてOKということだ。なので、1歳の息子はもちろん検査を受けずに日本へと出発することとなった。出国審査は 問題なく終わった。


鼻の穴に綿棒で大泣き


およそ7時間のフライトの機内。深夜便にも関わらず、息子は飛行機内を走り回り、座席周りのスイッチをいじりまくり、元気いっぱいに過ごしていた。対照的に、親はぐったり。

そして、日本に到着して検疫が始まる。大人は唾液を採取して感染の有無を調べる方法だ。対照的に、子どもは鼻の穴に綿棒を入れる方法で検査を行う、とのこと。唾液を試験管に溜めるなんてことは、ほぼ不可能だからだろう。

大人でも顔をしかめるほど不快感がある、あの検査手法。子どもにとっても、痛いに決まっている。さらに暴れないように、顔も手足も押さえつけられているのだから。

検査官の先生が、鼻に綿棒を突っ込むと、痛さで大泣きする息子。ただ、検査自体は数十秒で終わり。

幸いにも、5分後には泣き止んだ。喉元過ぎればなんとやら、で、空港のベンチや自動販売機、動く歩道に興味が移る。バシバシ叩き回る。「元気だなぁ、この人は」。そんなことを思っていた。この時は、まさか陽性判定を受けるなど頭の片隅にもなかったのだから・・・


まさかの陽性判定


検査結果が出るまでは、待合スペースのような場所で待たされることとなる。

同じフライトで到着した人たちの検査結果が次々と陰性判定となり、次のステップ(入国審査)に進む中、我々だけがOKの判定が出ず待たされる。かれこれ30分以上経過している。

「なんか変だな」と思いながら待っていると、係員さんがそっと近づいてきて。

「お子さんのことで、お伝えしたいことがあります。別室へご移動してもらえますか」と。

予期せぬ一言。一瞬固まってしまった。

心の中では「え!まじ、なんで?どうして?やべー」という言葉がぐるぐると回っているものの、顔には出さずに冷静に「そうですか、わかりました」と答えた。

そこから歩いて移動した先が、入国審査の脇にある医務室。歩いて移動しているおよそ5分間、先導してくれたスタッフさんは一言も言葉を発さず。私たち夫婦も沈黙。

息子だけがきょろきょろ周りを見渡しては、目に入るものを指差して「だぁ」とか「ばぁ」とか声を発している。相変わらず元気だ。

そして医務室に到着。防護服を着た検査官に告げられた。「お子さんから新型コロナウイルスの陽性判定が出ました」と。


決断のとき、迫る

私たち夫婦は「陰性」。子どもだけが陽性。陽性の場合は、すぐに隔離ホテルへと移動しなければならない。

1歳の子どもだけで隔離生活をするのは、もちろん不可能なので、親が一緒に隔離ホテルに入所しなければならない。
※隔離ホテルに入ることを「入所」、隔離が終わり離れることを「退所」というようだ。

ここで早くも決断のときが訪れる。

「隔離ホテルに入るのは、夫婦どちらか1人だけでもいいですし、もちろん2人でも構いません。いま選んでください。隔離期間は最低10日間。部屋はおそらくツインになると思います」と検査官の先生が説明してくれる。

なんと、1人だけという選択肢もあるのか。これは試されている。なにを。夫婦仲をだ。

もちろん「2人で入ります」が正しいように思うが、そうでもないことをのちに聞かされる。


2人一緒に隔離。部屋には絶望感しかなかった


「夫婦2人も一緒に隔離ホテルに入所します」と告げて、ホテルへと移動。入国審査を通らずに、関係者出入り口から外に出る。ワゴン車に乗せられて、空港近くのホテルへ。 

ホテルに着けば、すぐに部屋へ入室。案内された部屋は、かなり狭い。ウェブサイトには、部屋の広さが14㎡と書かれている。そこで大人2人と子ども(1歳児)が10日間過ごすことになる。

容易に想像できるだろう。狭い部屋ですぐに飽きて、泣き出すであろう息子。そして、それにイラつきを募らせる妻。泣き止ませようとしても部屋から出ることも、窓も開かずで途方に暮れる夫(筆者)。

