【新興国企業×グローバル化】三井物産も出資する、病院経営でグローバル展開を図るマレーシア発IHH Healthcare

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

企業のグローバル化と言えば、先進国の企業だと思い込みがちだ。しかし最近は、新興国企業の展開に要注目だ。

そうした企業は東南アジアに結構あり、タイにはPET樹脂製造で世界最大手となったIndorama Venturers、ベトナムの通信会社Viettelは中南米やアフリカ大陸にも進出済みだ。

他にもいくつかあるのだが、今回は筆者が長年注目しているマレーシアのIHH Healthcareを取り上げたい。サービス業、とりわけ、先進国のイメージの強いヘルスケア分野でグローバル化している点が注目される。

IHH Healthcareは2010年に設立、2012年にマレーシアとシンガポールに上場し、病院経営分野では世界有数の時価総額を誇る企業だ。マレーシアではパンタイ、パークウエイ、グレンイーグルス、プリンスコートといった病院を所有、運営している。

IHHは本拠のマレーシア以外に、シンガポール、トルコ、インド、中国、香港、ブルネイ、ブルガリア、北マケドニア、オランダ、セルビアと10か国・地域に進出している。筆頭株主は、三井物産が100%出資するMBK Healthcare Management社、続いてマレーシア国営投資会社カザナ・ナショナル子会社Pulau Memutik Venturesである。

IHHが進出している国々をみると、マレーシアとほぼ同程度の上位中所得国であるトルコ、ブルガリア、中国、セルビアといった国々の存在感が大きい。高所得国はオランダ、シンガポールとブルネイに進出している。

外国進出パターンは、各地でチェーン展開をしている病院を傘下に納めるという形が目立つ。トルコのアジバデム病院は、周辺のセルビア、ルーマニア、ブルガリア、北マケドニア、オランダに拠点を持つ。

インドではデリー、ムンバイ、コルカタを中心に展開するフォルティスが傘下にあり、今後の同国の経済成長に伴いビジネスの拡大が期待される。シンガポールでお馴染みのグレンイーグルスは、インド、中国、香港にも病院を持つ。

今後、新興国を拠点とする企業のグローバル化は一段と進むであろうし、先進国に進出して存在感を示すことも珍しい事ではなくなっていくだろう。IHH Healthcareのように、従来であれば先進国が強みを持つはずの分野で強みを持つ企業も登場していくと予想される。


*2022年3月29日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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