第三回【飲食業界】シンガポールの飲食王!松本尚氏に訊く起業成功の濃縮メソッド

シンガポール起業ガイド連載 第3回目は、シンガポールの起業家インタビューとして、松本尚氏にお話をお伺いしました。シンガポールで起業を希望している人にとっては、憧れてしまうようなエピソードも。しのぎを削るシンガポールの飲食業界で生き残るために必要なものとは。





起業家・松本尚氏プロフィール

松本尚(まつもと・ひさし)氏 

起業家。シンガポール島内に「焼肉王」「魚王魚王」「和食五縁」など14店舗を経営。味・クオリティ共に高評価の和牛や刺し盛りをリーズナブルな価格で楽しめると評判に。オリジナルの豚骨カレーを考案・発売した際にはシンガポール最大手の新聞「The Straits Times」に掲載され、シンガポール人による列ができるほどの話題に。「女子会」のオリジネーターとしてヒットを飛ばした経験も。



起業をしたきっかけは?

日本でやりたいことが、もうないからかな(笑)。以前は日本の最大手の飲食企業を仕切っていたから。月に使えるお金が1億円ぐらいあって。業界の流れも作ることができたし、やれることは全部やってきたので、日本で更にやりたいことはないですね。

日本で仕事をしているとどの業界でもサラリーマンは政治闘争みたいなものがあったりするじゃないですか。「◯◯派」みたいなグループが。そういうしがらみが海外にはないし、好き勝手できるし。これは0から1を作る作業。すべて自分で責任を取らないといけないからそのほうが生きてる感じがしていいかなと。

あとは、自分のマーケティング理論が通用するか試したかったかな。海外に行くとしたら、香港かNY、シンガポールだと思いました。起業するときには、全く誰も知り合いがいないっていう状態では始められないので。シンガポールにも繋がりはありました。40歳前に動かなくちゃとは思ってました。安い給料で雇われたらダメだと思ったから、やってやろうと思いましたね。


日本からシンガポールに来た当初からヒットを飛ばす

38歳の時にシンガポールに来て、2022年の4月で9年目になりました。

日本にいた頃に「成功したな」と思ったことですか?色々ありますが、目立つのは「女子会」という言葉を考えて受賞したことかな。どうして商標登録とらなかったんだって会長から凄く怒られましたね(苦笑)。広まってしまった言葉だから取れないしね。

シンガポールでは、最初はフードコートに出店しました。シンガポール人の食のマーケティングをしていたら、日本と一緒でSNSが好きだから食べ物の写真を撮りたがることに目をつけました。それで、メニューの写真よりも(実際にテーブルに運ばれる)現物のサイズを大きくするようにして、サプライズを提供できるように工夫しました。

シンガポールの料理は、豚ベースが多いんですよ。豚と鶏が半々ぐらいで、プラスして魚がある感じ。自分のところでは豚骨スープ作って、それをベースにカレーを作ったんですよ。それが当たって。「The Straits Times」に掲載されました。お客さんの列が100mにはなったかな。4坪で客単価はS$6ほどのフードコートの店だったけれど、S$12万売り上げました。家賃上限を決めた契約にしたので、かなり儲かりました。

シンガポールでのニーズは、値段や味を分析して、数値化すればわかります。昔からグルメだった?なんて訊かれたりしますが、全然ですね。食べ歩きとかはしていないです。一番好きなのは魚かな。カレーを始めたときは、まだ日本のカレーの店自体が他になかったんです。シンガポールで好まれる味覚の傾向としては、とうがらし由来の辛味はOKなんだけど、塩辛いのはNG。だから、日本人好みの塩加減だと失敗しますね。逆に、シンガポール人が好む塩の量だと、日本人にとっては物足りないと思いますね。そういう舌になってるんですね。

レストランでは焼肉王が有名になりました、絶妙な価格レンジにしたと自負しています。利益率30%を超える超優良店ですね。魚王魚王でいえば、刺盛りが一番人気です。刺身の店なんで。原価率80%近い破壊力のある刺盛です。これを食べたらほかの店で刺盛は高すぎると感じると思いますよ。