逃げ場のない時間が、240時間も続くのだ。会話は丸聞こえ、トイレの音だって丸聞こえ。

どうしたものか。14㎡の部屋には絶望感しかなかった。


念押しと衝撃的な注意事項


怪訝な顔を察知したのか、案内してくれたスタッフが再度念押しをしてくれる。「本当にいいんですね、2人とも一緒に隔離で」と。

「はい」と答える私たち。そこに追い討ちをかけるかのように告げられる。

「10日後に3人の検査をします。その検査でもし両親のどちらかが陽性だった場合、10日間の隔離延長となります。そして、その10日後に再度検査をして、まだ陽性だった場合、さらに10日間の隔離で、合計30日間となります」

すごく丁寧な説明ではあったものの、内容が衝撃的すぎた。

唖然とするほかなかった。そんなことがあるのか。あってたまるものか。今回の一時帰国の滞在期間は、そもそも32日間の予定なのだ。そのうち30日間が隔離だなんて、そんな馬鹿な話があるのだろうか。普段は全く信仰心がないが、神に祈った。

「実際にそういったケースも出ています。両親は子どもからの感染を予防するために室内でもマスクを着用しておくことをおすすめします」そう言って、部屋のドアが閉められた。

いくらマスクをしたところで窓も開かないこの部屋で、感染予防などできるのだろうか。持っているマスクは、50枚20ドル程度の安いものである。


そもそもの予定


そもそもの予定では、私たちは日本に到着後、あらかじめ予約していたハイヤーで私(筆者)の実家に移動し、そこで14日間の隔離期間を過ごす予定だった。実家は、庭付きの平屋でとても快適に過ごすことができる。

もし私か妻のどちらかと、息子という組み合わせで隔離ホテルに入所した場合、外界にいる方はこの快適な生活を享受できる。残された方は、活動期の息子と1対1で向き合い、「外に遊びにいく」という強力な武器も使えずに、10日間を過ごすのはかなりしんどいが、それでも夫婦間の犠牲は最小限に抑えられるだろうという目論見があった。

2人で入所した場合、対息子の負担は確かに減るものの、対配偶者への気配りも必要となり、結果的に、夫婦仲が最悪の状態になるだろうことは予想できた。

ただ、妻を残して、私が自分の実家でのほほんと過ごすわけにもいかない。妻の意向を尋ねると「2人で入所しよう」との答えだったので、2人ともが入所することになったのだ。このやりとりは医務室で交わされた。


数時間で早くも限界の兆し


話は隔離ホテルの場面に戻る。入所してしまえば、あとはそこで少なくとも240時間を過ごす以外に選択肢はない。もしかしたら480時間、いや720時間の可能性もあるが。。。

深夜のフライトから始まり、検査結果の説明と隔離ホテルへの移動まで。一連の流れの緊張感が途切れ、どっと疲れが押し寄せる。

「風呂にでも入ろう」。ビジネスホテル特有の狭めのユニットバスにお湯を溜め、息子と一緒に風呂に入る。湯船で足を伸ばすなんてことはもちろんできない。が、汗を流せばさっぱりする。お風呂から上がった息子は、まだまだ元気。早速部屋の備品で遊び始める。まずは、スリッパ。つぎに、靴べら。それらを使って、部屋の壁を叩いている。ガンガンガン、と。これがあと何時間続くのだろう、早くも自分の限界がみえてくるのだった。


鳴り響いた内線電話、嫌な予感が胸をよぎる


事態が急転したのは、入所して3〜4時間経過したころだっただろうか。相変わらず息子は、ガンガンガンと壁を叩いている。

そんな状況で、部屋に備え付けの内線電話が鳴り響いた。応対した妻が言うには「さっきの検査官の方からで、息子に関して伝えたいことがあるので、部屋に今から行ってもいいか」という内容だったそうだ。

嫌な予感が胸をよぎる。「冷静になれよ、ミ・アミーゴ」とかつてのヒット曲の歌詞が頭に一瞬浮かぶ。

予期せぬ展開。「ひょっとして新たな変異株でも見つかり、入院措置に切り替わるのだろうか」「息子の今後はどうなるのか」不安が頭をよぎる。それはそうだろう。事態が好転する材料などどこにも見当たらない。不安しかない。

そして検査官の先生が部屋にやってきた。


事態急転。神のお告げが突如


部屋に入ってきた検査官の先生を見た時に抱いた違和感。「え、防護服は?さっきまで着ていたのに、どうしたの?」だった。

そして先生が驚愕の言葉を口にする。「息子さんは陰性でした。今すぐにここを退所することができます」

!!!!!!