松本さん「シンガポールで、どの店でもこの値段では食べられないと思います。唯一無二です、これは」


人生の転機となったこと

哲学者でもある昔の嫁さんに会ったことですかね。フリーターだった頃、10代のときにバイト先で知り合った女性です。色々根幹の部分を教わりました。20代は、仕事だけやれ。基礎は絶対作っておけって言われましたね。基礎ができた30代は羽ばたけと。自分なりにどうしたらダメサラリーマンにならなくてすむかって考えたら、結果を出すしかない。結果を示すには売上しかない。売り上げて利益を出すにはどうしたらいいのか?自問自答していたんです。なんでもそこに原因があるだろうと推測して行動するのが若いときのルーティンでした。

帝国ホテルで働いていた時期もあったのですが、そのときは真面目に料理に向き合ってました。そこで1日15時間とか16時間働いて、給料が15万円だったり。「自分は何が欲しいんだろう」突き詰めて考えたとき、それがお金だと気づきました。


上手くいかなかったこと。そして悩み

上手くいかなかったことは数多くありますよ。昔は本も読んだりして勉強もしたけど特に役に立たないし、誰かに相談したりもしないですね。自分でマーケティングの研究をして、数値化をして、やり方を考えるだけ。PDCAサイクルをずっと回してるだけ、失敗の数ほど成功の種になるでしょう。

ローカルスタッフを雇うことに関しても悩みはないですね。コミュニケーションをとるのもスムーズですし、一緒に働く際にもストレスが少ないです。今の悩みですか?心が暇ってことですかね(笑)。いや、本当は、やりたいことはもちろんいろいろありますよ。


私の戦い方は…

簡単です。例えば、焼き肉で言えば、普通、平均客単価はS$150ぐらいなんですよ。その単価をS$50ぐらいまで押し下げる。S$80以下にすると食事2回分になりますね。クオリティは高くして、提供する。コスパのいい価格で美味しい和牛を食べることができるんです。日本の相場感だと3,000円ぐらいなんですね。でも、シンガポールだと8,000円から1万円ぐらいが当たり前になっちゃうでしょう。かといって、安い値段で不味い肉を出すわけにもいかない。分析していくと、空白のゾーンが大体あるんで、そこに入ったことで売れましたね。要するに、その物事のクオリティを価格で動かし、他との比較でよりよい価値として提供する戦い方になります。

うちが使うのは和牛ですけど、たとえばサーロインは1㎏S$120ぐらいで高いです。なので、一頭買いをすることで半額ぐらいにはなります。肉を解体する手間はありますがさまざまな部位、味の肉を提供でき、かつ安くなる、だから他より安くおいしいものを提供できる。大量に購入して値段を下げるのは、大手で働いていたことがあれば当たり前のことですし、飲食で長年経験してきたので、調理方法も詳しいですから。

今後の問題としては、世界的なインフレの流れになっているので物価、給料、エネルギーなど全てのコストが上昇していくことになるのでどう対処していくかでしょう。

2022年春、海外製品は一斉に値上がりしましたが日本製品は一切値上げ要請がなかったですね。為替レートがあるにせよ。日本人は値上げができないんですよ。日本では、10円の値上げで売り上げが1割落ちるんです。売上が下がることが怖いんでしょう。日本人のマインド自体が「より安くいきたい」なんですね。そして給料は上がらない、だから安いものに流れるという社会ができています。

僕はシンガポールにきて考え方が変わりましたね。シンガポールのほとんどのお客さんは、多少の価格上昇は気にしていないし、従業員の給料を上げることに全く抵抗もありません。正常な形だと思いますね。流れに乗るという選択をするのも戦い方の一つですね。


今後のビジョンについて

欲しいものはひと通り手に入れてしまったというか。20代から仕事で成功して、やりきった感があるというか……。自由に好きなことをしたい。でも、物事って経験していくと刺激がなくなっていくじゃないですか。楽しいこと?昔からの仲間と飲むとか、素敵な女性を口説くとか(笑)。あとは、50歳前にもう一度1から店を作りたいですね。シンガポールが好きかと訊かれたら、特に好きでもないです。日本は好きですよ。消費者としては最高の国だと思います。

引退した後、沖縄あたりもいいかな。家を買って、犬飼って。働かないと死んじゃうんで、働くとは思うけど。こっちで大金持ちともたくさん知り合いましたけど、みんなやりたいことを探してるんですよ。金儲けが好きな人は金儲けに走るし、体を鍛えるのが好きな人は鍛えるし。平凡って言葉が似合わないって言われますけど、46歳にもなれば多少丸くなるんですよ(笑)。


シンガポールで成功するための秘訣

「魚王魚王」には「アルコールオーダープライス」があって、飲むと安くなるシステムです。これもひとつのやり方で、シンガポールの店で一番切実な問題は、半分以上を占めるローカルのお客さんの大半がお酒を飲まないことなんです。刺身と一緒にグリーンティとか飲んじゃう(笑)。それを防止したくて「酒を飲まない人は入れない」という形ではなく、お酒を頼むと価格が下がるように設定しました。

超お得な刺し盛りは看板メニューなので、絶対的に美味しくないとダメです。原価率が50%超えた時点で一気にお得感が上がっています。30%はありがちなんです。50%を超えると「凄くない?」っていう感じで、80%を超えると追随できないです。でも、そうすると儲けが出ないんで、他の部分で補います。メニューの組み方や1%はなんでも1%がという考え方が大事ですね。

それから、この店舗は家賃が安い。電気メーターがないから、電気代も払わなくてOK(笑)。あと、ガスも使えない。ちなみにクーラー代はモール持ち。古いモールはたいていそうなんです。「○○プラザ」って名前のところは古い物件で、ほとんどそういうことになっています(笑)。

そういう細かなところも1%ですから、日本でも原価や人件費というただの1%の数字に固執して、ダメになっていく例はたくさん見てきましたので、総合的に複合的に考えていく柔軟な発想があったほうがいいんじゃないでしょうか。


シンガポールで起業したい人へのメッセージ

今、シンガポールは給料が上がっているので、価格を上げて、コストに見合わない無駄なオペレーションを切り離していくようにしています。

当然値上げするとお客さんは減るけど、客単価で調整されているので問題はありませんね。

一時的に客数が減っても、世の中がその流れなのでそのうちそれが当たり前となって100に戻るでしょう。インフレはまだ続くでしょうから、日本みたいに社員に肩代わりさせるわけにはいきません。仮にそうしてしまったら、シンガポール人は簡単に辞めてしまう。シンガポールでやっていくにはシンガポール人というマンパワーをうまくコントロールする必要があるでしょう。

日本の価値観や発想は国が違うので、見方を変えていかないうまくいかないと思います。

日本と違って、ここシンガポールはしがらみがないのがいい。人間関係も自由ですね。これから起業する人へのメッセージを贈るとすれば、能力と資金はある程度必要だと思います。ここは気候もいいし良い国なのですが、商売に関しては相当シビアです。能力があるか、仮になかったとしてもそれを補う財力があるか。何か秀でているものがないと難しいかもしれないですね。やる気と根性だけではまず無理でしょう。

私自身の仕事に関しては、トータルで管理しています。優秀な人は多いけれど、飲食業界では自分より優秀な人を見たことがないので。

日本からシンガポールに来て、自分が考えた勝ち筋のシナリオは、こちらでも通じると思いました。言ってみれば「Value for money」です。 代金を払ってもらうことと引き換えに提供する食事に対し、どれだけ満足して貰えるか?ということですね。他の店がうちの店の仕組みを真似できれば凄いと思います。そのしかけはさすがに企業秘密ですね(笑)。ちなみにコンサルティング料は無料で請け負っております。一杯の酒で、飲食の「本質と戦い方」をいくらでもお話ししますよ。



予告

スパッとキレの良い話し方、綿密なリサーチ、顧客のニーズを的確に察知するキャッチーなセンスで流行りの店を次々とプロデュースする松本さん。是非、皆さんも店舗に足を運んでみてはいかがでしょうか。

今後、シンガポールの各業界の起業家インタビュー記事や成功の秘訣などの関連記事を公開予定です。お見逃しなく!

魚王魚王(うおうお・UOUO)
住所:61 Bencoolen st sunshine plaza 01-18/19/20 Singapore 189652
営業時間:11:30-14:30,17:00-23:00
定休日:無 
電話番号:6970 5359
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この記事を書いた人

SingaLife編集部

シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!