ビックリマークがいくつあっても足りないぐらいの衝撃度。なんと、陰性とは。そして退所できるとは。部屋には歓声が上がった。きょとんとする息子。壁を叩くのは止めていた。

先ほどの神への祈りが通じたようだ。神様ありがとう。

先生の説明を要約すると、検査方法には主に2種類あり、
Aの検査方法は、精度はそこそこだけど、結果が出るまでの時間が早い
Bの検査方法は、精度が高いけれど、結果が出るまでの時間が遅い
ということだそうだ。

息子の検査は、到着時にはAの方法で行い、結果は陽性だった。そして、Bの方法で再検査をしたところ、陰性となった。この場合はBの検査結果を尊重する仕組みとなっているらしい。

何はともあれ、退所できるので感謝。

エナジェティックな息子を見て疑念を抱く


では、なぜ先生は再検査をしてくれたのか。

それは「新型コロナウイルスに感染しているにしては、息子があまりに元気(エナジェティック)だったから」だそうだ。

先生が言うには、新型コロナウイルスに感染している子どもは何らかの症状が出ていることがあるそうだ。その症状は、発熱や乾いた咳など。

国立成育医療研究センターの新型コロナQ&Aにもそのように記載されている。

検査結果を待つスペースで歩き回り、結果が告げられた医務室ではおもちゃを振り回す。あまりに元気だったため、先生に疑念が湧き、残された検体で「再検査」をしてくれたとのこと。

なんということでしょう。

先生は「こちらのミスです」と謝ってくれたが、私たちとしては「先生、再検査してくれてありがとうございます」という思いしかない。「最初から陰性だったら隔離ホテルに入ることもないし、時間を浪費することもなかったのにっ!」などと非難する気持ちなど微塵もないのだった。

怒りの感情は一切ない、まるで仏の境地。先ほどは神に祈り、今は仏の境地。ご都合主義も極まれりである。

そして息子よ、元気に駆け回ってくれてありがとう。「走り回らないの!大人しくしていなさい!」などと注意してごめんよ。

「あなたの元気さのおかげで、隔離ホテルから退所することができるのだよ」と言葉が通じない1歳児に語りかける。笑っている1歳児。


退所、そして当初の通り自主隔離へ


こうして隔離ホテルでの生活は唐突に終わりを迎えた。

ホテルでの滞在時間は4時間ほど。だが、肉体的・精神的疲労度はかなりのものだった。

元々手配をしていた感染対策が施されたハイヤーを再び呼び、実家へ移動。そして自主隔離の暮らしが始まった。


子どもの検査もしておくべき


今回のケースは、再検査によって陰性が確認されたため、すぐに退所することができたが、あのまま少なくとも10日間過ごすことになっていたらどうなっていただろうか。

考えただけでも恐ろしい。

ただ、実際に子どもと一緒に隔離ホテルに入所している家族がいることは事実で、それはあまりに悲劇的である。

なので、私はシンガポール出国前には子どもも検査をしておくべき、と強くお勧めする。万が一、シンガポールから出国ができなくなっても、シンガポールでの療養生活は、日本到着後の隔離ホテル缶詰よりは快適なはずだ。


終わりに

決して入国時の検疫体制をもっとちゃんとしろ、などと非難しているわけではありません。むしろ感謝をしています。ただ、あのまま10日間を隔離ホテルで過ごしたならば、きっといまこの記事を書けてはいないでしょう。

ただただお伝えしたいのは、子どももシンガポール出国前に新型コロナの感染検査をしておくべき、ということです。子どもが陽性であることで、夫婦仲が険悪化し、ひいては今後の2人の関係性に大きな影響を与えていたはずです。それを避けられるのであれば、シンガポールでのPCR検査の費用(高くて$200ぐらいだろうか)など、安いものです。どうか、みなさまが日本入国時の検疫で陽性反応にならないように。神に祈っています。





この記事を書いた人

SingaLife編集部

シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!

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